ファッション

武骨なアメカジブランドがオンライン動画に活路 Zoomやユーチューブで客との距離縮める

 緊急事態宣言が延長され、店頭で買い物する機会はますます遠のいた。デジタルとは縁の薄い存在に見えた武骨なアメカジブランドも、新たなチャネル開設のためインスタグラムやZoom、ユーチューブを活用し始めた。硬派なビジュアルと熱いスピリットは動画との相性がいいのか、予想していた以上の効果を上げるブランドもあるようだ。アメカジブランドの取り組みを追った。

IGTVによりEC売り上げが3倍に!
毎週金曜日の新作“ドロップ”も好調

 2015年にスタートし、現在国内約60店舗、海外約40店舗に商品を卸す帽子ブランド「ザ エイチダブリュードッグアンドコー(THE H.W. DOG & CO.)」は、4月7日にインスタグラムの動画アプリIGTVで配信を始めた。弦巻史也代表は、「新型コロナウイルスの感染拡大により店舗を閉店せざるを得ない状況となり、来店いただけないお客さまに向けて動画による商品説明を行っている」と話す。

 “コロナショック”下で、毎週金曜日の19時に新作1~4型を発表する試みも始めた。自社ECにアップし、IGTVで解説する。中でも、ECのみで販売する黒に限定した“ブラキッシュ コレクション(BLACKISH COLLECTION)”は1分で完売するほどの人気で、「コロナの影響でオーダー品のキャンセルなどもあり、ブランド全体としてはマイナス成長だが、4月のEC売り上げだけ見れば前年同月比で3倍を記録した」という。帽子はフィッティングが重要で、また卸先のECとのバッティングを考慮し、「ECやインスタは、これまではあくまで実店舗に誘導するためのものだった」と言い、実際に原宿にある実店舗の売り上げが7~8割を占めたが、“コロナショック”を機にデジタルが“攻める装置”に変化した。

 アフターコロナを見据えては、2月に本格稼働させたばかりだったアトリエ仕事に尽力する。「自分の腕を磨くために構えた。1900年製のクラシックな測定器を使って、帽子をビスポーク(特別注文)する。帽子は英国発祥でその後、米国に伝わった。そのため、“帽子は欧米のもの”という考えが海外を中心に根強い。目標は日本を代表する帽子ブランドとして、そんな欧米の人からも認められること」と意気込む。

Zoom使ったオンライン接客サービスを導入し、
ユーチューブチャンネルも開設

 1996年にデビューし、東京・原宿と高円寺、京都、福岡に店舗を持つネイティブアメリカンスタイルのシルバーアクセサリーブランド「ファーストアローズ(FIRST ARROW'S)」は、4月末からウェブ会議システムのZoomを使ったオンライン接客サービス“F.A.コンシェルジュ”を開始した。利用者はまず、オフィシャルホームページ上の特設バナーをクリックして希望日時やIDなどを入力する。追ってブランドからZoom経由でミーティングの通知が届き、動画による対面接客が受けられる仕組みだ。すでに購入や修理の相談を受けており、「商品を見ながら話ができるため、数段スムーズになった」(伊藤代表)と言い、「サービス名の通り、コンシェルジュのようなサービスを提供したい」と続けた。

 4月21日には、ユーチューブチャンネル「ファーストアローズ オフィシャル」も開設した。伊藤一也代表はレースにも参加するビンテージの「ハーレーダビッドソン(HARLEY DAVIDSON)」や、1930年代に米国で生まれたカスタムカー“ホットロッド”など自身の趣味も披露して、「“こんな人間が『ファーストアローズ』というブランドを作っているんだ”ということを知ってもらいたい。視聴者を笑顔にしたい」と話す。今後は商品紹介はもちろん、国内外のイベントで好評の彫金をライブで見せることも予定する。

5月末に動画を用いたウェブ展示会を企画。
オンライン上でオーダーも受け付ける

 2005年スタートで東京・恵比寿と原宿、大阪に店舗を持つ、アメリカンビンテージをモチーフとするメンズアパレルブランド「ジェラード(JELADO)」は、4月14日にユーチューブで「ジェラード チャンネル」を本格始動した。後藤洋平代表をはじめとするスタッフが出演してブランドについて語ったり、主力アイテムであるジーンズについて全国の卸先から色落ちサンプルを取り寄せて、はき方や洗濯の回数による個体差を見せながら解説したりしている。

 “コロナショック”を受けての動きに見えるが、後藤代表は「1年ほど前から、海外ショップ向けの新たなアプローチ方法として翻訳機能を持つユーチューブでの配信を考えていた。ジーンズやレザーアイテムの場合、海外バイヤーの買うべき日本ブランドは決まってしまっており、新規で展示会に出展してもビジネスにつながりにくい実状がある。もちろん“コロナショック”が、スタートを早めるきっかけにはなった」と答える。ジェラードは現在全店舗を閉めているが、ユーチューブ効果もあり、4月のEC売り上げは10~15%増(前年同月期)となっている。

 また今後については、「5月の最終週に予定する2020-21年秋冬展示会から、動画を用いたウェブ展示会を企画している。ファッション業界のクラウド管理を行うSTRAWBERRY JAMSと提携してオンライン上でオーダーを受け付けるつもりだ」と話す。また、「ファーストアローズ」がスタートさせたZoomによるコンシェルジュサービスも導入する。「ユーチューブに積極的にスタッフを登場させるのは、人間性や体形を視聴者に知ってもらい指名を受けるため。現在は、そのためのトレーニング期間と言える」。

 いずれのブランドも代表自らがプロジェクトの先頭に立ち、また出演している点がポイントだ。後者については、近くて遠い存在である彼らが動画を通じて、肉声でブランドや商品について語ることは一般ユーザーにとって有益であり、ブランドにとっても不特定多数の視聴者に配信できることはメリットとなっている。レザー、ジーンズ、ビンテージなどをモチーフとする武骨なブランドの、“これまでに培ったイメージを毀損するのでは?”と危惧する人もいるかもしれないが、しかし新たな一歩を踏み出したブランドの代表者の表情は総じて晴れやかで、さらなる一手の創出についても余念がない。「まずは重い腰を上げる必要がある」(伊藤一也「ファーストアローズ」代表)、「今できることをやらなければならない」(後藤洋平「ジェラード」代表)、「ありがたいことに新たな試みに対して、すぐに結果に出ている」(弦巻史也「ザ エイチダブリュードッグアンドコー」代表)と先達たちが言うように、まずはトライしてみることの重要さを取材を通じて再認識した。

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