欧米の美容市場ではジェネレーションZやミレニアル世代など若年層を中心に、“クリーンビューティ”のトレンドが起こっている。クリーンビューティとは肌や環境に優しい成分を使用し、動物実験をせず(クルエルティーフリー)、社会や環境に配慮した美容製品を指す言葉だ。このトレンドとともに、さまざまな製品が見直され始めている。
例えば環境配慮といえば、サステナビリティが重視されるようになった。ファッション業界では早くから環境への影響が指摘されてきたが、化粧品はまだまだマイクロビーズやプラスチック、使い捨ての化粧落としシートのような使用後のリサイクルや環境への影響が懸念される製品が数多くある。また、使用される成分が環境や人体に悪影響を与えないか、児童搾取など労働問題を伴うものでないのかなど、消費者の目は厳しくなっている。
そんなクリーンビューティのトレンドの中でも、特に注目される課題がある。これまで当たり前のように使用していたアイテムを見直すきっかけとしても、以下の5つのトピックスを紹介したい。
(1)デオドラント
デオドラントには成分や容器の課題がある。セフォラ(SEPHORA)では独自のクリーンビューティ基準で選んだ「クリーン アット セフォラ(Clean at Sephora)」のカテゴリーがあるが、その中でもデオドラントは目立った存在として分類されている。
成分にはいくつかの懸念がある。デオドラントには塩化アルミニウム(塩化AI)が含まれることが多いが、これは肌への刺激性や乳がん発症のリスクを懸念する声が上がっている。科学的に危険性が裏付けられている訳ではないが、乳房に近い脇の汗腺に塗布することに少なからず懸念を抱く消費者が増えているようだ。また肌への刺激性が懸念される合成香料なども広く用いられている。
日本でもそういった懸念に対応する企業が出てきた。「サボリーノ」などを扱うスタイリングライフ・ホールディングスBCLカンパニーはフランス発「ゼットエマ(Z&MA)」を展開。パラベン、鉱物油、合成香料など12の成分を使用せず、原材料の栽培から流通までを明確にし、エシカルな発信でジェネレーションZ世代にアプローチするブランドだ。
またアプリケーターの多くがプラスチックで出来ており、そのリサイクルも課題のひとつだ。デオドラントのD2C(Direct to Consumer)ブランド「マイロ(MYRO)」は詰め替え式で販売している。従来よりもプラスチックを約50%削減し、100%天然香料。またビーガン処方でグルテンや鉱物油を含まず、臭いの原因となるバクテリアをプロバイオティクスで中和するという。
それでいて価格は約10ドル(約1100円)と手頃で、詰め替えはサブスクリプション(定期購入)でも提供している。そんな画期的な「マイロ」は昨年8月にシードエクステンションラウンドでテニス選手のセリーナ・ウィリアムズ(Serena Williams)らから資金調達を行った。現在はアメリカ国内のみで販売している。
(2)日焼け止め
米ハワイ州はサンゴ礁保護の観点から、2021年から紫外線吸収剤オキシベンゾンとオクチノキサート配合製品の販売を禁止する。日焼け止めに配合されるこういった環境に悪影響を与える成分を規制する流れは世界で広まっている。パラオ政府は1月からサンゴ礁に有害な10成分を含む日焼け止めの輸入や販売、持ち込みも禁止した。またカリブ海のオランダ領ボネール島やメキシコ(自然保護区域のみ)でも規制が行われる。
このような流れから、サンゴ礁に優しい“リーフフレンドリー”を押し出すブランドや製品が登場している。オーストラリアの「エブリデー フォー エブリバディ(EVERYDAY FOR EVERYBODY)」は、海に囲まれた国で生まれた背景からも、サンゴ礁保護に積極的だ。日焼け止めにはオキシベンゾン、オクチノキサート、PABAを使用せず、そのほかパラベンや香料などの成分も不使用だ。国外ではアメリカや香港、シンガポールに配送しており、日本での販売にも期待したい。
なお、既存ブランドでは「コパトーン(COPPERTONE)」や「ニールズヤード レメディーズ(NEAL'S YARD REMEDIES)」、「メルヴィータ(MELVITA)」などがリーフフレンドリーな日焼け止め製品を発売している。
しかし、日焼け止めが悪なのではない。日焼けは皮膚がんのリスクを高めるため、紫外線防御は欠かせない。アメリカの「スーパーグープ(SUPERGOOP)」は創始者のホリー・サガード(Holly Thaggard)が紫外線による皮膚がんの蔓延を食い止めると言う目標を掲げており、子どもたちのため5つの州の学校に日焼け止めを提供している。製品は厳格なEUの基準に基づいた成分を使用しているほか、動物実験された成分は使用せず、オキシベンゾンなども不使用だ。日本からもリボルブ(REVOLVE)の国際発送で購入可能だ。
