ビューティ

化粧品は成分にも注目する時代へ クリーンビューティトレンドを後押しする5つの海外アプリ

 欧米の美容市場では“クリーンビューティ”のトレンドが起こっている。クリーンビューティとは、肌や環境に優しい成分を使用し、動物実験をしない(クルエルティーフリー)、サステナビリティに配慮するなどの要素を備えたブランド・製品のことだ。

 SDGs(持続可能な開発目標)の制定に代表される環境や社会への関心の高まりとともに、消費者は健康や環境、社会に影響を及ぼす化粧品の成分にも目を向け始めた。特にアメリカでは1938年以来、化粧品成分の規制に関する法律が変わっておらず、禁止されるのは12成分のみだ。例えば米ハワイ州でサンゴ礁保護などのために2021年から販売を禁じられる紫外線吸収剤のオキシベンゾンやオクチノキサートもアメリカ食品医薬品局(FDA)の規制の対象ではない。一方でヨーロッパ連合(EU)は世界で最も厳しい基準を設け、1300以上の成分の使用と動物実験を禁じる。それでも、懸念される成分すべてを規制しているわけではない。

 こういった成分への意識は、特にジェネレーションZやミレニアル世代など若年層をはじめ化粧品に興味を持つ人の間で高まっている。では、そういった人たちはどこで成分について学ぶのだろうか。

 その基準となるのはEUの成分規制とそのデータベース「コーシング(CosIng)」、アメリカのEWG(環境ワーキンググループ、Environmental Working Group)だ。EWGは健康的な環境生活を保護するため、食料や化粧品などの分野で研究、啓発活動を行う非営利団体で、最近では「レブロン(REVLON)」などがEWG認定マークをつけた化粧下地「フォトレディ プライム プラス」を発売した(日本でも発売予定)。多くのクリーンビューティブランドがEWGの基準を参考としている。

 そんなEWGは食品、化粧品の成分について簡単に知ることができるスマホアプリ「ヘルシーリビング(Healthy Living)」を出している。日本にも「コスメペディア(COSMEペディア)」や「ポーテ」など成分に着目したアプリがあるが、海外はその先駆けとなるアプリがいくつかある。今回はそういった成分分析アプリを紹介するとともに、それぞれの違いにも言及したい。

アメリカ 「EWG ヘルシーリビング」

 製品のバーコードをスキャンするか製品名で検索すると、製品の安全性について、化粧品成分の独自データベース「スキン ディープ(SKIN DEEP)」を基準とした結果が表示される。「アレルギーの懸念」「発がん性の懸念」「発育上の懸念」の3つのバロメーターがあり、緑、黄色、赤で危険度が分かるほか、成分一つ一つの危険度も見ることができる。多くのブランドや消費者が使用しているアプリで、これまでに130万回以上ダウンロードされており、オンラインデータベースは1時間あたり1000件以上参照されているという。

韓国「ファへ」

 韓国ではクリーンビューティという概念こそ広まっていないが、このアプリの登場によって化粧品成分に気を配る人が急増。化粧品成分情報や口コミがこのプラットフォーム上に集まり、アプリで高評価を得た商品が売れるという現象も起こっている。ランキング1位を獲得した商品は「ファへで1位を獲得」というマークがついて店頭に並ぶほどで、まさに“韓国版アットコスメ”だ。

 公式サイトによるとユーザー数は700万人以上、400万件以上のユーザーレビューが集まるという。成分の評価は韓国政府機関「食品医薬品安全処」やEWGのデータベース、書籍「大韓民国化粧品の秘密」など複数を参考にしている。

フランス「コンポ スキャン(COMPO SCAN)」

 2018年に生物学者のラファエル・ファイファー(Raphael Pfeiffer)と共同で作られたアプリ。化粧品専門家の知識を基もとに危険な成分を割り出しており、18年時で2万弱の製品が登録されている。また、有料アプリながら2018年時点で2万5000回ダウンロードされている。ユーザーが製品登録を行えるのも、ほかのアプリと異なる点だ。

カナダ「シンク ダーティー(THINK DIRTY)」

 2013年にローンチ。4500ブランド、140万アイテムを登録し、製品のバーコードをスキャンするか製品名で検索することで「ダーティーメーター」と呼ばれる10段階評価のスコアが表示される。

 生物・医学文献の引用や政府の規制リスト、EUの成分データベース、米FDAのガイドラインなど多くの情報を参考としており、参照文献へのアクセスリンクを貼るなど情報源が分かりやすい。クリーンビューティな化粧品の販売やサブスクリプション(定期購入)ボックスサービスも行っている。

中国「美麗修行」

 1000万ユーザーが使用する中国の有名なアプリ。中国では熱心に成分を研究する“成分党”と呼ばれる消費者層があり、成分解析をコンテンツとする動画配信者も多く存在する。アプリには200万以上の製品が登録されており、成分の安全性や有効性、肌荒れを起こす可能性まで表示する。NMPA(旧CFDA、中国国家薬品監督管理局)の化粧品成分データを統合、また安全性表示はEWGのデータベースを参照している。

 韓国「ファへ」に似たユーザーインターフェイス(UI)で、口コミも投稿できるほか、似た製品同士の比較を行う機能や肌質とのマッチング機能といった独自のコンテンツもある。

 上記のように、多くのアプリがEWGかEUのデータベースを参照しているが、果たして結果に違いはあるのだろうか。とあるグローバルブランドのリップスティックで比較検証をしてみたところ、その結果にはばらつきが見られた。

 「コンポスキャン」では合成香料など2種の危険成分、11種の注意成分と表示され、「美麗修行」では肌への影響が懸念される成分が2種、ニキビになりやすい成分が3種あると表示された。一方、「ファへ」では3種の危険成分、ベンジルアルコールなどアレルギーに関する10種もの注意成分が指摘された。2つのアプリが参照する「EWG ヘルシーリビング」ではアレルギースコアが危険レベルを指し、注意成分が10種挙げられた。

 また別のスキンケア製品で試したところ、今度はすべてのアプリで3種の注意成分を指摘する結果が出た。さらに別製品を試すと、今度は「美麗修行」が最も多くの危険成分を指摘。それぞれ参照データ・参考文献が異なるため、アプリ毎の見解が異なることも珍しくないようだ。

 このように、成分の“クリーン”には今のところ正解がない。クリーンビューティブランドを扱うアメリカ発の「グープ(GOOP)」や「クリード(CREDO)」が危険だと断じる成分の多くも、科学的に発がん性や健康への被害が証明されたものは多くないのだ。各アプリが表示した結果にしてもすべて正しいとは言い切れず、それぞれ独自の主張・見解をもっている。それでも自分の健康や地球の未来を考えたとき、少しでも懸念を減らしたいと考える人々の意識は今後も高まっていくに違いない。

 今回紹介したアプリはすべて日本のiOSからダウンロード可能なので、一度、手持ちの化粧品にどれだけ“懸念”が含まれているのかチェックしてみるのも良いかもしれない。

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