「WWDジャパン」3月16日号は、2020-21年秋冬のパリ・ファッション・ウイーク(以下、パリコレ)特集。特集内ではパリコレで見られた2大メッセージやムードを打ち出したブランドのコレクションを紹介しているほか、日本から現地に出向いた編集長やバイヤー、スタイリスト10人に聞く気になるトレンドなど、1冊で今季のパリコレが分かる内容となっています。
紙面ではファッションについてとことん触れましたが、ここでは読者から要望の多いショーのインビテーション(招待状)を紹介。パリコレ取材班が、それぞれよかったと思うインビテーションを鼎談形式で紹介します。
鼎談参加者
向千鶴 編集長:2004年からミラノとパリを中心にコレクションを取材しているベテラン。ポジフィルムでの撮影も経験している49歳
ヨーロッパ通信員 藪野淳:コレクション取材7年目の33歳。普段はベルリンに住みながら、ヨーロッパのファッションネタ全般を取材している
ソーシャルエディター 丸山瑠璃:パリコレ取材2回目の24歳。SNS運用を普段から担当しており、SNSを駆使した情報収集力は編集部内でもピカイチ
丸山瑠璃(以下、丸山):インビテーションをコレクションのティーザーとして使うブランドも少なくないですが、今季のインビテーションは皆さんどこがよかったですか?
藪野淳(以下、藪野):前回のパリコレでサステナビリティへの意識が高まったことを受けてか、今季のインビテーションはデジタルや紙1枚などシンプルなものが増えていましたね。「サンローラン(SAINT LAURENT)」や「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」「サカイ(SACAI)」など、毎シーズン同じフォーマットを使うブランドは変わらず。100近く届くインビテーションは全てを家まで持ち帰るわけではないので、個人的にはシンプル化に賛成です。
向千鶴(以下、向):そう、過去にはおもちゃを送ってきたこともあった「ステラ マッカートニー(STELLA McCARTNEY)」も今季はシンプル。当日会場では、来場するまでに発生したCO2を相殺するために、来場者に苗木が配られたよ。飛行機に乗る人もいるからみんなが持って帰れたわけではないけど、あの苗木はいつもお世話になっているドライバーのお家ですくすく育っています。一方で、無駄にならない有用なインビテーションもあったよね。
丸山:はい、コレクションのアップサイクリング率50%というサステナビリティ推進派の「マリーン セル(MARINE SERRE)」は、フランスの老舗お香ブランド「パピエダルメニイ(PAPIER D'ARMENIE)」とコラボしたインビテーションでした。ショー会場でもこの紙のお香をたいていました。紙には「マリーン セル」のアイコンである月ロゴもプリントされていて、ファンとしてはうれしい。ちなみに今季の月のパターンが変形しているのは、炎で燃えてはためいているところを表現したそう。「マリーン セル」は前回も折り畳み傘でちゃんと使えるアイテムでしたね。
向:今季の会場でもその折り畳み傘をファッションとして持ってきている人を見かけたよ。ちゃんと使えるアイテムといえば、「ケンゾー(KENZO)」の会場でお土産としてもらった水筒。ちょっとしたときに喉を潤すのに超便利で、期間中も今も本当に愛用してます。新型コロナウイルス感染対策にもよかったです。
藪野:「ハイドロフラスク(HYDRO FLASK)」という登山やアウトドアでも人気の魔法瓶ブランドとのコラボで、何時間経ってもずっと中身が温かいままなのは嬉しい。ファッション・ウイーク中は温かい飲み物を買うタイミングもなかなかないので、重宝しました。僕も、今でも散歩のお供として愛用しています。「ケンゾー」のインビテーションは虎のポスターと大きな紙クラッチバッグでしたね。ポスターについていた生まれ変わった虎のワッペンを剥がして服につけている人もインスタグラムで見かけました。
向:ワッペンといえば、「ラコステ(LACOSTE)」のショー会場の各席にくっついていたワニのワッペンも剥がせて、コートにつけて使ってます(笑)。
藪野:「ケンゾー(KENZO)」の新クリエイティブ・ディレクターのフェリペ・オリヴェイラ・バティスタ(Felipe Oliveira Baptista)は、「ラコステ」の前クリエイティブ・ディレクターだから、ワッペンのアイデアは古巣から得たのかもしれないですね(笑)。「ラコステ」のインビテーションはアーガイル柄のポロシャツで、人によって配色が違っていてかわいかったです。
丸山:ショー会場にいたスタッフもみんなおそろいのスエットにキャップでキュートでしたね。デジタルのインビテーションだと、「コペルニ(COPERNI)」が印象に残っています。まずインビテーションがHTMLで書かれていたのですが、会場はグーグル(GOOGLE)やアップル(APPLE)など名だたるIT企業からスタートアップ企業まで一堂に会するインキュベーション施設。コレクションも未来のオフィスウエアのようで、特徴的な形のバッグもチェーンやストラップがついて使いやすく進化していました。これまでも“Wi-Fi”や“スワイプ”という名前のバッグを発表していましたが、今回登場したスクエア型のバッグはアプリのアイコンの形を着想源にしたので“アプリ”バッグというそうです。
藪野:「コペルニ」は前シーズンも「アップル」の店舗でプレゼンテーションを行なっていましたし、デザイナーの2人はデジタル好きなんでしょうね。若手デザイナーにとってインビテーションは自分たちのブランドに関心を持ってもらえるか、そして、ショーやプレゼンテーションに足を運んでもらえるかを左右するので重要。その点、「コペルニ」のコーディングが流れてショーの日時や会場が出てくるデザインは、アイデア次第でデジタルインビテーションでも興味を引くものが作れるという好例でしたね。
向:ほかに印象に残っているのは「ロエベ(LOEWE)」。米女子サッカー代表のミーガン・ラピノー(Megan Rapinoe)選手が叫んでいる写真のカバーが印象的な大きなレコードだったけど、レコード盤がないから中身は聴けぬままです(笑)。
丸山:なかなかレコードプレーヤーを持っている人はいないですよね……。同じく聴けぬままですが、中身はラピノー選手が「ロエベ」のキャンペーン動画で語った内容をリズミカルに編集したものだそうです。インビテーションではないですが、「ジュンコシマダ(JUNKO SHIMADA)」は新型コロナウイルスの感染が拡大してパリでも薬局から手指除菌ジェルが消えていく中、「Take care!」のメッセージ付きで「バイレード(BYREDO)」の“リンスフリー ハンドウォッシュ”が送られてきたときは感動しました。
藪野:しかも、インビテーションはそれよりも前に届く前に届いていたから、インビテーションを送った後なのに感染拡大を受けて送ってくれたのでしょう。本当にお気遣いが素晴らしい!
向:「ジュンコシマダ」は過去にはバスソルトを送ってきてくれたこともあったよ。しかも滞在中毎日使えるくらい大きなサイズで、ファッション・ウイーク中でもきちんと疲れをとってという思いがあったのだったと思う。すごく気配りが利いていらっしゃるよね。