(3)ネイルポリッシュ
ネイルポリッシュは有害な成分を含みがちな製品といわれている。アレルギー症状を引き起こす懸念のあるトルエン、フタル酸ジブチル(DBP)、ホルムアルデヒド等は広くポリッシュに用いられる成分だ。またこれらは環境への影響も指摘されている。
そんなネイルポリッシュにも、変化が訪れている。コティ(COTY)のネイルブランド「サリー ハンセン(SALLY HANSEN)」は昨年11月にクリーンラインを発売した。ビーガンであり、パラベンや硫酸塩、ホルムアルデヒドなど消費者が有害と感じる16の成分を使用しない。マーケティング担当を兼任するセリア・トンバラキアン(Celia Tombalakian)副社長は米「WWD」の取材に対し「(クリーンラインに)信じられないほどの反響がある」と、その注目度の高さを語っている。
またカリフォルニア発のネイルポリッシュブランド「ハビット コスメティクス(HABIT COSMETICS)」は有害な10成分を使用せず、ビーガンかつクルエルティーフリー(動物実験をしない)処方を採用。サステナブルな竹のキャップに、ブラシや内部キャップは再生プラスチックを使用するなど環境配慮がなされ、日本からも購入が可能だ。。ポリッシュのボトルは洗いにくさや成分の付着により環境汚染が懸念されるといい、アメリカ国内のみ展開する「コート(COTE)」の場合はガラスボトルをリサイクルのために回収し、協力した人には次回購入時に10%オフとなるクーポンを付与している。
(4)生分解性
環境に悪影響を与えるとなりうるものの中で目立つのはパッケージだが、実は多くのグリッターも問題だ。グリッターの多くはプラスチックだが、このマイクロプラスチックは下水処理場でも処理しきれず、海に流れ出ることが指摘されている。歯磨き粉などに含まれる研磨剤がその代表だが、アイシャドウのグリッターも、そのまま流れ出たら海洋の生態系に影響を及ぼしてしまう。
そんな中、韓国の「アンリシア(UNLEASHIA)」は生分解性の課題に取り組み、100%生分解性を達成した製品を開発しているという。すでに“国内最大の大きさ”とうたう大粒のグリッタージェルを販売しているが、そのほかの製品も全てビーガン処方であり、動物愛護団体PETAが認証するクルエルティーフリー製品だ。包装材などにも環境配慮が行っている。
「アンリシア」は日本向けにECモール「キューテン(QOO 10)」で販売しており、日本セールス担当のパク・ユミン氏は「自分をありのままに自由に表現し、製品を購入する際にも倫理的な消費を重視するZ世代がターゲットだ」と語っている。韓国では一般消費者からアイドルのメイクアップアーティストにまで用いられているそうだ。
また韓国といえばシートマスクが人気だが、このシートも使い捨てで環境によいとはいえない。アモーレパシフィックが韓国内で発売する「ステディー(STEADY:D)」は“クリーンマスク”と称し、成分への配慮だけでなく生分解性のシートを使用している。
(5)詰め替えパッケージ
生分解性のように自然に返す配慮も重要だが、パッケージはそもそもゴミを増やさない配慮も大事になってくる。そこで最近注目を集めているのが詰め替え式のリップスティックだ。「エルメス(HERMES)」のメイクアップ「ルージュ・エルメス」も詰め替えパッケージで注目を集めた。
アメリカ発「ケアーワイス(KJAER WEIS)」はサステナビリティを念頭に作られたアイテムだ。パッケージは何度も使用できるシルバーのコンパクトで、リップやチーク、またベースメイクからマスカラに至るまで詰め替えが可能。もちろん成分は合成香料やパラベン、シリコーンなどは使わず、使用する成分をリストで提示している。ブランドは「レフィルのパルプ素材のパッケージも外箱もリサイクルが可能。今年はさらにレフィルシステムに機能を追加しようとしている」と、まだまだ改良を行う予定を明かした。日本では「リボルブ」のECサイトで購入でけいる。
またカナダ発「イレート コスメティクス(ELATE COSMETICS)」はパッケージに竹を使用する。竹は成長が速く、しなやかで丈夫なことから持続可能な素材といわれる。ブランドが使用する竹はフェアトレードメーカーと協力する中国産だ。また公式サイトの全ての製品ページにパッケージとリサイクルに関する記載がされ、再利用も促している。国際発送も行なっており、日本からも購入できる。