新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、イベントの大小にかかわらず延期や中止を余儀なくされ、新製品を発表する機会は失われた。緊急事態宣言は5月6日までとされているが、その後の状況も不透明で長期化することは間違いない。そこで各社が急ピッチで進めるのがデジタルプロモーションの強化だ。これまでもデジタルの強化は各社にとって課題として挙げられてきたが、この状況下で急務となった。一方で消費者もリモートワークや外出自粛によりオンライン活用が促進され、デジタル化の土壌はこれまでよりも整いつつある。今、デジタルを活用したプロモーション展開が大きく動き出した。
その筆頭に来るのがライブ配信だ。ユーチューブやインスタグラムなどで簡単に始められることもあり、3月以降配信が増加している。「M・A・C」は、シニアアーティストの池田ハリス留美子がインスタグラムのライブ配信で新製品を使ったメイクデモを行った。製品の解説を交えながらプロならではのテクニックを披露し、ユーザーから多くのコメントや質問などが寄せられた。店頭などで実際に製品を試すことができない今、オンラインでいかに具体的に製品特徴を伝えられるかが重要だ。配信終了後には、ストーリー機能で使用した製品をピックアップしてECサイトへの誘導も行うなど、インスタグラム全体の機能をうまく活用している。
「WWD JAPAN.com」でも、「NARS」とコラボレーションしたユーチューブライブを実施。メイクアップアーティストがZoom越しにインフルエンサーにメイクテクニックをレクチャーし、多くの反響を集めた。
また、レビューが得意なインフルエンサーとのコラボレーションも効果的だ。特にメイクアップ商材などは、モデルによる広告ビジュアルだけでは消費者にとっては共感しにくく、リアルな使用例をインフルエンサーがレビューすることで消費者は実際の使用感をイメージしやすくなる。これまで以上に情報が溢れる中で、ただ拡散するだけではなく情報としての有用性も重視する必要があるだろう。
顧客に対してはオンライン通話などを利用した美容部員との1対1のカウンセリングを行うことで、店舗に行けないフラストレーションの解消だけでなく、長期にわたる外出自粛によるブランド離れ対策にもつながる。オンラインカウンセリングは地方在住の百貨店や店舗などを訪れる機会が少ない顧客に対しても実施できるのも利点で、これまで以上に顧客との結び付きを強めることもできるのではないだろうか。
最新テクノロジーで新たな体験を創出
リアルな体験に代わるデジタルコンテンツの提供も必須だ。例えば、スマートフォンで撮影した写真からAR(仮想現実)技術を応用し顔を検出し、アプリ上でメイクを再現できる「ユーカムメイク(YOUCAM MAKEUP)」だ。すでにECサイトを中心に活用が盛んだが、タレントやインフルエンサーが提案するトレンドメイクの体験など、コラボレーションによってタッチアップの代用だけでなく話題性の醸成、新規顧客の獲得にもつながる。「ユーカムメイク」を展開する台湾のテック企業パーフェクト(PERFECT)は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受け、コスメブランドや小売店向けのバーチャルメイクを使ったソリューションサービスを一時的に無料提供している。また、限りなくリアルな体験に近い形でブランドの世界観などをアピールできるVR(拡張現実)技術の活用にも可能性が広がる。
今を耐えるための一時的な対策ではなく、これから先は間違いなくプロモーションの主軸になるであろうデジタル施策を今の段階で盤石にしておくことが、今後の明暗を分けることになるのかもしれない。