新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るうなか、アパレルのサプライチェーンでは何が起こっているのだろうか。サプライチェーンの労働者の支援やファッション産業の透明化を目指す英国のNPOファッションレボリューション(FASHION REVOLUTION)は、新型コロナウイルスによる、目を背け難いファッション産業のサプライチェーンの現実の姿を指摘している。前編・後編の2回に分けてリポートする。
ファッションレボリューションのリポートは、「ロックダウンによって人々は洋服を見つめ直す時間も増え、このような状況は発足当時から進めてきた#LovedClothesLast 運動(ファッション産業における大量消費と大量廃棄を問題視し、最低限度の購入もしくは手持ちの洋服の手入れをすることで洋服をより長持ちさせることを奨励している運動)が加速するのではないかと考えている」とポジティブなコメントで始まりつつも、ロックダウンによりファッション業界の中に存在する賃金を含めた格差が拡大していると警鐘を鳴らしている。
ロックダウンの影響ですでに何百万人もの工場勤めの人々が職を失い、社会的・経済的にこの危機を乗り越えることができないと予想し、あるバングラデシュの衣料品メーカーの声を紹介している。「いま世界で人が亡くなる理由は新型コロナウイルスが多いかも知れないが、ここで人が亡くなる理由はそれによって生じた貧困だ」――労働者に正当な補償が行き届かず、彼らの日常生活が脅かされていると指摘する。
ロックダウンによって生じたキャンセルはバングラデシュだけでも約15億ドル相当
ファッション業界の支払いの流れもまた工場を苦しめているともいう。
通常の支払いは、まずブランド側が工場に商品生産の注文を出すところからスタートするが、注文に対する代金が工場側に支払われるのは、完成した製品が工場から出荷されて数週間後または数カ月後で、工場側は材料などを立て替え払いしていることになる。しかし、今回のロックダウン後に多くのブランドがとった行動は注文のキャンセルのみで、すでに完成している製品の支払いは行っていないところがほとんどだという。ファッションブランドの多くは工場が負担した材料費、完成しているはずの製品、工場で働いた人の賃金などの責任については言及しておらず、工場に負担がのしかかっている。工場に残された道は、仕上がった製品を保管、または解体し、大勢の労働者を一時解雇するしかない。しかし、退職金を手にしているのはほんの一握りの労働者で、給付されたとしてもその額は給料の1カ月分未満だという。
ブルームバーグ(BLOOMBERG)ニュースによると、新型コロナウイルスによるロックダウンにより、バングラデシュのおよそ1089軒の工場で生じた注文のキャンセル額は約15億ドル(約1600億円)相当といわれる。現在、アパレル企業の下請けの工場労働者の生活を保障する対策は全くといっていいほど手がつけられていない。
ただし暗い側面ばかりではない。「いまこうして世界中の人々が一つの同じ課題を共に乗り超えようとしているという経験は、共感する気持ちを強めている」という。ロックダウンによってソーシャルメディアへのアクセス数が増え、SNSを通した意見交換の機会が増えているということは、「ファッションレボリューションがこれまで進めてきた“#WhoMadeMyClothes (#私の服は誰が作ったの?)”という運動の声をさらに高め、 ファッションサプライヤーとその労働者たちを保護するよう強く求める絶好の機会」と考えているという。
ファッションレボリューションは「もし私たちが何も行動せずに、新型コロナウイルスが終息に向かえば、ファッション業界はまたいつも通りのビジネスに戻るだけ。新時代のためにともに力を合わせ、利益よりも人間と地球の幸せを尊重する新しい潮流を一緒に築き上げよう」と訴える。そのために誰もが参加できる簡単な方法もホームページで紹介している。
1.大好きなブランドに手紙を書く。(サイトに雛形あり)
2.仕事を失ったメーカーを支える非営利団体に募金をする。(推奨される募金先についてはウェブ参照)
3.ファッションレボリューションに寄付をする。
またファッションレボリューションはロックダウン後のサプライヤーとサプライチェーンの労働者への対応について、世界で活動を続ける各機関の調査報告をホームページ上で掲載するとともに、彼らが大手ブランドに送った質問状の回答も掲載しており、ロックダウンの間はこれらの情報のアップデートを随時続けていくという。
Shiho Koike Stitson:アパレルの営業職、PR、スタイリストのアシスタントなどを経て2004年にバーニーズ ジャパンに入社。ウィメンズPRとしてアパレルやアクセサリーをメインに、ビューティやブライダル、インテリアまで幅広いジャンルのPRを経験し、結婚を機に同社を退職。英国に移住し、フリーランスとしてPR、通訳、コーディネーターなどをしながら目下子育てにいそしむ。出産をきっかけに興味が高まったオーガニックな物やサステナブルなことをロンドンで探究中