新型コロナウイルスが猛威を振るい、“異常”な状況下で人々の価値観に変化が生まれている。大切なものとは何か?幸せとは何か?――終息後の世界は、どう変わるのか。そのときにファッション産業は?これまで数多くのファッションデザイナーを輩出してきたロンドン芸術大学(University of the Arts London)のカレッジ、セントラル・セント・マーチンズ(CENTRAL SAINT MARTINS )のBAファッション学科で教えるサラ・グレスティ(Sarah Gresty)主任教授にメールインタビューを行った。
同校の卒業生にはジョン・ガリアーノ(John Galliano)やアレキサンダー・マックイーン(Alexander McQueen)、ステラ・マッカートニー(Stella McCartney)のほか、「クロエ(CHLOE)」「セリーヌ(CELINE)」を人気ブランドに押し上げたフィービー・ファイロ(Phoebe Philo)、クリストファー・ケイン(Christopher Kane)らがいる。
WWD:コロナウイルスのパンデミックによって学生に変化は?
サラ・グレスティ=BAファッション学科主任教授(以下、グレスティ):世界はロックダウン状態になり、私たちはパンデミックの事実に直面した。私たちは世界中で隔離された学生たちに向けてリモートで授業を続けている。2020年卒業の学生たちは卒業コレクションの制作をしていたが、彼らの企画案は、この隔離状態で限定された機器や材料への変更を余儀なくされている。
以前から多くの学生たちは廃棄物を再利用したり、ハンドクラフトの手法を用いてアップサイクルしたコレクションを制作していたが、ロックダウンしてからはすべての学生が想像力を駆使して、周りにあるものからエキサイティングなものを生み出そうと試みている。
WWD:セントラル・セント・マーチンズはファッション業界のニーズを見つめ、新しい価値観やクリエイティビティを提案するデザイナーを輩出してきた。
グレスティ:長年、私たちはファッション学科のカリキュラムにサステナビリティへの問題意識を組み込んできた。学生たちには、すべての事柄に対して疑問を持ち、デザインやクリエイティブ活動に取り組み、責任ある決断や選択をすることを奨励している。学生たちはファッション業界が地球に負担を与えていることに気付いていて、その問題に取り組むことで変化を起こそうとしている。
数年にわたり、私たち(学生、教員スタッフ、そしてプログラム)はファッション業界のシステムを再評価することに取り組んできた。そしてすでにたくさんの卒業生たちがこの業界に影響を与えたと思っている。ほんの数例を挙げるとすれば、フィービー・イングリッシュ(Phoebe English)、サラ・アーノルド(Sara Arnold)、ロッティングディーン・バザール(Rottingdean Bazaar)、マッティ・ボヴァン(Matty Bovan)などの名前が思いつく。
私たちは、現状のファッションシステムに危機感を持っているラグジュアリーブランドやスポーツブランドの多くとコラボレーションをしている。そして、彼らはデザインに循環型のアプローチが必要だということに気付いている。
「終息後は工芸や時間、他者や経験、所有物との関係を大切にするようになるのでは」
WWD:新型コロナウイルスの感染拡大によって、人々の価値観や考え方にどのような変化が起こっていると思うか?そして終息後はどのように変わっていくと思うか?
グレスティ:新型コロナウイルスは、私たちに消費について問い直すことを強いている。終息後は、工芸や時間、他者や経験、所有物との関係をより大切にするようになるのではないだろうか。たくさんの物を欲しがることはなくなって、自分が選んだものから特別な何かを感じることを求めるようになるだろう。
WWD:終息後にファッション産業はどういうものを提示できると思うか。
グレスティ:企業活動の透明性を示すトランスペアレンシー・インデックスは、どのブランドがシステムの改善に成功したのかを示しており、彼らの専門知識や経験は、同じように変化を望む人々にシェアされている。パンデミックによってさらにシェアされることでサステナビリティが加速していくのではないか。