米「WWD」は、新型コロナウイルスの影響でアパレルの縫製工場やサプライヤーが休業していることから、ファッション業界は従来の年間スケジュールを見直さざるを得ず、これをきっかけに今後はより“スローファッション”になっていくのではないかという記事を4月2日に掲載した。
それに「心を動かされた」という、ジョルジオ・アルマーニ(Giorgio Armani)による公開書簡を紹介する。
米「WWD」が掲載した素晴らしい記事に心を動かされ、この公開書簡を書くことにした。衣料が過剰に生産されている現状や、秋冬物が6月に店頭に並ぶなど実際の季節とはかけ離れたスケジュールで販売されていることなど、ファッション業界のばかげた慣例について勇気を持って書いてくれたことに拍手を送りたい。こうした指摘は必要なものであり、記事の内容や文中にあるデザイナーらの意見に心から賛同する。
私も何年も前から、ショーが終わった後の記者会見などで同様の疑問を投げかけてきた。しかし耳を傾けてもらえず、堅苦しい倫理観の持ち主だと思われるだけだった。この未曾有の危機の中、ファッション業界も難局に直面しているが、これを乗り越えるには慎重に考えて賢くスローダウンするしかないだろう。それはわれわれの仕事が持っていた価値をよみがえらせ、商品を手にした顧客に本当の価値を理解してもらえるようにする道でもある。
ファッション業界のスケジュールが現在のように目まぐるしくなったのは、ラグジュアリーブランドがファストファッションと同様の手法を取り入れたからだ。ラグジュアリーとは手間と時間がかかるものであり、大切に愛されるべきものだということを忘れて、ファストファッションのように途切れなく商品を供給することでより多くの売り上げを得ようとしてしまった。ラグジュアリーは速いペースでつくれるものではないし、またそうあってはならないものだ。「ジョルジオ アルマーニ」のジャケットやスーツをたった3週間ほど店に並べ、これはもう“季節外れ”だからとそれほど見た目の変わらない新製品と入れ替えるのは全く意味をなさないと思う。
私はそういう仕事のやり方はしていないし、モラルに反すると思っている。私は常に時代を超えたタイムレスなエレガンスを大切にしてきたが、それは美的感覚の問題だけではなく、長く着られるように服をデザインして生産するということでもある。
また「(雑誌などで見た)アイテムを今すぐ買いたい」という一部の消費者の欲望を満たすためだけに、真冬なのに店ではリネンのドレスしか売っておらず、逆に真夏にはアルパカのコートしか置いていないような現状もおかしいと思う。服を買うときに、それが着られる季節になるまで半年以上もクローゼットで眠らせておくことを想定して買う人間がどれほどいるだろうか?いたとしても、ごく少数だろう。百貨店が始めたこの方法はいつの間にか定着してしまったが、間違っていると思うし、変えなければならない。
今回の危機は、業界の現状を一度リセットしてスローダウンするための貴重な機会でもある。現在イタリアは全土封鎖の措置が取られているが、それが解除された際には、春夏コレクションの商品が少なくとも9月初旬まで店頭に置かれるように手配した。それが自然な姿だと思うので、今後もずっとそうするつもりだ。
また「オーセンティシティー(欺瞞がなく、信頼できる本物であること)」の価値も、これを機会に取り戻したい。ファッションをただコミュニケーションの手段として利用したり、軽い思いつきでプレ・コレクションを世界中で発表したり、やたらに大掛かりで派手なショーを開催したりするのはもう十分だ。意味のない金の無駄遣いであり、今の時代には不適切な上、もはや品のない行為に思える。特別なイベントだったはずのものを慣例だからと繰り返すのではなく、本当に特別な機会にのみ行うべきだ。
現在は乱気流の中にいるような先が見えない状態だが、間違いを正して人間らしさを取り戻すためのユニークな機会でもある。そういう意味では、皆が連帯しているのを目にすることができてうれしく思う。
小売業界にとって、今回の非常事態はストレステスト(過大な負荷をかけて健全性を審査するテスト)のようなものだ。難局に直面しているアメリカのアパレル小売りの皆さんに、心からのエールを送りたい。この危機に立ち向かうためには、連帯して協力し合わなければならない。そうすれば必ず乗り越えることができるだろう。それが今回の危機から得られる、最も重要なレッスンかもしれない。