ファッション

佐藤繊維が銅の力で抗菌、和紙で速乾のニットマスクを販売

 山形県寒河江市を拠点にする紡績・ニットメーカーであり、地元でセレクトショップ「ギア(GEA)」を運営する佐藤繊維が、新型コロナウイルス感染拡大を受けてマスクの製造に踏み切った。同社のノノウハウを生かして速乾性のある和紙と、抗菌作用を持つ銅のシートを組み合わせた、何回でも洗って使えるオリジナルのマスクだ。2700円と安くはないが、13日に「ギア」の店舗で500枚を用意したところ、整理券全てがなくなり完売。ウェブ販売と店舗での販売を継続し、地元の人たちやマスク不足で困っている人たちに貢献したいという。佐藤正樹社長の思いとは?

WWD:なぜマスクに和紙を使用したのか?

佐藤正樹社長(以下、佐藤):今市場で販売されている洗えるマスクは、ほとんどが綿素材。雑菌が繁殖しやすく、ウイルスが残りやすい。綿は吸水性がある一方で乾きにくく、長く使用していると臭くなってしまう。そこでポリエステルで包んだ和紙を使用することで吸水性と速乾性をよくし、肌触りをよくするために3つの加工をして洗いをかけ、保湿効果も高めた。また、耳にかけたときに痛くならないよう、ポリウレタンを編み込むことでストレッチ性を持たせている。100回は問題なく洗濯して使用できる。

WWD:この立体マスクは縫製の箇所がない。

佐藤:一般的な布マスクはさまざまな箇所を縫製することで立体的にしているが、弊社は縫製を一切行わず、編みだけで立体形状を生み出しているため、顔に当てたときにすき間がなく、よりフィットするようになっている。

WWD:それらには佐藤繊維がこれまで培ってきたノウハウが生かされている。

佐藤:2000年から無縫製編みに着手し、体にフィットするニットウエアの開発を続けてきた。「無縫製であること」「立体的であること」「フィット感があること」――これらにこだわりを持っている弊社だからこそのマスクだと思う。

WWD:マスクの中に銅成分を加工したシートが入っている。これもほかのマスクにはない点だ。

佐藤:銅はもともと強い抗菌作用があるため、マスクに生かしたいと弊社特性の銅シートを開発した。このシートを和紙マスクのポケットの中に入れることで、抗菌、防臭効果が期待できる。この銅シートは銅化合物のコーティングを施した糸を使用し、それを天竺編みと呼ばれる薄く仕上がる手法を用いることで、シート装着時にも肌へのストレスを軽減することができる。

WWD:マスク発売後の反響は?

佐藤:ネットで購入するのが難しい地元の高齢者もいるため、店頭に人が集まるのは本来あまりよくないのだが、毎週月曜に店舗で整理券を配って販売することにした。13日の初日は朝5時から並んでいる人もいて、500枚用意したマスクはその日に完売した。ネットでは佐藤繊維とセレクトショップ「ギア」の通販で購入できるようにしている。

WWD:現在、社内ではマスクの製造にどれくらいのスタッフが関わっている?

佐藤:編み立てしているスタッフは15人ほど。販売に至るまでにはさらに15人ほどが関わり、総勢30人くらいがマスクで稼働している。ネットでの予約もほぼ埋まっている状態なので、この需要に応えるべくほかの機械も稼働させスクエア型のマスクも生産することにした。既存モデルとは形状は異なるが、使用する和紙糸、銅シートはそのままに無縫製で仕上げている。できるだけ増産できる態勢をつくっていきたい。

WWD:マスク以外の商況は?

佐藤:実店舗は3月の売り上げは伸びていた。山形県は感染者ゼロ県として4県の中に残っていたため、他県から車でやって来る人たちもいた。しかし、若者が帰省する時期とも重なり、移動したりしたことで感染が拡大し、4月は来店もめっきり減ったため厳しくなると思う。「ギア」に併設しているレストランも夜は営業を中止し、昼のランチとテイクアウトのみを提供している。

WWD:佐藤繊維はニット紡績から編み立て、縫製、オリジナルブランドの開発、セレクトショップの運営まで、業界の川上から川下まで一気通貫でビジネスを行っている。新型コロナウイルスによる今後の影響をどう見ているのか?

佐藤:これから流通改革が起きるのではないか。必要以上のものを買う時代ではないし、中間に入っていたような業者も淘汰され、作る人、デザインする人、売る人といった必要最小限のパートナーシップで商売をするようになるだろう。オーダーする側と作る側のバランスが取れて初めて適正価格にもなり廃棄ロスも減るのではないか。

WWD:アパレルメーカーの状況は?

佐藤:在庫を抱える企業は倉庫を借り続けており倉庫の奪い合いにもなっていると聞く。また納品されても代金を支払えないアパレルメーカーもあり、店も淘汰されていくのではないか。紡績でいえば、糸は買うから製品は作らないでというメーカーもあれば、糸の購入さえもキャンセルしたいという声も聞く。工場の稼働が半分になったりすれば社員の給料も減ってしまう。ニット業界で言えば、注文を受ける側なので、なかなかコントロールが難しい。ニットの縫製、加工工場はこれまでにない厳しい状況だ。

WWD:今できることとは何か?

佐藤:厳しいときだが、だからこそマスクの生産といった新しいチャレンジもしながら、新たなビジネスの環境をつくることも大事だと思う。われわれに限らず、新型コロナの影響でこれまで生産だけをしていた人たちがマスクを作り、自分たちで販売まで行うようになった。それはこのような状況だからこそ踏み出した新たな一歩。それぞれがこの苦難を乗り越える環境をつくれるかどうかも大事だと思う。

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