新型コロナウイルスが猛威を振るい、“異常”な状況下で人々の価値観に変化が生まれている。大切なものとは何か?幸せとは何か?――終息後の世界はどう変わるのか。そのときにファッション産業は?
今回は、昨年までロンドン芸術大学(University of the Arts London)のロンドン・カレッジ・オブ・ファッション(London College of Fashion)で学長を務め、昨年秋にゴールドスミス大学(Goldsmiths)の副学長に就いたフランシス・コーナー(Frances Corner)教授に聞く。
彼女は人権や環境問題と積極的に向き合い、仕組みから考え直した改善策を提案できるような学生を育てるため、ファッションだけではなく多彩な学部があるゴールドスミスに移っている。
WWD:新型コロナウイルスによって、人々の価値観や思考方法にどのような変化が起こっていると思いますか?そして終息後はどのように変化していくと考えますか?
フランシス・コーナー=ゴールドスミス大学副学長(以下、コーナー):新型コロナウイルスのパンデミックは、私たちの多くに人生において何が大切なのか考え直すことを促しています。私たちはスローダウンし、より少ないもので生きる術を学ぶことを求められています。「本当に必要なものはなんだろう?」――人々は自問しています。また私たちはこれまで以上に、他者とのつながりについて意識しています。このような思いや考えは、間違いなくファッションや私たちの買い物習慣にも広がることでしょう。ファッションが人々や環境に与える影響への意識が高まっていることを考慮すると、より多くの消費者がファッションとの関係を見直して買い物の頻度を少なくし、品質が高くサステナブルなものを求めるようになると私は期待しています。
WWD:そうした人々の価値観や行動の変化からどのようなニーズが生まれると思いますか?それに対してファッション業界が提案できることは?
コーナー:ブランドは、パンデミック以前から始めていた社会的意義のある事業――例えば、サステナブルなラインの販売や「H&M」や「アーバンアウトフィッターズ(URBAN OUTFITTERS)」など大手ブランドによる服のレンタルサービスなどを――で消費者の要求に応えられるし、そういう動きはさらに推進すべきでしょう。このパンデミックはファッション業界の持続的変化を引き起こす原動力を与えてくれると思います。
WWD;そもそも無理があったファッション産業は、これを機にどのように“最適化”されるべきでしょうか。
コーナー:パンデミックは業界が変化するための好機であり、ブランドがより良い方法でテクノロジーを使うチャンスです。すでにサステナブルな解決方法があるにもかかわらず、人々がファッションショーのために世界中から飛んでくることをどう正当化できるでしょうか。
ブランドはサステナビリティのための行動を後回しにしてはいけません。すでに多くの意義ある行動がとられていますが、気候変動という差し迫った問題を無視してはいけません。それが正しいことだからというだけでなく、消費者が行動を求めているからです。
労働者の権利も検討すべき大きな課題の一つです。この危機が何ごとかを明らかにしたとすれば、それは世界中の工場で衣服を作る人々に業界が依存しているということです。このような人々を守ることは極めて重要です。
また、このパンデミックによって大きな打撃を受けた個人事業主のメーカーや起業家などに対するより手厚いサポートがあればと思います。向こう数年で必要になるイノベーションを起こすのは彼らであり彼女たちで、そういう人たちが業界の最前線にいるのです。