ファッション

「小さなブランドや店舗を守るための具体的な行動を」 井上雅人准教授に聞くポストコロナのファッション

 「WWDジャパン」4月20日号は、「コロナに負けるな、知恵を集めよう!」と題した緊急特集です。知恵を共有し合うことが現状を打破する第一歩になると信じて、業界内外の人・企業に総力取材。業界内外の難局打開の一助となることを願って、電子版をウェブで無料公開しています。

 企画の一環として、国内外の識者に新型コロナウイルス終息後の社会について取材。店舗が持つ価値について、本とファッションの京都のセレクトショップ「コトバトフク」の運営にも携わっている井上雅人・武庫川女子大学生活環境学部准教授に話を聞いた。

同じ価値観を持った人たちが共有できる場を残していくのは、自然や景観を守っていくのと同じくらい大事

WWD:井上さんは「コトバトフク」というセレクトショップの運営に関わっている。店舗の現状はどうなっている?

井上雅人・武庫川女子大学生活環境学部准教授(以下、井上):今のところ衣料店は休業要請が出ていないので(2020年4月22日現在)、行政の方針に従いつつ、散歩がてらで来られるような人に限って完全予約制でお店を開けています。来てもらう人には体温も測ってからの予約をお願いしており、店内では消毒の徹底や店員とのソーシャル・ディスタンシングなど、協力をいただきながら感染リスクを下げるよう細心の注意を払っています。また、店員に少しでも体調不良の兆しがある場合は、予約を受け付けていても来店をお断りしている状態です。

WWD:店舗が持つ価値についてどう考えている?

井上:著書「ファッションの哲学」の中でもこれからの店舗の役割について触れていますが、街の中で、同じ価値観を持った人たちが共有できる場を残していくのは、自然や景観を守っていくのと同じくらい大事です。私たちが目指しているのはアソシエーションです。人と人とがつながれる場所を目指しているので、そこに行くと自分が誰であるかわかるとか、自分と同じような人もいることに気づけるとか、場所の価値は大切にしたいです。自分がいままでどのように環境形成をしてきたのか、自分の場所とはなんなのかをあらためて思い直している頃ではないかと思います。大変な世の中ですが、最後の最後の気晴らしの場所として、自分たちの場所は守っていきたいと考えています。

WWD:事態の収束後も見据えて、店舗に関わる人たちはどのようなことを考えた方がいい?

井上:販売員が職場に復帰できる日が来たとき、自分たちの仕事が多くの人たちにとっての大事な場所を守る、大切な仕事であると思ってもらえるといいですよね。レイ・オルデンバーグ(Ray Oldenburg)というアメリカの社会学者は、誰でも受け入れて意見交換ができる居心地のいい場所を意味する「サードプレイス」というものを提唱しています。いまこそその価値を再考するタイミングなのではないかとは個人的に思っています。

小集団としての小さなブランドや店舗をどうやって守り続けるか?

WWD:そんな考え方を定着させるためには、客側からの理解も欠かせない。どうすれば理解してもらえる?

井上:価値観を共有して消費者を教育する場としても、店舗は重要な役割を持っています。考え方を共有するためには、ある種の教育が欠かせない。生産と消費という非対称的な分け方を解消して、普通の人が生産側にアクセスできる仕組みを作ることも理解を育む上では大事です。食の分野では、どこの、何は、どう育てられているからおいしいなどの重要性について、一定の理解を得られています。どこの、何を、どう着るべきなのか考えられる文化をつくるため、参考にすべきなのかもしれません。

WWD:店舗の価値は理解できた。しかし、一部の小さなブランドや店舗などは、新型コロナウイルスの影響により危機にひんしている。

井上:ファッションのいいところは、集合体がいっぱいあり、一つにまとまらないことです。それは自分らしさを失わず、しかも絶対に孤立しないことでもあります。大小さまざまな集合体が分散したり融合したりして常に入れ代わる。ファッションは、そういう自由さを形にしてきました。だから今後も、どんな小さな集合体でも成り立つ社会をつくることが大事だと思います。なので、「小集団としての小さなブランドや店舗をどう守り続けるか?」は大きな課題です。業界全体としてはECにも早くから対応しているため、経済的には大きな変動はないと思いますが、小さなブランドはさらにやりにくくなり、淘汰もされるでしょう。うまく妥協点を見つけてほしいけれど、ファッション業界はマーケットの論理が強いので難しい課題です。利益追求の論理に負けないよう、そういうブランドや店舗を生き延びさせようとする行動――例えば好きなブランドの服をもう一着ECで購入する、好きな飲食店でテイクアウトするなどの具体的な行動を起こせるかどうかが大事です。そういう行動が、自分にとって大切な場所を維持するための有効な手段であることに気づいてほしいですね。

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秋吉成紀(あきよし・なるき):1994年生まれ。2018年1月から「WWDジャパン」でアルバイト勤務中

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