ファッション

店舗休業の欧米ブランド オンラインで深める顧客とのつながり

 新型コロナウィルス感染拡大の影響で店舗休業など営業活動が著しく奪われる中、ファッションブランドはソーシャルメディアを駆使し、消費者との新しいつながり方を模索している。自主隔離を強いられて家ごもりする顧客に、気分転換してもらいながらコミュニティーとのつながりを持てるようにと狙ったものだ。

 これまでソーシャルメディアは主に商品販促の場であったが、今やクイズやオンライン対談、スタイリング、クッキングやフィットネスクラス、色遊びや絵を描いたり手紙を書いたりなど、さまざまなコンテンツを提供している。

 「今日では、顧客とつながる新たな機会としてテクノロジーをうまく使うことがブランドにとって重要になってきている」と、コミュニケーションコンサルタントのマチルド・カーリー(Matilde Carli)は言う。

 マーケティングや広告を行うFSBグループ(FSB GROUP)のフィリッポ・リチェリ・ヴィヴァルディ・パスクア(Filippo Richeri Vivaldi Pasqua)執行役員は、「これまで以上に顧客の注目を集め、勝てる戦略を練るために企業は、最近のマーケティング戦略にあるような情に働きかけるやり方だけでなく、楽しくてインタラクティブ(双方向)な要素を取り込む必要がある。一方通行のコミュニケーションではなく、交流をつくり出すことが大事」と言い、「最終消費者がオンラインでしかアクセスできない今、彼らと長く固い関係を構築することが必須だろう。顧客を楽しませるような娯楽的要素を散りばめたストーリーを提供し、願わくは近い将来に再開するであろう店舗でつながりを深めることが大切だろう」と述べた。

 新型コロナ感染拡大の中、欧州のブランドの各社は純粋な気分転換から教育的な内容まで、さまざまな作戦を打ち出している。

バルマン(BALMAIN)

 すでにソーシャルメディアで活発に発信しているオリヴィエ・ルスタン(Olivier Rousteing)「バルマン」クリエイティブ・ディレクターだが、著名な友人や「バルマン アーミー(BALMAIN ARMY)」のメンバーらと協力し、ストーリーやインスピレーションや製作物を"#バルマンアンサンブル(#BalmainEnsemble)"(アンサンブルは仏語で"共"にの意味)とタグづけして共有している。

 2020-21年秋冬のメンズ・コレクションでは、ダンサーたちが一つの塊のようにつながって踊る壮観なダンスアンサンブルを披露するという先進的手法を取り入れ、動画はユーチューブ上で"#バルマンアンサンブル"のティーザーとしても使われた。

 今年75周年を迎える同ブランドのジ・アーカイブズ(The Archives)に先行して、同氏は590万のフォロワーを持つ自身のインスタグラムでビンテージのスケッチや画像も掲載している。

 同氏は自身や友人がミューズとあがめる人やインスピレーションを与えてくれるクリエイターたちにオンライン対談を持ちかける計画を立てており、「美容、アート、スポーツや友情を支えに、ステイホーム(家にこもる)期間中でもできる限り楽しく、生産的に過ごす方法」について語るという。初回は歌手のマルマ(Maluma)とのライブチャットで、4月1日(現地時間)に行われた。

 同ブランドは「将来『バルマン』のランウエイで使う曲のセレクションやショーのテーマ、布地、カットや色」などに関する提案なども大歓迎だという。

 ルスタンはスタイリストやデザイナーを招集し、家にこもる人々向けにクリエイティブ関連の課題を毎週出すことも計画していると言い、また気分転換に塗り絵として楽しめるモノクロのスケッチ画もアップする予定だという。

「サルヴァトーレ フェラガモ(SALVATORE FERRAGAMO)」

 「サルヴァトーレ フェラガモ」はソーシャルメディア上でブランドの歴史や豊富な物語を伝えることでファンとつながろうと、彼らを楽しませるための「トリビア(Trivia)」デジタルプロジェクトを始動した。過去の逸話やクイズなどを通じて、ファンはブランドの歴史や主要商品に関する情報を再発見したり、またテストを受けたりすることも可能だ。5章からなるプログラムは4月4日までの毎週水曜日と土曜日にインスタグラムで公開された。

レッド ヴァレンティノ(RED VALENTINO)

 この困難なときにこそブランドの熱心なファンとつながり続けることが重要だと「レッド ヴァレンティノ」は考えているようだ。同ブランドは、シャーロット・ファーマー(Charlotte Farmer)を含む3人のアーティストとコラボしたデジタルプロジェクトを発表し、デジタル書簡として参加者が自由に使える手紙のテンプレートを作成している。3人のアーティストが春夏コレクションの鮮やかなデザインを取り入れて作成したという切手の形のGIF画像を使っていて、手紙のデコレーションも可能だ。優秀な手紙の作品は、"#親愛なるREDへ(#DearestRED)"とタグづけされて同ブランドのインスタグラムにアップされる予定だという。

