伊「ヴォーグ(VOGUE)」4月号は、同誌史上初めての真っ白の表紙と共に新型コロナウイルスのパンデミック特集を組んだ。エマニュエル・ファルネティ(Emanuele Farneti)編集長が、そこに込めた思いを語る。
「白は何よりもまず尊敬の念を表す。そして、生まれ変わり。暗闇の後の明るさ。いろんな色の集まりでもある。白は自分を危険にさらしながらも戦い続けてきた人々の制服の色。考える時間と空間。そして沈黙を守ること。それはつまり、この時間と空間をアイデア、思考、物語、詩、音楽、思いやりの気持ちで満たすための色でもある。また、1929年の世界恐慌の後、洋服が一変して白になったことをほうふつとさせる。当時人々は白い服を着ることで純粋さ、未来への希望を表した。そして何よりも、白は降伏ではない。そこにあるのは埋められゆく空白のページと、新しい物語の始まりだ」。
業界を揺さぶる緊急事態をうけて同号は無料ダウンロードを可能にした。特集の中には作成に加わったファッションデザイナーによる描き下ろしイラストもある。「ディオール(DIOR)」アーティスティック・ディレクターのマリア・グラツィア・キウリ(Maria Grazia Chiuri)やミウッチャ・プラダ(Miuccia Prada)、「ヴァレンティノ(VALENTINO)」クリエイティブ・ディレクターのピエールパオロ・ピッチョーリ(Pierpaolo Piccioli)、「グッチ(GUCCI」クリエイティブ・ディレクターのアレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)、ドナテラ・ヴェルサーチェ(Donatella Versace)、マイケル・コース(Michael Kors)、ステラ・マッカートニー(Stella McCartney)、「ヌメロ ヴェントゥーノ(No.21)」クリエイティブ・ディレクターのアレッサンドロ・デラクア(Alessandro Dell'Acqua)、ジェレミー・スコット(Jeremy Scott)らが作成。さらに、ミケーレとピッチョーリは在宅勤務とクリエイティブ業の両立について誌面で語った。
「『ヴォーグ』の存在は娯楽の為であるという人もいる。つまり、ページをめくる人に数時間の気晴らしを『ヴォーグ』は提供していると。それがどれくらい正しいのか、私は分からない。しかし私が確かに分かっていることは、この号で伝えるように、この雑誌は100年以上の歴史の中で戦争や危機、テロなどを経験してきたということだ。その中で、私たちは目をそらすことだけはしないという伝統を受け継いできた。一番素晴らしい例を挙げるとするなら、ナチスによる空襲の間に英国版の編集長を務めたオードリー・ウィザーズ(Audrey Withers)だろう。ウィザーズが身をもって伝えたように、受け身であることは現状への同意を意味する」とファルネティ編集長は語る。
「ある程度仕上がっていたものをそのまま出版しようとしていた。そこには『ルウオモ・ヴォーグ(L'UOMO VOGUE)』とのコラボ企画もあった。しかし何人もの人が亡くなり、医師や看護師らは自身の命を危険にさらしている。世界はもう以前とは全く別のものになっている。そこから目をそらすことは『ヴォーグ』のDNAが許さないのだ。全てを白紙に戻してゼロから始めた」。
中には普段から交流するアーティスト40人と1週間で仕上げた特集もある。協力したのは、スティーブン・クライン(Steven Klein)、デイビッド・シムズ(David Sims)、マート・アラス(Mert Alas)、マーカス・ピゴット(Marcus Piggott)、ジョー・マッケンナ(Joe McKenna)、ベラ・ハディッド(Bella Hadid)、ジジ・ハディッド(Gigi Hadid)ら。自宅での様子や、家族や友達とオンラインで繋がっている状態のホームスナップなどを掲載した。