※この記事は2019年10月28日に配信した、メールマガジン「エディターズレター(Editors' Letter)」のバックナンバーです。最新のレターを受け取るにはこちらから。
美より過酷が琴線に触れる
今週はフランスに来ています(笑)。「ジェイエム ウエストン(J.M. WESTON)」の工場取材です。昨年は「ボルサリーノ(BORSALINO)」、そして今年はこの「ジェイエム ウエストン」で感じましたが、工場取材では、最高級の素材に触れるより、精緻なクラフツマンシップを目の当たりにするより、「この値段の価値あり!」と実感する場面がありますね。工程の中で、比較的「過酷」な場面です。
たとえば今回の「ジェイエム ウエストン」では、靴底に使う牛革のベジタブルタンニンなめし。食肉用の牛の革を数カ月間レアなまま寝かせ、それを10週間かけてじっくりタンニンに漬ける過程は、正直靴の美しさとは別世界の、ニオイ、虫、タンニンによる汚れなどが不可避の空間でした。靴底に用いる耐久性を求められるレザーは、ものすごく重い。10人で年間6000〜7000枚を生産しているという職人の皆さんには、頭が下がります。
昨年伺ったイタリアの「ボルサリーノ」の工場では、羊毛を原料とするフェルトを成形する過程で、ハンパない熱&蒸気と格闘する女性職人に感服しました。僕なんか近寄れないくらいの(男性は逃げ出す傾向があるそうですw)、超高温多湿状態を生み出している“鍋”の前で、熱湯からフェルトを取り出し、耐久性を高めるために揉み込むのです。
いずれも、美しさや耐久性のために、昔から行われている技法を、最新の技術は取り入れつつも、変われないところはかつてのまま継承しているから、過酷な工程は避けられない。10万円くらいの靴、4万円〜の帽子が生まれるには、彼らの汗が欠かせないことを知り、感動し、「コレには、この値段の価値がある」と思ったのです。
私たちメディアは、こういう側面を伝え、ストーリーにしなくては、ですね。今回も、そのレザーを「戦利品」と語るプライド、「ボンジュール」と語りかけてくれる職人の優しさ、そして、耳栓やヘッドホンが欠かせない騒音に溢れた環境。味気ない生産現場との違いを、肌身を持って感じました。工程とかウンチクとかは、正直、どうでも良いのかもしれない。私の琴線に触れた価値を、皆さまに、実感を込めてお伝えしたいと思います。
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