ファッション

休業中の春夏在庫はどうする? セレクト大手3社の対応を聞く

 新型コロナウイルスとの闘いが長期化するなか、有力セレクトショップの2020-21年秋冬展示会の在り方が大きく変わろうとしている。例年5月下旬~6月に開催されるメディア向けのセレクトショップの展示会だが、各社が中止を検討中。メディア向けには資料を配布しての対応となりそうだが、サンプルや納期の遅れなどが予想されるなか、8月以降に販売する秋冬物のMDの再編成や商品の打ち出し方など、今後大きく変わるであろう消費者心理に合わせて臨機応変の対応が求められる(一部のプレコレクションは5月から打ち出しが始まる)。

 春夏の在庫問題や、秋冬展示会の方向性について、「エストネーション(ESTNATION)」「インターナショナルギャラリー ビームス(INTERNATIONAL GALLERY BEAMS)」は電話インタビューで、「バーニーズ ニューヨーク(BARNEYS NEW YORK)」はアンケートで答えてくれた。

春夏の中軽衣料を、秋冬MDに組み込むアイデアも

 「エストネーション」は、20-21年秋冬展示会に代わって資料の配布を検討。“クラシック グラムール”をキーワードに、クチュールテイストのフェミニンなテイストや素材感に、1970年代のムードをミックスしたコーディネートやアイテムを出す予定だ。

 買い付けブランドはほぼ予定通りオーダー済みだというが、「メゾンやデザイナーズ系ブランドからは、1カ月以上の納期後ろ倒しも出てきている」と藤井かんなウィメンズ・ディレクターは話す。オリジナル商品は、すでに作り始めているモノは進行し、型数と在庫数を調整するという。

 課題は“20年春夏の在庫”だというが、同社では数シーズン前から、気候や気温にされないMDプランを組み、薄手のアウターやニットなどの中軽衣料を強化している。「20-21年秋冬でキャンセルが出た商品と差し替えたり、イベントを開催して在庫調整したりするなどまだアイデア段階だが、何らかの対応策を取りたい」という。

 店舗が臨時休業しているなか、EC展開を許可するメゾン系ブランドも増えており、「一時的な措置が、これを機に継続につながってほしい」と期待する。また「SNSやホームページの在り方も課題だった。時間がある今、オンラインから店舗までの誘導を考えて、お客さまがもっと実店舗に来店していただける環境をつくりたい」と、“エストネーションらしい”アプローチを模索している。一方で得意とする「密でパーソナルな対応ももっとできると感じている」と続ける。

 今後の買い付けについては、「サンプルを見て、触れるのがベストだが、実物を見なくても可能なことと、見なければ不可能なことがより選別されていくはず。もっとシンプルにすてきな提案ができるよう、ファッション業界特有のサイクルを見直す機会にしたい」と見据える。

「スニーカー脱却の好機、そのムードがなくなるのが不安」

 「インターナショナルギャラリー ビームス」は、20-21年秋冬展示会は中止するが、打ち出し方法は検討中だ。もともとサンプル数が少なく、丁寧なモノ作りにこだわるインディペンデントなブランドの買い付けが多いため、「サンプルは予定通り届く予定」と片桐恵利佳ディレクターは見込んでいる。

 ただ、商品の納期が遅れることが大前提のシーズン。「21年春夏のプレはスキップして、20-21年秋冬の納期の最終を12月にさせてほしい」などの交渉をしているブランドはあるという。しかし環境変化によるシーズンレスアイテムの需要が高まるなか、コートやダウンなどのアウターの売り上げが減り、「もともと1枚で羽織れるようなニットの買い付けを増やしていた」と片桐ディレクターは語る。中軽衣料を強化していたため、「多少のスケジュールのズレには対応できる」と捉えている。

 20-21年秋冬は“デイウエアだけれど人とは違うブランド”をテーマに、華やかさのあるアントワープの新鋭ブランドや、モード感のあるニットアイテムを買い付けた。「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」のメインアシスタントだった女性が手掛ける「メリル ロッゲ(MERYLL ROGGE)」や、ロロピアーナ(LORO PIANA)のカシミアを90%使用した「レタンヌ パリ(LETANNE PARIS)」などに注目している。一方、アクセサリーでは、「スニーカートレンドから脱却して、実績が取れなかったシューズをニットとともに強化したいシーズンだった。19-20年秋冬ごろから高単価のアイテムも動いてきており“いい物を買う”というムードがあったが、そのムードがなくなるのが不安」と続ける。

 また、在庫の少ないデザイナーズブランドの取り扱いが多く、自社ECへの展開が少ない同業態だが、臨時休業後は「EC売り上げが徐々に増えている」という。ただ「顧客性が高い店舗なので、SNSで打ち出すモノ、シーズンテーマとともに背景を持ってきちんと伝えるモノのバランスを見定めていきたい」と、オンラインでの施策を探っている。

 新型コロナウイルスの影響で「住まいや食に関わる時間が絶対的に充実するが、衣料はどこに行くのだろう?と漠然と考えている。今後は、シーズンが最適化されてモノの動きがスローになっていくだろう。循環する流れや仕組みをつくっていきたい」。

展示会中止を継続し、別アプローチを検討

 「バーニーズ ニューヨーク」は、20-21年秋冬展示会は中止するが、リリースのみの送付や、動画メディアを作成して共有するなどを検討中。年2回の展示会は見送り、異なるアプローチのプレゼンテーションを継続したい考えだ。

 シーズンのキーワードは未定だが、オーダーしたブランドの納品や売り上げ、在庫状況を考慮しながら、短サイクルでの発注を行い品ぞろえを確保していく。

 「環境問題に対して大きな課題があるアパレル業界にコロナ禍の影響が加わったことで、さまざまなことを見直さざるを得ない状況になってきた。過剰な在庫を持たないよう、MD構成も見直していく」と同社。

 今後、オールシーズンで着られるカットソーやシャツ、パンツなどの中軽衣料を強化し、短サイクル発注のシステムを確立したいという。

村上杏理:1986年、北海道生まれ。大学で日本美術史を専攻し、2009年にINFASパブリケーションズ入社。「WWDジャパン」記者として、東京のファッション・ウイークやセレクトショップ、販売員取材などを担当。16年からフリーランスで、ファッションやライフスタイル、アートの記事執筆・カタログなどを手掛ける。1女児の母

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