「MC2 セイントバース(MC2 SAINT BARTH)」

 最近マイアミにオープンしたばかりの店舗など、計43店舗を構えるイタリアのビーチウエアブランド「MC2 セイントバース」は、インスタグラムでスイムウエアやビーチバッグのテンプレートを提供した。顧客はそれらのテンプレートをダウンロードした後、カスタマイズしたパターンを使ってデザインすることができる。

 ブランド創業者でクリエイティブ・デザイナーのマッシミリアーノ・フェラーリ(Massimiliano Ferrari)は「私たちのお客さまの多くは子どもであるため、彼らに向けて発信したかった。「ヴェスパ(Vespa)」スクーター、「フィアット(FIAT)」の"チンクエチェント(500)"やアヒル、カニなどブランドの象徴的なデザインは、ビーチで過ごした天気のよい一日を子どもたちに思い起こさせるだろう。家から出かけられないこのときだからこそ自由に発想できる何かを与えたかった」と語り、「この計画は弊社ソーシャルメディアチームの発案だったが、大成功となった。多数の素晴らしいデザイン案が届いており、中には商品として使えそうなものもある。早速いくつかを商品化する方向で検討しており、販売から得られた利益は新型コロナ対策の費用に充てる計画だ」と述べた。同氏は「母親たちもとても喜んでいる。家で退屈している子どもたちを夢中にしてくれるからね」と言い、「もちろん最大の願いは、私たちの若いお客さまたちが一日も早くビーチを自由に走り回れるようになることだよ」と付け加えた。

「クローズド(CLOSED)」

 デニムのインディーズブランド「クローズド」は、ベルリンを拠点として活動するシーシー(She She)と共同でマインドフルネス瞑想のクラスをインスタグラムで3月末に開催したのを皮切りに、インスタグラムで提供するさまざまなクラスのスケジュールを掲載した。これらのクラスは当初ベルリンで開催される予定だったが、新型コロナ感染拡大の影響を受けて、オンラインでの開催となった。共同創業者のひとりであるゴードン・ギアーズ(Gordon Giers)は、「ブランドとして顧客とどうつながるのか、そしてつながった後どうするのかについて考える必要がある。もちろん可能な限りオンラインで商品の販売を続けたいが、最近ではもっとほかのことも大事になってきている。例えば、娯楽や息抜きとなることを提供するなど」と言い、「それだけではなく、私たちが一緒に働くフリーランスの人や長きにわたるビジネスパートナーなどのネットワークを支えたいと思っている。彼らにもぜひカメラの前に立って参加してもらいたい」と付け加えた。

 ベルリンで人気のレストラン「LOK6」のシェフ、ジュリア・ハイファー(Julia Heifer)が麦芽パンやジャム、バジルソースの作り方を教えるクッキングクラスや、シーシーのステフ・キューザック(Steph Cusack)によるビンヤサヨガまでクラスの内容は多種にわたる。自社のネットワークを生かし、ファンが楽しめる内容のコンテンツを"#ウィー・アー・クローズド・トゥゲザー(#WeAreClosedTogether)"とタグづけしてインスタグラムのチャンネルで提供している(タグは新型コロナの影響で強いられているソーシャルディスタンシングの状況にかけた言葉遊びで、closeには親密の意味もある)。

 プロトレーナーのパトリック・マシュケ(Patrick Maschke)による、隔離中も健康でいるためのフィットネスレッスンや、フランス出身ベルリン在住の画家ジョアーナ・デュメ(Johanna Dumet)による自身のスタジオツアーと独自の鮮やかな色と絵画タッチを使った猫の絵の描き方など、異なるゲストによる動画も毎日配信している。オーストラリアの作家でインフルエンサーでもあるコートニー・アダモ(Courtney Adamo)を招き、5人の子どもたちと隔離生活を過ごすためのヒントなども配信した。

エコアルフ(ECOALF)

 「エコアルフ」は3月末以降、国際的インストラクターによるヨガレッスンや子どもと大人の双方に向けたクッキングクラスなどを週替わりでインスタグラム上にてライブ配信している。バルセロナのシェフ、ホルディ・クルス・マス(Jordi Cruz Mas)によるフードロスを防ぐ方法についてのクラスなども開かれた。また同ブランドの環境問題への取り組みに基づき、毎週日曜日には持続可能性に関するトピックなどを提供し、それに関連するおすすめの本やドキュメンタリーなども紹介している。

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