投資会社シカモア・パートナーズ(SYCAMORE PARTNERS)が4月22日にヴィクトリアズ・シークレット(VICTORIA'S SECRET)の株式譲渡契約の破棄の正当性の判断を求めてデラウェア州裁判所に申し立てを行ったのを受けて、ヴィクトリアズ・シークレットの親会社であるLブランズ(L BRANDS)は4月23日に、シカモア・パートナーズを相手取り株式譲渡契約の履行などを求めて訴訟を提起した。
両社は2月20日に、シカモア・パートナーズがヴィクトリアズ・シークレットの株式55%を5億2500万ドル(約567億円)で買い取ることで基本合意に達していたところ、新型コロナウイルスの感染拡大に伴いヴィクトリアズ・シークレットが“自主的”に店舗やECサイトを閉鎖したことや従業員の一時解雇を決めたことが「同社のビジネスに深刻な損害を与える」として、シカモア・パートナーズは契約破棄の正当性の判断を求めてデラウェア州裁判所に申し立てを行った。これに対してLブランズは、「シカモア・パートナーズの契約破棄は無効だ。当社は断固として争い、取引を完了させるために尽力していく」とコメントし、争う姿勢を見せていた。
シカモア・パートナーズは、契約の中には対象会社の事業などに重大な悪影響を及ぼす事由が発生した場合において買い手が取引を中止できる権利を規定する、いわゆるMAE条項が盛り込まれており、パンデミックが例として挙げられていることからも契約破棄は可能だと主張する。これに対してLブランズは「基本合意に達したのは、すでに新型コロナウイルスの脅威が世界中で認識されていた時期だ」と主張する。Lブランズが提出した訴状によると、「このパンデミックにかかるあらゆる要因をリスクとしてシカモア・パートナーズが受け入れることで両社は合意していた。当然、今回のパンデミックは“重大な悪影響を及ぼす自由”から除外される」という。
さらに、Lブランズがシカモア・パートナーズの同意を得ずに店舗閉鎖や従業員の一時解雇といった企業価値を著しく毀損する行為を行ったというシカモア・パートナーズの主張について、株式売却後もLブランズはヴィクトリアズ・シークレットの株式45%を保有する少数株主となることに言及し、「当社はビジネスの価値を維持するための経済的インセンティブを有しているのだから、シカモア・パートナーズの主張はナンセンスだ」と反論する。
Lブランズが訴訟を提起した4月23日の同社の株価は終値が前日比4.2%増の10.62ドル(約1146円)と上昇した。米国の大手金融機関ウェルズ・ファーゴ(WELLS FARGO)のアナリストは、「シカモア・パートナーズは訴訟を交渉カードにして、買収価格の減額や買収完了時期の先延ばしなど、より好条件での取引を目指しているのだろう」と分析し、シカモア・パートナーズがヴィクトリアズ・シークレットの買収を断念したわけではないと見ている。