村上要「WWD JAPAN.com」編集長(以下、ムラカミ):CKRさん、新年度が始まりました。「WWDジャパン」や「WWDビューティ」の記事を、IT賢者としての読み解いてもらう企画のスタートから1年が過ぎようとしていますが、本年度はコレを発展させて僕との徒然な対談、というかおしゃべりから、ファッション&ビューティ業界に新しい気づきや視点が提供できれば、と思っています。で、対談の1発目は、新たなディケイド(年代)に突入し、新型コロナウイルスが収束した後は新たな時代が到来しそうなので、2人で未来を語り合ってみたいと思うのですが、いかがでしょうか?
CKR:よろしくお願いします。徒然対談、了解です(笑)。こういうご時世ゆえ、未来予測は難しいですが、1つだけ、確度の高い予測があります!
ムラカミ:お、さすがIT賢者。なんでしょう(ワクワク)?
CKR:今年30歳の人は20年後、50歳になるんです!
ムラカミ:え、めちゃくちゃ当たり前なんですけれど……。
CKR:でもコレ、意外と重要なんです。毎年「何人が生まれて、亡くなる」とか、「何人が入国して、出国する」ということは、ある程度、見当がつくんです。そして、ここから導かれた「人口推計」を分析すると、見えてくることがあります。例えば2020年は、我が国の女性の2人に1人が50歳以上になります(50歳以上:3248万人、49歳以下:約3193万人)。また、42年には65歳以上が約4000万人となり、高齢社会のピークを迎えます。これは、かなり確度の高い未来なんです。
ムラカミ:なるほど。対談がアカデミックな方向に転びそうで、安心してきました(笑)。
CKR:「2020年、国内の女性の半数が50歳以上になる」。ここに大きな市場があるような気がします。昨年は、花王の“第二の皮膚”形成技術が、話題になりました。テクノロジーを活用したビューティ&ヘルスケアは、20年代、さらに盛り上がるのではないでしょうか。ムラカミさん、ここ数年、ビューティ&ヘルスケア業界で、気になる動きはありましたか?
ムラカミ:最近面白いな、と思ったのは、「ヘレナ ルビンスタイン(HELENA RUBINSTEIN)」がこの世代を“スパークリングブーマー“と呼んで、徹底リサーチ。高額スキンケアラインのプロモートに成功していることでしょうか?元々「テクノロジー」のイメージが強いブランドでしたが、10年前はオーガニック市場の隆盛に押され、かなり苦しかった印象です。それが奇跡のカムバックですね。
CKR:「ヘレナ ルビンスタインといえばマスカラ」のように、独自のポジションを持つブランドにとって、輝かしい時代の到来かもしれませんね。すでに消費者との間で「信頼」が形成されている気がします。アクティブな経験をしてきた世代は、好奇心が旺盛。「スキンケアしながら、シミやソバカスを隠す」のように複数の効果があれば、高額でも買ってくれそうです。「シンプルな取り扱いで、すぐに効果が実感できる」なら、テクノロジーとの相性も良いですね。エイジングケアをスタートしたい、30代後半にもリーチできそうです。
ムラカミ:そもそもファッションやビューティ業界は、「20代後半~30代前半」にとらわれすぎている気がしますから、「ヘレナ ルビンスタイン」のように「私たち、スパークリングブーマー世代のことを真剣に考えています!!」と意思表示してくれるのは「信頼」の源になりそうです。時々いるんですよ。「30代に向けて作っていますが、実際は、もっと年配の方が買っています。書いてほしくありませんが」って言う人。ハッキリ言って、年長者をバカにしていると思います。良くない!!テクノロジーと言えば、最近はヘルスケアに関するデータも入手しやすい環境が整いつつあると聞きました。
CKR:Apple Watchのように身に着けるデバイスによって、歩数、心拍数、睡眠情報などを簡単に計測できるようになりました。ジャイロスコープと呼ばれる姿勢や動きの速度を計測する装置や、心拍センサーが搭載されたことが大きいです。コンタクトレンズのように透明で柔軟性があり、不燃性、耐久性にも優れた充電池も、米国の大学で開発されました。2年以内の市販を目指すという情報もあります。「肌のかぶれは大丈夫?本当に欲しい?」という課題はありますが、繊維に電池が組み込まれ、コンピュータが衣服に溶け込む可能性もあるそうです。
ムラカミ:昨年は、リーバイス(LEVI’S)がグーグル(GOOGLE)とタッグを組んで、導電繊維を織り込んだGジャンを発売しました。袖口で通話や音楽再生などの操作が可能だそうです。開発に携わった方に話を聞きましたが、別に革新的なモノを作ろうと思ったワケではないそうです。むしろ「永遠に定番なGジャンが今後も定番であり続けるには、テクノロジーとの融合が欠かせなかった」と聞いて、納得したのを覚えています。テクノロジーと、それを介して得られるデータは今後「当たり前」になるのでしょうね。
CKR:ヘルスケアに関する技術進展で言うと、2003年にはヒトゲノム(ヒトの遺伝子情報のセット、タンパク質に変換される配列情報)が解析され、データとして扱えるようになりました。ヒト一人分の解析コストは、01年時点で約1億ドル(110億円)。それが17年には、たったの1000ドル(11万円)、10万分の1になりました。ITとデータを活用して生命科学にアプローチする市場は、今後さらに広がります。「健康、美しくなるために」という概念が、テクノロジーによって大きく変わりそうです。ゲノム解析技術は、新型コロナウイルスの感染経路の解明にも役立ちます。変異するウイルスの特徴、検出された場所を分析することで拡散の仕方を解明できるんです。また、投薬シュミレーションに活用することで、ワクチン開発の速度をあげることも可能です。解析速度は、5年ほど前に比べ、100倍以上向上したと言われています。新時代の幕開けです。
CKR Kondo : 大手通信会社に入社後、暗号技術/ICカードを活用した認証決済システムの開発に従事。その後、欧州/中東外資系企業向けITソリューションの提供、シンガポール外資系企業での事業開発を経験。企業とその先の利用者が必要とするもの、快適になるものを見極める経験を積み、ウェアラブルデバイスやFree WiFiを活用したサービスインキュベーションを推進。現在は、米国、欧州、アジア太平洋地域にまたがる、新たなサイバーセキュリティサービスの開発を推進中