ファッション
連載 小島健輔リポート

新型コロナで余った在庫をどうするか 二つの選択【小島健輔リポート】

 
ファッション業界の御意見番であるコンサルタントの小島健輔氏が、日々のニュースの裏側を解説する。新型コロナウイルスの感染拡大を抑えるために発令された緊急事態宣言によって、都市部の店舗はほぼ休業。行き場を失った商品はどうなるのか。

 新型コロナパンデミックによる休業や客数激減で3〜4月という書き入れ時の売り上げが壊滅的に落ち込み、アパレルメーカーや小売りチェーンは行き場のない在庫を抱えて四苦八苦している。販売機会を失って抱えた在庫をどうすべきか、対策を検証して見たい。

売り上げの落ち込み以上に利益が吹き飛ぶ

 店舗売り上げは3月、4月と底割れして回復の時期も読めず、生活圏の店舗はともかく、ターミナルや繁華街の店舗の落ち込みは壊滅的だ。もとよりECに注力していたブランドやストアは、販売員のスタイリング投稿やチャット接客を拡大して売り上げを伸ばしているが、店舗売り上げの減少が大きすぎて焼け石に水で、もはや販売機会が期待できない春物などは多少のクーポンでは効かず、大幅値引きで処分を急いでいる。

 2月の売り上げは8月と並んで年間で最も低いため、多少は売り上げが落ち込んでも犠牲は少ないが(最低保証家賃負担は跳ね上がる)、3月は12月、1月と並んで最も売り上げ水準が高く、消費税増税で10月以降が落ち込んだ19年は百貨店衣料品で年間売り上げの9.74%、同婦人服も9.34%を占め、12月を上回って1月に続くピークとなった。ドレスアイテムやビジカジ(ビジネスカジュアル)のピークは3月だがカジュアルのピークは4月で、カジュアルチェーンなどは4月が春夏で最も売り上げが高いから、緊急事態宣言の直撃を受ける。

 売り上げのみならず3月、4月は9月、10月と並ぶプロパー販売期で粗利益率が高く、5月以降に緊急事態宣言が解除されても在庫処分のセール合戦になって利益は残らない。3月、4月の売り上げが飛んでは、春夏期は捨てたも同然なのが衣料品販売の現実だ。加えて、売れなくても最低保証家賃を天引きされては損益どころか資金繰りも苦しくなる。全ての商業施設デベロッパーがイオンモールのように一律撤廃することが望まれる。

先の損益か今の資金繰りか

 3月、4月の売り上げが飛んで残った在庫をどうするか、資金繰りの苦しい企業とゆとりのある企業で対策は二分される。

 資金繰りに窮する企業は在庫をたたき打って換金するしかなく、プロパー販売期としてはありえないほどEC中心に値引き販売する一方、二次流通業者に大量放出している。バッタ屋やオフプライスストアにとっては例年にない特需になっており、通常は限られる春夏のオンシーズンものが大量に放出されている。このパニックを契機に、放出に躊躇してきたブランドも方針を変えざるを得なくなっており、オフプライスストアの離陸期とも重なって流れが一変しつつある。

 資金繰りにゆとりのある企業は秋冬物の仕込みを抑え、春物を持ち越して秋冬の品ぞろえに組み込もうとしている。今春のトレンドは抜けナチュラルに流れて秋冬と大差ない色付けだったし、欧米も国内も秋冬コレクションが中止になって新たなトレンドを生み出すパワーがなく、初秋から秋にかけては春物残品を品ぞろえに組み込んでも無理がないと判断しているようだ。

 二次流通業者にたたき売ればオンシーズン物でも調達原価の半分前後になってしまうが、秋まで持ち越せばプロパーで売ることもできる。利回りを計算すれば1000%を超えるから、資金繰りにゆとりのある企業と窮する企業の明暗は極端だ。

衣料消費マインドは一変し9割が業界を去る

 3.11のときも消費マインドが長期間にわたって萎縮したが、当時をはるかに超える未曾有の世界的厄災に直面して誰もが生計も資産も傷つき、エシカルに人生観を変えざるを得なくなる。過剰消費と膨大な無駄が支えてきた現代文明そのものがエコミニマルに転換する契機となるやも知れない。トレンドやコンセプトで不要不急の買い替えをあおる一方でエシカルをうたうマッチポンプなファッションビジネスがサステイナブルなわけがなく、継続できる事業構造に抜本的に転換しないと破綻は避けられない。
人の労力に頼る労働集約型はもう無理で、資本集約型かシステム集約型に変わらざるを得ないが、その過程で9割の従業者を振り落とすことになる。商業施設デベロッパーやECプラットフォーマー、フィンテック事業者は10分の1の人員で10倍の利益を稼いでいるではないか。

 人が労力と知恵を凝らし、夢を創り、夢を貪ってきたファッションビジネスは、資本とシステムで稼ぐデジタルなプラットフォームビジネスに変貌しないと生き残れない。ECシステムを基幹として店舗が利便を補完するOMOが当たり前になり、半分どころか9割の人々が業界から去っていく現実をコロナパニックは突きつけたのではないか。

※OMO(Online Merges with Offline)…ネットと店舗の垣根を超えた融合を意味し、モバイルフォンをキーツールとしてウェブルーミングとショールーミングを駆使するニューリテール戦略

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小島健輔(こじま・けんすけ):慶應義塾大学卒。大手婦人服専門店チェーンに勤務した後、小島ファッションマーケティングを設立。マーケティング&マーチャンダイジングからサプライチェーン&ロジスティクスまで店舗とネットを一体にC&Cやウェブルーミングストアを提唱。近著は店舗販売とECの明日を検証した「店は生き残れるか」(商業界)

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