ビューティ

「前髪」はもはやメイクより大事! 若年層がこだわる理由とは?

 「若い女性たちにとって『前髪』は、ヘアスタイルというより、もはやメイクに近い存在なんです」。マンダムの新製品イベントでこの話を聞いた時、正直いって少々驚いた。若い女性たちが美容でまず関心を持つのは「メイク」というのは分かる。ヘアスタイルやアレンジによって「かわいい髪型」を演出したいのも理解できる。でも、なんで、「あえて『前髪』限定!?」と。

 これには、若い世代特有のコミュニケーション法が関係している。10代~20代の女性たちは、コミュニケーションツールとしてスマホを駆使し、SNSのアイコンやインスタグラムで日々の生活を発信するために、自撮りをする機会が多い。

 「マンダムが2020年に15歳~29歳の女性442人を対象に行ったインターネット調査によると、『SNS にアップ予定の写真を撮る直前に、確認したいポイントはどこか』という質問に対して、1位は『前髪が整っているか』の57.7%。2位は『髪型(全体)が整っているか』の48.0%。3位以下にようやく、ポイントメイクが崩れていないか、肌がテカっていないかなど、メイクに関する回答が登場します」(上水文マンダム広報担当)と語る。

 また、「写真を撮る直前にやってしまうこと」をたずねると、「前髪を整える」が断トツ1位の74.7%。2位に「リップや口紅を塗る」(56.3%)がランクインしているが、続く3位は「サイドの髪を耳にかける」(30.8%)、4位は「髪の毛先を整える」(28.3%)と、ここでもヘアスタイル関連の回答が上位を占めた。

 個人的な感覚だが、恐らく30代以降の女性が写真を撮る前にやることといえば、「リップをつける」「ファンデーションでテカリを抑える」など、いわゆる「メイク直し」ではないかと思う。一方でなぜ、若い世代において、こんなにもヘアスタイル……とりわけ「前髪」が重視されるのだろうか?

肌は加工できるけれど、
前髪は修正が難しい

 「若い女性たちの間では、スマホで写真を撮る際『ビューティー系アプリ』を使い、加工するのが当たり前になっています。肌を明るくしたり、目を大きく見せたりするなど、撮影後に顔はいくらでも加工できます。しかし髪だけは、加工するとどうしても不自然な印象になってしまうんです」と上水広報担当。

 なるほど。確かに直接対面で会うコミュニケーションの場合、肌の質感や髪全体の印象など「立体的な要素」が印象を左右するもの。しかしSNSのアイコンやインスタグラムの写真は「平面」であり、それゆえに髪……特に「前髪」の重要度が高まるという。

 「平面の顔写真では前髪の占める面積が多く、顔の一部として印象を左右するパーツです。しかも加工が難しいとなると、最も前髪が気になるのもうなづけます。同じ意識調査で『SNSにアップ予定の写真で、自分の映りを気にするポイント』をたずねると、やはり1位は『前髪が乱れていないか』(48.2%)という回答でした」(上水広報担当)

 映りを気にするポイントも、前髪が1位、髪型が2位と、ヘアスタイル関連の回答が上位を占めた。個人的に「表情がかわいく映っているか」よりも、髪型のほうが気になることが意外だったけれど、「表情に関しては、後々加工できるのはもちろんのこと、最近の女性は『キメ顔』といいますか、自分が最も美しく見えるお気に入りの角度があるんです」という上水広報担当の言葉に、再びなるほどと深く頷いてしまった。

「前髪コスメ」は、
美容業界のブルーオーシャンか?

 そんな若い女性たちの前髪へのこだわりにいち早く注目し、マンダムからこの春誕生したのが「ルシードエル(LUCIDO-L)♯髪のベタつきリセットスプレー」だ。2種類のパウダーを配合し、ベタつきやテカリの元となる汗や皮脂を吸着。夕方になるとべたついて、束になってしまう前髪をリセットし、サラサラの質感へと導くことを目的としている。

 朝のスタイリング時に束感予防として使うのはもちろん、トップをふんわり立ち上げるのにも活躍。70gの小型サイズで、バッグの中にポンと忍ばせやすく、外出先で自撮りをする前に手軽にスプレー出来るという、若い女性たちのライフスタイルに添ったアイテムだ。

 一方、本来はフェイスバウダーでありながら「前髪にも使える」として、口コミでブレイクしたのが「イニスフリー(INNISFREE) ノーセバム ミネラルパウダー」である。火付け役は、Kポップのアーティスト。2019年の夏に「ダンスの練習時に使うと、汗をかいても前髪が崩れにくい」という情報がSNSを通じて拡散し、ヒットにつながったという。18年のブランド上陸時から存在するアイテムだが、19年度は売り上げが1億3300万円増加し、成長率は493%というから驚きだ。こちらの製品も、持ち運びしやすい小型サイズで、外出先でも使えることが人気の理由という。

 このような前髪専用アイテムの登場や、本来はフェイスパウダーなのに前髪に使えることでヒットした製品が存在することから、確かに若い女性たちの間で「前髪コスメ」へのニーズが一定数あるように思う。

 ちなみに、この「前髪の話し」を身近な若い女性に振ってみたところ、一様に情熱的な反応で驚いた。我が家のアシスタント(19歳と22歳、ともに学生)は、「前髪、すごい大事です! 前髪が決まらない日は、1日ブルーなんです」「高校時代プリを撮る前には、みんな絶対前髪を直してました」「就活で強制的に前髪をまとめていた時は、本当に苦痛だったです」と、前髪エピソードが止まらなくなってしまった。仕事で会った代理店の女性(20代半ば)も同じく「前髪が決まらないと1日ブルー」といい、「前髪用のコスメがあったんですね! 帰りにドラッグストアに寄ってチェックします」と、メモを取っていたほど。

 いやはや、ごく身近な、狭い範囲の経験ではあるけれど、若い女性の前髪への熱量は、確かに私たちの世代とは違うらしい。そして、前髪用のプロダクトは現在のところ、まだまだニッチな存在であり、ある種ブルーオーシャンであるとも思う(フェイスパウダーを前髪に使っている人がいるくらいなので)

 今後前髪にフォーカスしたアイテムが増加するのか? はたまたビューティアプリの加工技術が進化して、より自然な前髪の演出が可能になるのか。若い女性をめぐる「前髪事情」から、しばらく目が離せない。

宇野ナミコ:美容ライター。1972年静岡生まれ。日本大学芸術学部卒業後、女性誌の美容班アシスタントを経て独立。雑誌、広告、ウェブなどで美容の記事を執筆。スキンケアを中心に、メイクアップ、ヘアケア、フレグランス、美容医療まで担当分野は幅広く、美容のトレンドを発信する一方で丹念な取材をもとにしたインタビュー記事も手掛ける

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