ファッション

「他のアイテムを台無しにするモノは作らない」 ギョーム・アンリが語る「パトゥ」のデザイン哲学

 2020年春夏にギョーム・アンリ(Guillaume Henry)=アーティスティック・ディレクターによるコレクションで復活を遂げた「パトゥ(PATOU)」(旧「ジャン・パトゥ(JEAN PATOU)」)は、デビューシーズンから好スタートを切った。「カルヴェン (CARVEN)」を人気コンテンポラリーブランドへと押し上げたことで知られる彼が得意とするのは、“カワイイ”という言葉がしっくりくるウエアラブルなデザイン。その手腕は、「パトゥ」でも遺憾なく発揮されている。

 「フレッシュでフレンドリー、そして皆を笑顔にするような現実味のあるブランド」と「パトゥ」を表現するアンリ=アーティスティック・ディレクターのインスピレーション源となっているのは、自身の親しい友人や同僚たち。1914年に創業したメゾンのルーツであるクチュール的な要素を取り入れながらも、手の届く価格帯(タンクトップやTシャツは1万円台、ジャケット5万〜12万円台)と着こなしやすいデザインで新たな市場の開拓を目指している。「『パトゥ』のコレクションにおいて重要なのは、フィット感とウエアラビリティー。そして、アイテムのラインアップを絞り込むことを意識している。トゥー・マッチなことはしたくないし、的確で完成度の高いアイテムから成る小さなコレクションというアイデアを気に入っているんだ。だから、新しいシェイプのアイテムを作るときには毎回、既存のアイテムと並べた時に“新しさ”があるかを考える。例えば、新たにドレスを作るなら、すでにコレクションにはフィット感のあるミニドレスがあるから、ロング丈で流れるようなシルエットといったようにね。全てのアイテムに異なる命を宿すべきだと思うから、他のアイテムを台無しにするモノは作らない」。

 また、コレクション全体の10〜15%は、ピーコートやコンパクトなデニムジャケット、シルクブラウスなどシーズンを超えて提案するアイテム“エッセンシャル”で構成されている。「“エッセンシャル”は、いわば『パトゥ』らしさを分かりやすく表現したアイテム。シーズンが終わったからといって好評だったデザインさえも消し去ってしまうのは、もったいない。ケーキ屋さんを想像したら分かってもらえると思うけど、季節が変わって自分のお気に入りのケーキがなくなっていたら、悲しいでしょ?」とアンリ=アーティスティック・ディレクターは笑う。

環境への配慮や透明性への取り組み

 そういったサステナブルな考え方はデザインだけでなく、パッケージや生産背景にも反映されている。ショッピングバッグやボックスからハンガー、商品タグにいたるまでパッケージには、環境に配慮したリサイクル材料もしくはリサイクル可能な材料を100%使用。アイテムは全てヨーロッパ内で生産し、環境フットプリントの削減に努めている。さらに、商品タグにはQRコードがプリントされていて、スマートフォンのカメラなどで読み取るとそれぞれの商品の生産背景やストーリーを知ることができる。「僕たちにとって、消費者が自分の買うものについて知ることはとても重要。さまざまな業界で“透明性”への意識が高まっている。例えば、食品業界ではどこで誰が生産したか分かるものが増えているよね。それがファッションでまだ一般的になっていないのは、恥ずかしいことだと感じたんだ」。

 そんな時代に即したさまざまな取り組みを行う「パトゥ」は、数々のラグジュアリーメゾンを擁するLVMHモエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON)の傘下にある。しかし、そのブランディングは他のメゾンとは大きく異なる印象だ。コレクションの発表方法にしても、大きなランウエイショーではなく、シテ島にあるメゾンのオフィス兼アトリエでのプレゼンテーションを選んでいる。その理由は「ブランドのバックステージを見せるため」とアンリ=アーティスティック・ディレクター。「裏側を見せるのは刺激的だし、大掛かりなセットは必要不可欠ではない。言ってみれば、自分の家に皆を招待して食事をするような感覚だ」と続ける。その言葉通り、「パトゥ」にはアットホームな心地よさがある。今後についても「大きなブームを起こす必要はない。ステップ・バイ・ステップでブランドの魅力を広げ、成長させていきたい」と、業界のスピードに踊らされることなく慎重に歩みを進めていくようだ。

JUN YABUNO:1986年大阪生まれ。ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションを卒業後、「WWDジャパン」の編集記者として、ヨーロッパのファッション・ウィークの取材をはじめ、デザイナーズブランドやバッグ、インポーター、新人発掘などの分野を担当。2017年9月ベルリンに拠点を移し、フリーランスでファッションとライフスタイル関連の記事執筆や翻訳を手掛ける。「Yahoo!ニュース 個人」のオーサーも務める。20年2月からWWDジャパン欧州通信員

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