新型コロナウイルスの影響による休業措置が長引くにつれ、欧米のアパレルブランドや小売店は生産業者への発注を停止したり、発注分をキャンセルしたりせざるを得なくなっている。その結果、主にアジアの縫製工場などがしわ寄せを受けており、賃金の未払いや労働者の不当な解雇が相次いでいる。
労働者の人権問題に取り組む米国の非政府組織(NGO)「ワーカーズ・ライツ・コンソーシアム(The Worker Rights Consortium以下、WRC)」は、縫製産業の労働環境を調査する「センター・フォー・グローバル・ワーカーズ・ライツ(Center for Global Workers’ Rights)」と提携し、サプライヤーに対するアパレル企業などの支払い状況を追跡した。WRCは、「危機的な状況が続く中で、ブランドや小売店が苦境に陥っていることは理解している。しかし、だからといってサプライヤーや労働者に対する義務を放棄していいことにはならない」とコメントした。
調査の結果は以下の通り。
【支払いをすると約束している企業】
アディダス(ADIDAS)、ナイキ(NIKE)、H&Mヘネス・アンド・マウリッツ(H&M HENNES & MAURITZ)、「ザラ(ZARA)」を展開するインディテックス(INDITEX)、「カルバン・クライン(CALVIN KLEIN)」や「トミー ヒルフィガー(TOMMY HILFIGER)」を擁するPVHコープ(PVH CORP)、キアビ(KIABI)、「ユニクロ(UNIQLO)」などを擁するファーストリテイリング、マークス&スペンサー(MARKS & SPENCER)、ターゲット(TARGET)
なお「ザ・ノース・フェイス(THE NORTH FACE)」「ティンバーランド(TIMBERLAND)」「ヴァンズ(VANS)」などを擁するVFコーポレーション(VF CORPORATION)もこのリストに掲載されているが、本当に支払いがされるのかについてサプライヤーから疑念の声が上がっているとの注釈が付けられている。
【支払いに同意していない企業】
ギャップ(GAP)、アーバンアウトフィッターズ(URBAN OUTFITTERS)、アパレルEC「エイソス(ASOS)」、「トップショップ(TOPSHOP)」や「トップマン(TOPMAN)」などを擁するアルカディア・グループ(ARCADIA GROUP)、ベビー用品店「マザーケア(MOTHERCARE)」、ネクスト(NEXT)、C&A 、ベストセラー(BESTSELLER)、J.C.ペニー(J.C. PENNEY)、コールズ(KOHL’S)、テスコ(TESCO)、ウォルマート(WALMART)
アソシエイテッド・ブリティッシュ・フーズ(ASSOCIATED BRITISH FOODS)が展開する激安店のプライマーク(PRIMARK)も、当初は契約の不可抗力条項を適用して支払いを拒否しようとした。しかし多方面から厳しく批判されたことを受け、15億ポンド(約2010億円)相当の納品済みの商品と、3億7000万ポンド(約495億円)相当の生産中の商品に対する支払いをすると発表した。同社はバングラデシュやカンボジアなどの縫製工場の労働者に対する賃金支払いを支援する基金を設立することも発表したが、各国の支援策を考慮して補償額を調整するとしたため、「分かりにくい」と新たな批判を招いている。
ファッション業界における環境や労働問題への意識啓発を行っているNGO「ニュー・ファッション・イニシアチブ(New Fashion Initiative)」のローレン・フェイ(Lauren Fay)=エグゼクティブ・ディレクターは、「縫製業に従事している女性はそもそも経済的に困窮している場合が多い。新型コロナウイルスの感染拡大は、ブランドや小売店に業績悪化や閉店などの被害をもたらしているが、それは労働者のホームレス化や飢餓というさらに深刻な問題につながる」と語った。
こうした状況を懸念した活動家らによって、縫製業などに従事する労働者を支援するための資金調達を行っている団体や寄付先などの情報をまとめたウェブサイト「ガーメントワーカーCOVID-19リリーフ(Garment Worker COVID-19 Relief)」が立ち上げられている。