ファッション業界では季節を先取りした商品を販売することが慣例となっているが、新型コロナウイルスの影響でそれが変わるかもしれない。アパレルの縫製工場やサプライヤーが休業しているため、2020年プレ・フォールおよび20-21年秋冬コレクションの生産が遅れており、通常であれば6月から9月初旬にかけて店頭に並ぶところが、今年は9月下旬から10月の入荷となるブランドが多いのだ。
また昨今はサステナビリティの観点から、コレクションごとに目まぐるしく商品が入れ替わることを批判的に見る消費者も増えている。今回の世界的な危機を受けて、ファッション業界は変わるのだろうか?イタリアのモード界をけん引する、ジョルジオ・アルマーニ(Giorgio Armani)に米「WWD」が聞いた。
WWD:あなたは以前からコレクションのショーを(拠点ではない)他国で派手に行うことに反対しているが、コレクションやショー自体をより小規模にすることにも賛成か?
ジョルジオ・アルマーニ(以下、アルマーニ):賛成だ。現在は、実際のニーズよりはるかに多くの商品が供給されている。
WWD:「ジョルジオ アルマーニ」は実験的にウィメンズとメンズのショーを同時に開催したことがあるが、今後その予定はあるか。その場合、開催時期をどうするのか。
アルマーニ:そうする可能性はあるが、まだその方式が本当にいいのかどうかを検討しているところだ。
WWD:コレクションのスケジュールが今後変わっていくとして、それを主導するのは誰だと思うか。デザイナーか、ファッション協会などか、それとも小売店か?
アルマーニ:ブランドが設定した枠組みを守りつつも、顧客のニーズや期待に沿ってスケジュールを立てていくべきだろう。
WWD:新型コロナウイルスの影響により、「ジョルジオ アルマーニ」は春夏物を9月まで店頭に置くと発表した。非常に大きな変化だが、これは卸先でも同様に行われるのか?世界的な危機を受けて、取引先の小売店などもこれに同意しているのか。
アルマーニ:全ての取引先が同意するとは思わないが、ファッション業界がここ数年で直面している問題を理解しているのであれば、当社の決断に同意してくれるだろう。
WWD:値下げについてどう考えているのか。
アルマーニ:店頭に「セール開催中」と大々的に貼り出すのではなく、顧客とより直接的かつパーソナルに、静かにやりとりする方法を考え出す必要がある。ECでも、現在とは違う方法を考えなくてはならないだろう。商品の数を絞り、顧客の季節的なニーズに合わせてコレクションを開くのが理想的だ。そうすれば値下げをしなくてすむし、するにしてもごく限られた範囲ですむ。
WWD:今年は在庫をどのように取り扱うのか。シーズンをスキップすることを考えているのか。
アルマーニ:プレ・フォール・コレクションをスキップするか、規模を最小限に縮小することを検討している。メイン・コレクションとプレ・コレクションは店頭に入荷する時期が異なるだけなので、メインのコレクションにプレも含めて発表すれば十分ではないか。
WWD:自宅隔離が長く続いており、それに伴って経済状況も悪化している。事態の収束後、消費者は自宅で着ていたスエットパンツなどに飽きて、より華やかな服を買うと思う?それとも、より派手さのないカジュアルなデザインを求めると思う?
アルマーニ:長く着られる服が求められると思う。
WWD:ジョルジオ アルマーニ社は、新型コロナウイルスの感染を抑制するための対策に多額の寄付をしているほか、イタリアの自社工場で防護服を生産することを発表している。事態が収束した後、支援の一環としてサプライヤーなどを買収することも考えているか。
アルマーニ:その可能性はあるかもしれない。当社のビジネスモデルにおけるバリューチェーンを全体的に見直す必要があることは確かだ。
WWD:弊誌に寄稿した公開書簡で、あなたはアメリカの百貨店に向けて「今回の危機はストレステスト(過大な負荷をかけて健全性を審査するテスト)のようなものだ。難局に直面するアメリカのアパレル小売りの皆さんに、心からの励ましを送りたい。連帯し、協力し合うことで、われわれはこの危機を乗り越えることができる」と語りかけた。彼らはそのアドバイスを生かしていると思うか。
アルマーニ:私の言葉がどれだけ届いたかは分からない。しかし、ファッション業界全体が非常に厳しい状況にある中で、よりよい解決策を見出すためには全員が協力し合う必要があるということを、大手百貨店や業界の中心的存在の企業などにもよく考えてもらいたいと思う。