新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、不確実性が増し、不安感が高まっている人々も増えている一方で、教養を磨いたり、心を豊かに、あるいは穏やかにするために、アートに対する注目度が高まっている。そんな中、kudan house(九段ハウス)を拠点に、街づくりにおける各種コンサルティングを手掛ける東邦レオ子会社のNI-WAが、“リモートで体感するアート”をテーマにしたオンライン型アートイベントを5月6日から開催する。
東京大学大学院教授の横張真氏が提唱する「つくらない都市計画」をテーマに掲げ、「アート×街づくり」の可能性を探る。アートディレクターを務めるのは、ギャラリストとして多くのアーティストを世に輩出してきた吉井仁実だ。ゲストアーティストには写真家の篠山紀信、アーティスト・サイエンティストで、新入学生・在校生に向けた「家にいろ」のメッセージでも話題の慶應大学環境情報学部学部長の脇田玲教授らが参画。建築、ファッション、テクノロジー、カルチャー等の各界のオピニオンリーダーが登壇し、アートによるこれからの都市の在り方を表現するトークセッションなど、約30コンテンツを配信する。ファシリテーターはITジャーナリストの林信行と吉川稔NI-WA社長が務める。
セミナーのトップバッターとして7日に登壇するLVMHモエヘネシー・ルイヴィトン・ジャパンのノルベール・ルレ社長に、アートへの思いやイベントについて聞いた。
―今回、登壇されることになった経緯や決め手は何ですか?
ノルベール・ルレLVMHモエヘネシー・ルイヴィトン・ジャパン社長(以下、ルレ社長):新型コロナウイルスの蔓延の影響で外出自粛を余儀なくされている今、誰もが閉塞感を感じています。そのなかでアートを通じて、世界に“何か”を発信したいという吉川さんの心意気に共感を覚えました。
―5月7日のオンラインセミナーではどんな話を予定している?
ルレ社長:街の景観の美しさ、アートを取り入れた街づくりについて。たとえば、弊グループのブランドの路面店を建築する際、ファサードに力を入れています。ファサードはブランドを表現する顔であり、アートそのものです。
―ルレ社長にとって、アートとはどんな存在ですか?
ルレ社長:私にとってアートは三つの要素を持っています。E:Esthétique(美的、審美的)、I : Intelligence(知性)、F:Future(未来)だ。
―好きなジャンルやアーティストは?
ルレ社長:建築家、特に、隈研吾氏、青木淳氏、谷口吉生氏だ。弊グループの店舗等の建築を手掛けてくださいました。
―最近は、アートとファッションの関係性がより深まっていますが、なぜだと考えますか?
ルレ社長:ファッションはメッセージを持っています。色、形、素材、すべてがそのメッセージを放っています。ファッションはアートなのです。
―今回のアートイベントの会場となるkudan houseではグループのイベントなども開催されていますが、その印象は?
ルレ社長:Kudan House にはイベント、パーティなどで何度かお邪魔しています。和と洋がうまく融合された古い建物を見事に蘇らせたモダンな空間だと思います。一歩建物にはいると時空を超えた不思議な感覚を覚えます。
―アートにまつわるイベントやプロジェクトなどの予定は?
ルレ社長:LVMHは2021年に日本で開催される “日本におけるフランス年” のイベントを応援しています。フランスのさまざまな文化活動、もちろんアートについても発信していきます。新型コロナウイルス感染の影響で、すべてが疲弊していますが、そのような状況下でも未来に対してオプティミストでありたいと考えています。
なお、NI-WAの吉川稔社長は、「新型コロナウイルスの感染が拡大し、移動や外出が自粛される不自由な条件の下でも、テクノロジーの力によって交流する人々は増えている。デジタルコミュニケーションの急速な普及により見直される直接対面の価値など、ポストコロナに向けて、すでに人々の価値観や社会システムも大きく変化している。そこで、これまでのその場の臨場感や自分の目や耳で感じてきたアート体験を、デジタルコミュニケーションツールを活用してリモートで体感するという新たな取組みに挑戦したい」と意気込みを語る。
開催期間は5月6日~31日。トークセッションの他、展示されたアーティスト作品を見られる館内のバーチャルツアーや、DJ、ミュージックライブなども配信する。1時間に1組だけを対象にしたVIP企画も予定する。また、6日にはオープニングイベントとしてオンラインレセプションパーティーも開催する(要事前登録)。
■つくらない都市計画
日程:5月6日~31日 ※6日にオンラインレセプションパーティーを開催予定。事前登録者を招待
場所:kudan house
住所:東京都千代田区九段北1-15-9
参加アーティスト:篠山紀信、脇田玲、田所淳、秋山ブク他(順次公開)
トークセッション登壇者:ノルベール・ルレ、遠山正道、伊藤羊一、水野学、山口周、小松成美、ヴィヴィアン佐藤、田中杏子、西田善太、林千晶他
松下久美:ファッション週刊紙「WWDジャパン」のデスク、シニアエディター、「日本繊維新聞」の小売り・流通記者として、20年以上にわたり、ファッション企業の経営や戦略などを取材・執筆。著書に「ユニクロ進化論」(ビジネス社)