新型コロナウイルス感染症拡大を受け、3月に予定されていた2020-21秋冬「楽天 ファッション ウィーク東京(Rakuten Fashion Week TOKYO)」が中止されました。参加するはずだったブランドは急きょ無観客ショーやルック撮影に発表方法を切り替えましたが、そこで相次いで登場したのがサバイバル気分を帯びた、体を“くるむ”装いです。今を生き抜く意識をまとったルックは凛としてたくましい。でも、シルエットやディテールはしなやか。女性の多面性を引き出す効果も生んでいます。暗いムードの今こそ、新しい装いについて考えることで気分をリフレッシュしていきましょう。
「ドレスドアンドレスド(DRESSEDUNDRESSED)」はトレンチコートを2枚重ねたかのような新スタイルを披露。いわゆる“襟抜き”で肩を落として着て、内側のコートをのぞかせ、タフ感と官能美を交わらせました。「ドレスドアンドレスド」以外も、今回の記事中で紹介するさまざまなコーディネートは、強さとフェミニンが交差し、これまでのジェンダーミックスの先を行く着こなしのヒントを感じさせます。
◆ふんわりキルティングでミリタリー&安堵感
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「ハイク(HYKE)」がポンチョ風アウターに仕立てたのは、ミリタリー系コートの裏地(ライナー)に使うようなキルティングの素材。軍装風の色味に加え、ハイカラーで全身を隙間なく覆って、緊張感を演出。本来ならば内側に着込むライナーを、あえて上から重ねる着方にも“非常時”のムードが漂います。薄手のキルティングは、量感を出しつつも、軽やかに映るユーティリティーアイテムです。
写真2枚目の「ザ・リラクス(THE RERACS)」はフード付きのキルティングコートで、全身を朗らかな雰囲気で包みました。やや武骨なイメージを帯びた、アウトドア風のキルティングですが、やわらかい立体シルエットを組み立てています。危機に備える人たち“プレッパー(Prepper)”のような気分を醸し出しながら、優しいムードにまとめ上げました。
◆レザーで強さを演出 着こなしに相乗効果
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合皮を含むレザーは、“強さ”を印象づけるキーマテリアル。「タエ アシダ(TAE ASHIDA)」は、身頃にレザーを使った異素材ミックスのジャケットに、チェック柄のアシンメトリースカートを合わせました。ハーネス風のベルトがタフ感を上乗せします。ロングブーツはレザージャケットとの相乗効果を発揮。強さとレディー感を響き合わせています。
写真2枚目の「ヒロココシノ(HIROKO KOSHINO)」は、つややかなレザーパンツの裾を、レザーブーツにイン。スレンダーなレッグラインを強調します。一方で、クラフト感を帯びたステッチ使いのジップアップブルゾンは、ラウンドシェイプのファニーなムード。クールなレザーパンツとのコーディネートで、相反するテイストを際立たせました。
◆“ロング×ロング”シルエットで凛としたムード
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マニッシュ感を濃くする動きが広がる一方、しなやかな強さを打ち出す試みも目立っています。「ミントデザインズ(MINTDESIGNS)」は白衣を連想させるような白シャツを軸に、クリーンで凜々しい装いを提案。ロングシャツにロングスカートという“ロング×ロング”のシルエットを組み立てました。首に巻いたスカーフを垂らして、さらに“落ち感”を強調しています。ウエスタン風のブーツで足元を引き締めました。
細感と縦長イメージの相乗効果を狙うシルエットづくりを試したのは、写真2枚目の「マラミュート(MALAMUTE)」。ハイネックとロング丈のコンビネーションで、スリーク(しなやか)な着映えに導きました。テキスタイルプリンターで写し込んだ柄を全身に配して、全身のトーンを統一。芯の強い女性像を引き出しました。ほとんど肌を見せない装いは、プロテクション感も漂わせています。
◆マルチポケットでハンズフリー タフ感を印象づけ
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ミリタリーやワークウエアのムードをまとった装いも相次いで打ち出されました。目印はビッグポケット。「スリュー(SREU)」のアウターは、特大の張り出しポケットが目を引きます。パンツとのセットアップで、一段とタフ感を強めています。袖口をベルトで絞って、サファリ気分も添えました。正面に深くスリットが入ったパンツで、ブーツをチラ見せ。全身を覆いながらも、フェミニンを忘れないコーデです。
写真2枚目「ノントーキョー(NON TOKYO)」の、ビッグポケットをフロントに4個も配置したスカートは、まるでミリタリーパンツのよう。ハンズフリーで過ごせそうなユーティリティー顔。でも、ケミカルなネオングリーンはハッピームード。ハードめデザインとポジティブ色をミックスしています。ロングスリーブのハイネックトップスに、ポインテッドトゥのスニーカーで縦長シャープに仕上げています。
体をしっかり覆うシルエットで、他者に寄りかからない強さを提示。同時に、色やディテールではフェミニンな雰囲気を醸し出すという、新たなジェンダーミックスが盛り上がってきました。素材ではレザー、シルエットは“ロング×ロング”、ディテールでは“多ポケット”などが新スタイリングを印象づけてくれます。サバイバルを意識せざるを得ない時代のおしゃれにも向く装いといえるでしょう。
ファッションジャーナリスト・ファッションディレクター 宮田理江:多彩なメディアでコレクショントレンド情報、着こなし解説、映画×ファッションまで幅広く発信。バイヤー、プレスなど業界での豊富な経験を生かし、自らのTV通版ブランドもプロデュース。TVやセミナー・イベント出演も多い