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H&M財団の“発明賞”、今年はブラジル企業のラボで作るコットンなど

 H&Mへネス・アンド・マウリッツ(H&M HENNES & MAURITZ以下、H&M)の創業家一族による非営利財団、H&Mファウンデーション(H&M Foundation)は4月1日、(研究室)での綿花栽培技術を開発したブラジル企業ゲイリー(GALY)を筆頭に、「グローバル・チェンジ・アワード(Global Change Award、以下GCA)」の受賞の5社を発表した。GCAはH&Mファウンデーションが主催するイノベーション・コンペで、過去に受賞したアイデアや技術にはすでに実用化されているものも多数あり、多くの有力企業や投資家も注目している。

 毎年5組を選出し、助成金100万ユーロ(約1億1900万円)を分配。H&Mファウンデーション、アクセンチュア(ACCENTURE)、スウェーデン王立工科大学(Royal Institute of Technology)が提供する1年間のイノベーション促進プログラムの支援を行う。

 今回は175カ国から5893のエントリーがあり、受賞したアイデアは下記の通り。

バイオテクノロジーを用いてラボで綿栽培

 アメリカを拠点に活動するブラジル発のゲイリー(GALY)は、バイオテクノロジーを用いて綿栽培を可能にする技術を開発した。従来のコットン生産に比べて温室効果ガスの排出量を大幅に抑えることができ、水と土地の利用を80%以上削減できる。また従来の方法の約10倍も早く栽培でき、価格は高品質なコットンの市場価格と同じレベルで提供できるようになるという。30万ユーロ(約3570万円)の助成金を手にした。

 ルチアーノ・ブエノ(Luciano Bueno)創業者兼最高経営責任者は「従来のコットン生産には大量の水と土地、非常に多くの種類の化学物質を含んだ高額な肥料を使用する。そしてかなりの量の温室効果ガスを排出する。コットンを苗からではなく細胞から、しかも広大な農場ではなく研究室で作り出せる。ラボ栽培のコットンは土壌や天候に関係なく育てることができ、私たちの地球の資源を消費することもない」とコメントを発表している。

タンパク質から繊維を製造

 アメリカのウェアウール(WEREWOOL)は、タンパク質のDNAから色や伸縮性、はっ水性を備えた生分解性の繊維を製造する技術で25万ユーロ(約2970万円)を手にした。サンゴ、クラゲ、イソギンジャク、カメ、カキ、牛乳から採取するタンパク質をDNAレベルで生地に組み込み、色、伸縮性、通気性、はっ水性のある素材を作る。

ブロックチェーン技術を使ってトレーサビリティーを実現

 インドのテキスタイルジェネシス(TEXTILE GENESIS)はブロックチェーンの技術を用いて、繊維の製造から販売までの過程をトレースする技術を開発して15万ユーロ(約1780万円)の助成金を得た。同社は「ファイバーコイン」と呼ぶデジタルクーポンを発行してその素材の出どころを証明する。「ファイバーコイン」は指紋のような役割を果たし、素材ごとの独自のIDを発行する。この技術は操作や変更、改ざんが一切できず記録された履歴は永久的に残るということで、どれだけ多くの回数使用されリサイクルされたとしても確かめることができるという。

汚泥を分離・洗浄して有害物をなくす

 アメリカのシーチェンジテクノロジー(SEE CHANGE TECHNOLOGIE)は染色や仕上げ加工で出る汚水処理の技術を開発して15万ユーロ(約1780万円)の助成金を得た。同社が開発したのは、強力なジェットエンジンを使用して水と有害な汚泥を分離し、汚泥を扱いやすい粉末状に変えるもの。分離したきれいな水は霧状にして排出されるか、もしくは再利用も可能で、このソリューションは既存のシステムとスマート・ガジェットを組み合わせたものだという。

CO2からポリエステルを製造

 フランスのフェアブリックス(FAIRBRICS)は、温室効果ガスからポリエステルを生産する技術を開発して15万ユーロ(約1780万円)の助成金を得た。CO2を閉じ込め活性化してポリエステルの粒子に変換し、通常のポリエステルと見た目も手触りも変わらないものができるという。

 GCAは“ファッションのノーベル賞”を目指して2015年に創設され、今回が5回目。ファッションをよりサステナブルに変革し、従来の基準を打ち破るような革新的かつ初期段階の5つのアイデアを選考し、そのスケールの拡大を目的としている。

 H&Mファウンデーションの役員でカール・ヨハン・パーション(Karl-Johan Persson)H&M会長は、「H&Mファウンデーションは新型コロナウイルスとの闘いを支援すると同時に、長期的なサステナビリティに取り組む起業家やイノベーターを支援し続ける。GCAにエントリーされるアイデアは毎年すばらしいものばかりで、いつも驚かされる。これらの革新的なアイデアは、それ自体がファッションに対する私たちの考え方に問いを投げかけてくれる。私たちは直線的な古い考え方を捨て去り、地球にポジティブに働くようなサステナブルなモデルへと、もっと早く近づかなければならない。受賞した革新的なアイデアが、私たちファッション業界が自らを改革することの一助となり、また、新たな解決策を見つけられるようなインスピレーションを他者にも与えることを願っている」とコメントを発表した。

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