古田泰子による「トーガ(TOGA)」は2月に開催されたロンドン・ファッション・ウィークで、2020年-21年秋冬コレクションを発表した。会場として選んだのは、かつてビール醸造所だった施設オールド・トルーマン・ブルーワリー(The Old Truman Brewery)内にある倉庫のような広々とした空間。筆者がバックステージに到着したショー開始1時間前にはリハーサルもすでに終えていた。メイクアップとヘアスタイリングを済ませたモデルたちは楽しそうに踊っており、時間にも心にも余裕のある和やかな雰囲気だった。メイクを手掛けた伊藤貞文「NARS」グローバルアーティストリーディレクターは、最後のリタッチを加えている。ヘアを担当した高橋詩織はコーンロウのヘアスタイルに時間がかかっていたようで、本番ギリギリまでほぼ付きっきりであった。そこに古田デザイナーの姿は見当たらない。彼女はランウエイで、最終的な会場内の調整を行っていたようだ。
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来場者が入場し、バックステージでモデルが並び始めたころに古田デザイナーの姿をようやく確認できた。全てのルックを360度確認して、リボンを結び直したり、バッグやベルトの位置を調整したりして、モデル一人一人に声をかけながら、ランウエイへと送り出した。
不確実性が渦巻く時代に
“守ること”について考えた
ショーはアンディ・ストット(Andy Stott)の楽曲「ボールルーム(Ballroom)」でスタートした。激しいドラムの音とエレクトロニックなBGMが流れる中、量感のあるルックが続く。風をはらんでパラシュートのように膨らむ袖、ふかふかのダウン、思わず触れたくなるフェザーやフェイクファー——「トーガ」らしいマスキュリンな強さはシャツやパンツスーツのルックで表現されているが、どこか慈しむような温かさの方が強く感じられた。艶やかなPVCは軽快に優しく揺れて、カットアウトされたニットドレスでさえも柔らかく体を包み込んでいるように見えた。ビッグサイズのパッファーのバッグや、ふわふわのフェザーが装飾されたサンダルなど、ディテールには無邪気な遊び心を加えて見る者の心をくすぐる。
今季のテーマは“光・保護・不安定(Light Protection Instability)”の3語。「不確実性が渦巻く不安定な時代に、守ることについて考えを巡らせた。実存の疑いを表しているようなフランシス・ベーコン(Francis Bacon)の絵を見て、希望と安らぎで世界が満たされることを願った」とコレクションノートに古田デザイナーの言葉がつづられていた。
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時代の空気を読み解き、
女性の心に寄り添う優れた洞察力
イギリスが欧州連合(EU)離脱のための移行期間へと入り、王子夫妻による前代未聞の英国王室の離脱騒動に揺れ、さらには新型コロナウイルスの不安が世界中に広がり人種差別の風評被害へと発展する昨今。自分に不幸がいつ降りかかるかも分からないし、この世に“絶対”なものや“完璧な安らぎ”がないと否が応にも思い知られされる。しかしこんな時代でも幸いなことに、私たちには「トーガ」がある。時代の空気を読み解き、女性の心に寄り添う洞察力に優れた古田デザイナーが、時には背中を押し、時には一緒に闘い、時には私たちを優しく包み込んでくれるのだから。こんな時代だからこそ、希望を謳うブランドはより一層輝いて見える。