「中国で都市封鎖が解かれた瞬間、中国の顧客はバッグや靴を買い求めた」と語るのは、ナンシー・ジャン(Nancy Zhang)=ボーダーエックスラボ(BORDERX LAB)ニューヨーク・パートナーシップ部門責任者だ。“リベンジ買い”と呼ばれるこの現象について同氏は、「消費者は買い物できなかった2カ月を取り戻そうとしている」と言う。ボーダーエックスラボは欧米の小売り向けに中国人顧客をターゲットにした越境ECプラットフォームを展開している。同社のモバイルECアプリ、「ビヨンド(Beyond)」のユーザーは主に18歳から30代半ばの中国人1300万人で、売り上げの80%は中国が占めているという。
同社のECアプリでは、欧米のアパレルやコスメブランドの600万点以上の商品を取り扱っており、顧客の中心は中国やその他中国語圏、北米、欧州に広く分布する中華系ミレニアル世代だという。彼らの8割は中国、そのほかの2割は主に北米や欧州に居住している。同社はシリコンバレーと上海の2カ所に本社を構えている。
提携先は、サックス・フィフス・アヴェニュー(SAKS FIFTH AVENUE)、ブルーミングデールズ(BLOOMINGDALE'S)、メイシーズ(MACY'S)、ハロッズ(HARRODS)など欧米の大手百貨店や「アレキサンダー ワン(ALEXANDER WANG)」「DKNY」「ケイト・スペード ニューヨーク(KATE SPADE NEW YORK)」などの有名ブランドを筆頭に100を超える。これら各社はボーダーエックスラボのECアプリを利用することで、代理店や合弁事業、中国に特化した部門を必要とすることなく、中国人顧客に直接販売することが可能だ。
中国では2月に封鎖が始まり売り上げが減少したが、需要に大きな変化がみられたという。ジャン氏は、「封鎖解除前はビューティ、特にスキンケア商品が比較的よく売れていた」と言い、「ビューティ関連は10〜15%減少にとどまる中、稼ぎ頭だったアクセサリーや既製服の売り上げが激減した。その一方で、健康美容サプリメントは7倍増以上となった。人々が外出を控える中ではバッグや靴の需要が低いからだろう」と説明した。
ビューティ関連が堅調な需要を見せる中、「ドゥ・ラ・メール(DE LA MER)」「エスティ ローダー(ESTEE LAUDER)」「トム フォード ビューティ(TOM FORD BEAUTY)」「シャンテカイユ(CHANTECAILLE)」「NARS」「M・A・C」などの大手コスメブランドの売り上げが好調となったほか、「コスメデコルテ(DECORTE)」「パット マクグラス ラブス(PAT McGRATH LABS)」「アワーグラス(HOURGLASS)」「スマッシュボックス(SMASHBOX)」「グープ バイ ジュース ビューティ(GOOP BY JUICE BEAUTY)」などの特化したコスメブランドも堅調だという。
同氏はまた、「封鎖が解かれ始めて日常生活に戻りつつあった3〜4週間前から、中国の販売状況が回復し始めた」と言い、「上海の同僚は渋滞につかまり、人々が外出し始めたことを実感し喜んでいた」と語った。中国ではいまだに旅行等は厳しく制限されているが、隔離制限が緩められ人々が早くも集い始めているという。同社が「2〜3月は『ブラックフライデー』並みの売り上げを記録した」とも明かしている。
ラグジュアリーブランドでは、「グッチ(GUCCI)」「サンローラン(SAINT LAURENT)」「セリーヌ(CELINE)」、手の届きやすい高級ブランドでは「マイケル・コース(MICHAEL KORS)」「トリー バーチ(TORY BURCH)」「コーチ(COACH)」などの販売が好調だという。同氏は、「これらのブランドが中国市場で広告や販促に多く投資してきた結果だ」と述べ、「全体的にメンズの時計や革小物、サングラスなどの販売が非常に堅調」と付け加えた。
ファッションのカテゴリーでは「オフ-ホワイト c/o ヴァージル アブロー」「ロエベ(LOEWE)」「セリーヌ」が、フットウエアやアクセサリーでは「スチュアート・ワイツマン(STUART WEITZMAN)」「マイケル・コース」「アレキサンダー ワン」や「ディオール」のアイウエアの販売が好調だという。このほか「マーク ジェイコブス(MARC JACOBS)」「バーバリー(BURBERRY)」「ケイト・スペード ニューヨーク」「フェンディ(FENDI)」「マルニ(MARNI)」「トリー バーチ」も好調で、特に「クロエ(CHLOE)」のフラットミュール、「ディオール」のリボン付きパンプスや「マーク ジェイコブス」のカメラバッグがよく売れているという。
ジャン氏は、「販売状況を都市別に分析していないが」と前置きした上で、「新型コロナが発生した武漢には商品を届けるのがまだ難しい状況にある」と語った。「興味深いのは、弊社ECの普及率が中国の大都市よりも中小都市で高いということ。大都市では実店舗やネット通販など選択肢が数多くあり、ブランドの認知度も高いからだろう」と述べ、「中小都市ではフラッグシップ店舗などが少なく、トレンド情報も入ってきにくい。中小都市に暮らす人にとって、弊社のアプリはとても便利でインタラクティブなプラットフォームであり、コミュニティーとなっている。自分では、ブランドの情報を得たり買ったりすることが難しいからだろう」と説明した。
また同氏は、「新型コロナの影響から米国で実店舗が休業に追い込まれて以来、弊社のECアプリに商品の供給を依頼する電話が鳴り止まない」と言い、「ブランドや百貨店の在庫を動かすのに弊社が一役買っている」と述べた。
アプリでは商品だけではなく「どんなものがカッコよくて、何を買ったらいいか、といったコンテンツを提供している」と言い、「ユーザーは、コンテンツを読みながら商品を見て、その商品のレビューを読み、そして購入することができる」とも語る。
2019年には、ビューティ関連を抜いてストリートウエアやスニーカーが最も売れるカテゴリーになっていたという。しかし、都市が封鎖され外出が制限されていた間はスパやエステに行けなかったことなどから、ビューティ関連が大幅に巻き返したという。
洗顔ブラシブランドの「クラリソニック(CLARISONIC)」や、美容機器の「リファ(REFA)」、「ニューフェイス(NUFACE)」などの販売が好調で、おうちエステの需要は引き続き見込まれるだろうという。ビューティ関連の売り上げは前年比50%増となっているという。ジャン氏に不足している商品はないかと尋ねると、「『エルメス(HERMES)』のリップスティックが極度の品薄。もっと欲しいが、どこも売り切れ状態」と明かした。
「都市封鎖中の中国では自宅待機や在宅勤務となる人は多かったものの、失業する人は少なかった」と言い、「顧客のターゲットは比較的裕福で欧米のライフスタイルコレクションを求めているミレニアル世代。彼らは中国の総人口14億人のうちおよそ1%を占めている」と述べた。また、同氏は「全体の売り上げは前年比20%増で推移している」と言い、「米国では新たな販路を探している事業者からの引き合いも多い」と明かした。