新型コロナウイルス収束後、ますますウエルネス市場が成長しそうです。単に免疫力の高い健康体を手に入れるという目的だけでなく、精神面も康やかで心を満たす時間を持てることや、QOL(クオリティー・オブ・ライフ=生活の質)の向上を目指すという人間心理が働くのはでないかと思っています。2015年パリ同時多発テロ事件後、フランスではウェルネスやビューティ市場が急成長を遂げました。当時、知人のビューティジャーナリストは「手で肌に触れて感じて、丁寧に“自分をケアする”という時間が、不安を抱えるフランス女性に求められている。結果ではなく、心を落ち着けリラックスできる、その過程にこそ重きを置くようになった」と話していました。
私自身、パリのロックダウンを経験してウエルネスの重要性に気付きました。自宅隔離中、常に外に向いていた意識は内に向くようになり、“自分をケア”する時間と心の余裕を持てたことがきっかけです。ウエルネス系で先進的なのは、私が住むフランスよりもイギリス。リサーチを進めていると、ウエルネス系ブランドで今話題になっているのが“アダプトゲン”という天然ハーブでした。2月に訪れたロンドンでは、アダプトゲン配合の粉末ハーブを手に入れ、サ活(サウナ活動)に夢中な女子の間で人気が高まっているという“ソロサウナ”を体験してきました。今回は、ロックダウン中に実践したアダプトゲンの摂取やソロサウナの体験記を紹介します(こういった製品は個人差があるので、あくまで個人的な体験記として参考にしてください)。
① アダプトゲン
心身の健康を目的とした栄養補助食品を展開するウエルネスブランド「ワンダー ワークショップ(WUNDER WORKSHOP)」によると、アダプトゲンとは「ホルモンバランスを促進し、ストレスへの抵抗力や免疫力を高め、身体の機能を正常化させる働きが期待できる植物(ハーブ)」のこと。トラウマ、不安、肉体的疲労などのストレスを和らげるなど、人々の健康に関わる効果に導くとされることがたくさんあります。スキンケアにおいては肌荒れを抑え、くすみ肌、敏感肌などのトラブルを和らげるとされているようです。同ブランドはアダプトゲンとその他のハーブを配合した粉末状サプリメントを扱っており、初体験の私に勧めてしてくれたのが「ゴールデン・グロウ(Golden Glow)」という商品でした。アダプトゲンの他にマカ、ターメリック、シベリア高麗人参、ブラフミー(ツボクサ)、ブラックペッパーが入っており、見た目は黄色い粉末で漢方のような独特の香りがします。白湯に溶かして飲む方法だと結構味と香りが強いと感じたので、温めたアーモンドミルクやオートミール、スムージーに混ぜて取り入れました。ブランドのおすすめは、1日1回テーブルスプーン1杯分を4~6週間摂取し、その後2週間のブレイクを置いて効果を見るということだったので実践してみました。
私は3月上旬パリコレ取材の終了頃から摂取をスタート。コレクション期間中なので睡眠時間は短く、食事時間もバラバラ、アルコール摂取量も多くなり、最初は何も感じられませんでした。ライフスタイルが徐々に通常通りに戻り始めたアダプトゲン摂取2週目からは、感覚値ですが朝の目覚めが良くなったのと、肌のハリを感じるようになりました。この頃、新型コロナウイルスがヨーロッパで一気に猛威をふるい始め、多くの旅程をキャンセルせざるを得ず、日々悲しいニュースに触れる中で、不安に襲われかなり落ち込み、精神面でアダプトゲンが助けになったかどうかは不明です。もしも摂取していなかったらもっと落ち込んでいた可能性はありますが……。
3週間目から違いを実感
PMSのイライラが軽減
摂取3週目以降、最も違いを感じられたのは月経前症候群(PMS)によるイライラが軽減されたことです。もともと感情の起伏が激しい上に、月経前はホルモンバランスの影響で怒りっぽくなり気分が沈み、身近な人に迷惑をかけがちなのですが、今回の月経時期は激しい変化があまりなかったように思います。新型コロナウイルスの一件でそもそも気分は沈んでおり、PMSが重なると情緒不安定になり自分をコンロールできなくなるかもと不安になっていましたが、極端な落ち込みやイライラはなかったのです。私はメンヘラではありませんが、月経前は感情のコントロールを失うこともあります。女性は共感できるかもしれませんが……。どうか男性には大目に見ていただきたい。
