ワールドは30日、次期社長にグループ専務執行役員の鈴木信輝氏(45)が6月23日付で昇格するトップ人事を発表した。上山健二社長(54)は代表権のある会長に異動し、創業家出身の寺井秀蔵会長(70)は取締役を外れて新設されたシニア・チェアマンに退く。
鈴木氏は京都大学大学院法学研究科卒。アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)やローランドベルガー、ボストンコンサルティンググループなどを経て2012年ワールド入社。コンサルティングや戦略投資会社などで培った戦略的思考能力や収益計画の能力を生かし、15年に構造改革本部長、18年からはグループ企画統括を務めてきた。
鈴木氏には、上山社長が進めてきたデジタルを軸とした成長戦略をさらに加速することが求められる。上山社長は鈴木氏について「デジタルに関する知見はもとより、ロジカルな思考、市場を見る大局観は私よりも上」と評価する。
上山社長は、住友銀行(現三井住友銀行)出身で中古車販売のジャックやスーパーの長崎屋などの社長を経て、2015年4月にワールド社長に就任した。「光り輝くPL(損益計算書)の復活」を掲げ、不採算事業の構造改革を断行するとともに、アパレルに頼った財務体質からの脱却にも取り組んできた。自社の製造販売や店舗運営のノウハウなどを外販するプラットフォームビジネス、古着専門店「ラグタグ」を運営するティンパンアレイの買収(18年4月)やオフプライスストア業態「アンドブリッジ」のスタート(19年9月)など、ロスのないサプライチェーンの構築にも取り組んだ。18年9月には再上場も果たした。
社長交代は今年初めに寺井会長と相談して決めた。「デジタルを軸とした成長戦略を推し進めるにあたり、知見が深く若い(鈴木)新社長への交代はベストなタイミングだと考えが一致した」という。鈴木氏は上山社長の参謀役として、構造改革や成長戦略を立案してきた実績がある。服を売るだけでなく、ワールドの製造や販売の機能を他社に提供したり、オフプライスストア古着販売、D2Cなどと既存事業を連携させたりする“ワールド・ファッション・エコシステム”の事業モデルの確立でも重要な役割を果たした。
ワールドは17年4月に持株会社制に以降後、アパレル以外の収益源を多様化させる中、M&Aなどを経て多くの子会社が生まれた。それらをワールドという傘の元で「高度な一枚岩」(上山社長)とする方針は途上にある。今後、鈴木新社長には、「求心力を高め、子会社の方針をグループ全体の戦略と一致させること」「デジタルを主軸においた成長戦略を推し進めるための多彩な人材獲得」などが期待される。