「トミーナウ(TOMMYNOW)」のランウエイがサイバースペースで行われる日も遠くないかもしれない。「トミー ヒルフィガー(TOMMY HILFIGER)」はすでにアムステルダムのイノベーションセンターでアバターやホログラムの使用も試験的に始めている。トミー ヒルフィガー グローバル(TOMMY HILFIGER GLOBAL)およびPVHヨーロッパ(PVH EUROPE)のダニエル・グリーダー(Daniel Grieder)最高経営責任者(CEO)は、「バリューチェーン全体のデジタル化とバーチャルランウエイショーの実現を目指している」とインタビューで語った。
同ブランドは、2月に英国人F1レーサーのルイス・ハミルトン(Lewis Hamilton)やアメリカ人歌手のH.E.R.とコラボした"SEE NOW, BUY NOW(見てすぐ買える)"ショーをロンドンのテート・モダン(Tate Modern)美術館をはじめ、ロサンゼルスや上海で発表しているが、バーチャルランウエイショーをどのシーズンで導入するかといった具体的な時期は明かさなかった。グリーダーCEOは、「最終消費者も業界も気に入る、新しい試みになるだろう」と言い、「新型コロナウイルス感染拡大の収束後、数カ月のうちに導入したい。技術的には可能でテストも行ったが、大きな可能性を感じている」と語った。
創業者でデザイナーのトミー・ヒルフィガーは、「私は新たな可能性を前向きに取り入れていくつもりだ。新型コロナの影響でファッション・ウイークが危機に直面し、ファッション業界がこれまでのやり方を見直す必要が出てきた今だからこそね」と語り、「私は常に消費者が何を望んでいるのかを出発点にデザインをして、ユニークでポップなカルチャーを発信してきた。私たちの多くはもはやデジタルテクノロジーなしには生きていけない。テクノロジーの進化は私たちに新たな創造性をもたらしてくれるだろう」と付け加えた。
グリーダーCEOは、拡張現実(AR)やバーチャルリアリティー(VR)、ミクストリアリティーのソリューション全てを検討しているとし、「フィッティングモデルとして使ったり、一緒にキャンペーンを行ったり、ファッションショーに出ることも可能なアバターを作成した。まだ試験段階のため外部での使用には至っていないが、準備はできている」と述べ、「イノベーションは試して、良いと思ったら取り入れていく。ブランドにとって何が効果的か見極めながらね」と付け加えた。
これらの取り組みは同ブランドが企画から生産、販売までのバリューチェーンのデジタル化を推進していることを裏付けるものだ。15年にはアムステルダムの本社で卸向けのデジタルショールームを始め、19年11月には、22年春夏コレクション以降のデザインを全て3Dで行う計画を発表している。
グリーダーCEOは、「すでに同ブランドのデザイナーのうち66%は3Dデザインの訓練を受けており、20年中には全デザイナーに拡大する」と述べた。またアン・クリスティーン・ポーレット(Anne-Christine Polet)=デジタルベンチャー・シニア・バイス・プレジデントは、「35の商品グループで3Dデザインを導入しており、ブランド全体の約80%を占めている。19年11月以来、3Dでデザインされるスタイル数はこれまでの2倍になっている」と明かした。
ポーレット=シニア・バイス・プレジデントは、「3Dデザインはディテール、ライニングやトリミングなどすべてが見られるため、最初から思っているものにたどりつきやすい。また、サンプル製作や撮影などが不要になる分、時間やコストの削減にもつながる」と語り、「新型コロナ拡大でさまざまなことが滞る中、デジタルデザインによって事業の継続が可能となるだろう」と付け加えた。
当初、デジタルショールームは受け入れられず、また伝統的な服作りを学んできたデザイナーからは戸惑いも見られたという。グリーダーCEOは、「考え方を変える必要があるが」と前置きした上で、「仕組みを習得すれば、より早く、より効果的にトレンドに対応することが可能になるだろう」と語った。
ポーレット=シニア・バイス・プレジデントは、「3Dデザインへの移行により、新たなスキルを持つ人材の発掘につながっているし、他業界からソフトウエアエンジニアや3Dモデリングのスペシャリストなども採用している」と述べ、「3Dデザインを顧客に向けても活用できるよう取り組んでいる。近い将来、顧客にデジタルな体験してもらえるだろう」と意気込みを見せた。