現在、摂取4週目を迎え、一旦2週間のブレイクを入れるためストップしようとしているところです。前途したように効果には個人差がありますが、私としては同じようにPMSで悩む女性に勧めたいです。イギリスではアダプトゲン配合の商品が増えており、アダプトゲンに特化した新ブランド「グロウン(Grown)」はオイル状の栄養補助食品やスキンケアとして取り入れるフェイシャルオイルなどを展開しています。ロンドン・ファッション・ウィーク中に多くの業界人が通っていたカフェ「グロウ バー(Glow Bar)」でも、粉末状のアダプトゲン配合のサプリメントが販売されていました。
② ソロサウナ
ソロサウナを体験したのは栄養補助食品を展開する「グロウ バー」が18年にオープンしたロンドンのカフェ。淡いパステルカラーが基調のかわいい雰囲気と健康的なドリンクが楽しめるだけでなく、地下にはサウナを備えており、これがロンドナーの間でジワジワ人気が高まっているよう。設置されているサウナは1人用が2つ、2人用が2つと、独立型なのが特徴です。オンラインで事前予約制。カフェの入り口で予約した名前を伝えると地下へと案内され、脱衣場で備え付けのバスローブに着替えて準備を整えます。サウナ内は完全個室なので、全裸でも水着着用でもOK。色彩療法を取り入れており、サウナ内のライトを6色の中から選択できます。青は安眠、赤は循環促進、ピンクはデトックス、黄色は活気づけ、緑はリラックス、紫は落ち着きとされます。1人・2人用どちらもサウナ自体の広さは同じで、サウナを含む個室の部屋の大きさが少々異なるだけでした。個室に入るとバスローブを脱いで、サウナの中へ入ります。1回45分、室温55度が初期設定で自由に温度調整が可能です。個室内には水筒(飲料水を自由に補充可能)、アロマディフューザー、ミニスピーカーが備え付けられていました。
ソロサウナは想像以上にとっても気持ちよく、最高の癒し時間でした。私はサウナやお風呂に入るとすぐにのぼせてしまう体質なので、個室内でサウナの出入りを繰り返しながら、たっぷり汗をかきました。サウナだけでも気持ち良いですが、完全に外の世界と遮断された一人の空間というのが今までに味わったことのない感覚だったのです。座る所に仰向けで寝そべって、脚を壁にもたれかけて上に上げ、深呼吸をすると体の力が一気に抜けて心からリラックスできました。一人用宇宙船に乗って、地球を離れた銀河彼方でプカプカ浮いているような、それくらいの解放感と良い意味での孤立感を感じられました。
創業者は元ファッション業界人
ホルモンバランスを崩しことを機にハーブを勉強
「グロウ バー」創始者のサーシャ・サバパシー(Sasha Sabapathy)は、かつてファッション業界で働いていたイギリス人女性。22歳でニューヨークに移り、バリバリ仕事をしながら、ソーシャルライフを楽しむために毎晩のように街へと繰り出していたそうです。「当時はそれが自分のやりたいことだと思っていたけれど、どこか心が満たされない感覚も味わっていたのです。肉体的に体を限界まで押し込み、精神的にもストレスを受けていたことに気付いたのは数年経ってから。不安障害やうつ病を引き起こすコルチゾール(一般的にストレスホルモンの一つと呼ばれている)の分泌が多く、ホルモンバランスを崩していたにもかかわらず、当時は理由が分かりませんでした。友人に悩み相談するとアダプトゲンを勧められ、幼い頃に受けたことのある自然療法を思い出し、試してみる価値があると思ったのです。1カ月で確かな実感を得られた私はハーブについての勉強を始め、現代社会に生きる多くの人々と共有したいという新たな夢が生まれ『グロウ バー』の立ち上げた」とサバパシーさん。ちなみに前述した、アダプトゲンに特化した新ブランド「グロウン」の創始者もかつてはファッション業界人です。
サバパシーさんの経験談のように、願望や行動とはうらはらに、自らが心身に疲れやストレスを与えてしまうことってありますよね。耐えられるストレスレベルは人それぞれですが、彼女が表現する“心が満たされない感覚”を味わうことがあれば、一度足を止めて休憩を挟んでみると、心身の変化を感じ取れるかも。自力では操作できない社会変化(新型コロナウイルスやそれに伴う経済状況など)が大きい現状においては特に、いつも以上に自分の内に目を向ける時間が必要だ感じます。大きな可能性を秘めたアダプトゲンとソロサウナが日本のウエルネス市場でも広がることに注目しています。