新型コロナウイルスの感染拡大で多くの小売店が苦戦を強いられ、2~3月の売り上げは前年比4割減、東京都の外出自粛要請が出された3月末には7割減という小売店もあったと聞く。そんな厳しい商況下の2~3月、東京・南青山の老舗セレクトショップ、アデライデ(ADELAIDE)の売り上げは前年比で微減、アディッション アデライデ(ADDITION ADERAIDE以下、アディッション)は売り上げを落とさなかったという。トラフィックが半減しているにもかかわらず、だ。
長谷川左希子ディレクターに電話インタビューを行ったのは4月10日。東京都の休業要請を受けて8日から店舗は臨時休業に入ったにもかかわらず、在宅勤務中だという長谷川ディレクターの声は明るく前向きだ。逆風下でもしなやかに美しく奏でるアデライデの流儀を聞いた。
売り上げを維持している要因は大きく2つある。1つ目はアデライデ、アディッションともに顧客売り上げが高い点だ。顧客向けの受注会での売り上げは全体の約35%を占める。「徹底した分析を行って買い付けている。ブランドのショールームで撮影した写真をすぐに東京のスタッフとシェアし、各スタッフは顧客の嗜好とトレンド傾向を分析したうえでフィードバックする。それを買い付けチームの分析と合わせてオーダーに反映させている。この徹底した数字管理と分析は母からたたき込まれたもので、入社して10年が経った今、生かされていると感じている」と長谷川ディレクターは話す。顧客と直接コミュニケーションをしながら買い付けているのかと想像したが実はそうではない。「高額品は顧客さまに意見を聞くことはあるけれど、ほとんどのお客さまは10年以上の方々で熟知している」と胸を張る。精度の高い買い付けの結果、毎シーズン、プロパー消化率は70~80%をキープしている。「売上高を上げるのではなく、消化率を高く持つこと、売り切れるかどうかを考えてシビアに買い付けている」。
2つ目は、昨年12月に始動したeコマースとインスタグラムを用いた施策だ。ECは好調に推移しており、国内はもちろん2~3月は特に中国から多くのオーダーが入った。「ECは海外向けを強化したいと始めた。私たちは個性あふれる店だという自負がある。今、世界中からそういった店がなくなっている中で私たちのセンスや想いを発信したいと考えた」とEC開設の理由を語る。
「強みの“人ありきの接客”を
SNSを通じて行う」
インスタグラムは公式アカウント(@selectshop_adelaideと@additionadelaide)に加え、長谷川自身が商品を着用して個人アカウント(@saki_tokio)を通じて発信している。特に新型コロナウイルスの感染拡大に伴う外出自粛が広がった2月下旬以降、入店客数が減ってからはインスタグラムのストーリー経由でのECサイトへの流入や、個人アカウントへのダイレクトメッセージ、電話での問い合わせが売り上げにつながっているという。「公式アカウントはブランディングに沿ったビジュアル重視のイメージをアップしているが、個人アカウントはよりパーソナル。親しみやすさが感じられるような配信を心掛けていて、強みの接客を動画や写真を通じて行っている」のだという。顧客からは着回しの参考になると好評で、「提案したコーディネートとは別のものが見たいというリクエストもいただき、そこから購入につながることも多い」とも言う。
インスタグラムは顧客向けだけではなく、SNSの特性を生かした商品を紹介することで新規客も増えている。「いわゆる一枚で華やかに“映え”るアイテムで、最近では『ロク』のプリーツスカートの反応がよかった」。この個人アカウントからの発信は、スタッフに強要はしていないが、店長や一部のスタッフも自主的に行っており、それぞれのセンスと個性がうけている。「私たちの個性を店頭だけで伝えるには限界がある。私たちの一番の強みは“人ありきの接客”で、それはこの先も変わらない。その“らしさ”をインスタグラムやECでどう表現するかに今、集中して取り組むことができている。これまでは、買い付けの出張や販売の合間に取り組んでいたが、今は外出できないからこそ、集中して考えることができて日々新しいアイデアが生まれている」。
「テラスハウスがはやっているのは人に興味があるから。おしゃれしてポストするのではなく、どんな人で何を食べてどんな家具を使ってどういう生活をしているかに興味がある。食、ワイン、家具、アート、写真集など何か共通するものが好きだったらフォローしてもらえるし、アデライデの知名度も上げることができる。あらゆるツールを用いて私のストーリー、アデライデのストーリーを発信していきたい」。
「お客さまは待っていても来ない」と近日中にLINEの公式アカウントも開設予定で、SNSを通じた発信の仕組みを強化する。「撮りためたストーリー用の動画や写真を投稿したり、各スタッフのブログを頻繁に更新していく。店頭に立たなくてもできる接客を模索している。4月で落とした売り上げをカバーするために、5~6月の施策をスタッフ全員で考えているところだ」。