ファッション
連載 You’d Better Be Handsome

まだ、あなたが知らないニューヨーク最新トレンド ポストコロナライフPost Corona Life

 ニューヨークのファッション業界で活躍するクリエイティブ・ディレクター、メイ(May)と、仕事仲間でファッションエディターのスティービー(Stevie)による連載第8回。“You’d Better Be Handsome”は、2人プラス、トレンドに敏感なレイチェル(Rachel)をときに交えて、ニューヨークのトレンドや新常識について雑談する。引き続き、新型コロナイルスの影響で街が閉鎖されているニューヨークからリポート。自宅勤務大勢となってすでに1カ月、さらに4月16日にはこの態勢が5月15日まで延期になり、前回同様ズーム(ZOOM)を使っての近況報告会。ポストコロナのライフスタイル、また打撃を受けているシェアビジネスについてトークする。

スティービー:元気?引きこもり生活、その後どう?

メイ:家中掃除しようとか、これを機にデトックスしてみるか、とか、いろいろアイデアは湧いてくるけど、なんだかあっという間に時間が過ぎていってしまう。

レイチェル:ニューヨーク州は、自宅待機要請がさらに1カ月延びて5月15日までになったしね。ビジネスの再開もシティ以外のところかららしいし。普段ならテイクアウトですむ食事もぜんぶ買い出しに行って、列に並んでから入店し、戻ってきて消毒してから調理して片付けるわけだから、けっこう時間がかかったり。

スティービー:これまで当たり前だったルーティーンが突然なくなったわけだから無理ないよ。正直失業した知人も日々増えているし。フォトエージェンシーAは、75%人員削減したらしい。

メイ:大手アーティストエージェンシーBも、3分の1カットしたらしい。早く私たちの定期ランチが復活するようになるといいな。

レイチェル:ニューヨーク市の公立学校はもう9月の新学期まで学校閉鎖が決まったし。9月に学校が開かないことを想定して、大学とかはオンライン授業の準備をしていたりするらしい。

スティービー:オンライン授業って大学生には可能かもしれないけど、小学生がどこまでアプリを使って勉強できているか微妙だよね。ずっとそれに付き合える大人がいるのは、ほんの一部の子どもだけ。まだ外に出て働き続けている人たちもたくさんいるわけだし。ますます格差が広がりそう。

日々レベルアップするセルフシュート

メイ:前回も盛り上がったけど、モデルたちのセルフシュートがどんどんレベルアップしているよね?

レイチェル:「ザラ(ZARA)」がモデルに服を送って、セルフシュートさせたシリーズとかもよかったよね。

スティービー:いろいろなシーンで、セルフプロデュースする能力が問われているという感じはする。それぞれが家にいながらモニターを通して撮影をする、という企画があるんだけど、結局モデル本人がメイクアップアーティストの指示に従って自分でメイクしたり、ヘアを整えたりしないといけないから、本人にセンスがあることがキャスティングの大前提になってくる。

レイチェル:いまはポルノ業界でさえ、セルフシュートしているらしいし。「ヴァイス(VICE)」で読んだ記事だけど、あの業界では大手のヴィクセンメディア(VIXEN MEDIA)は25万ドル(約2700万円)分の機材やプロップを提供することで、自宅で制作するよう働きかけているらしい。

メイ:さすが!スケールが大きい。

スティービー:病院への寄付など、ファッション業界の中でもいくつか動きがある。例えば、クイーンズにあるエルムハースト(ELMHURST)病院への寄付金を募るために、著名フォトグラファー187人が「ピクチャーズ フォー エルムハースト(PICTURES FOR ELMHURST)」というプロジェクトを立ち上げた。これはオークション形式ではなく、150ドル(約1万6000円)均一で、プリントを発送するというチャリティー。サインは入っていないらしいけど、イーサン・ジェイムス・グリーン(Ethan James Green)、ジャック・ダヴィソン(Jack Davison)ら、アート系のファッションフォトグラファーなど気になる人がたくさん。

レイチェル:「Vマガジン」は、夏号のマルチカバーを手掛けたフォトグラファーデュオ、イネス・ヴィヌード(Inez & Vinoodh)がライブでカバーガールを紹介するイベントを開いたり、相変わらず雑誌はあの手この手でコンテンツ作りに励んだりしている。

メイ:なんでもオンラインだからね。家にいながら、すごいインストラクターのワークアウトクラスも受けられるし、ニューヨーク近代美術館(MoMA)は無料でオンラインコースを提供してくれるし、本はキンドル(KINDLE)やオーディブル(AUDIBLE)でいくらでも読めるし、レシピは限りなくあるし。そうそう、私もとうとうティックトック(TIKTOK)のアカウントを作ってみた。あくまで見る側としてだけど。

レイチェル:子どもたちも学校がないから、コンテンツ作りに精が出るわけよね。見る側もたくさん時間があるし。セレブリティーも時間があるから、最近あまり聞かなかったカメオ(CAMEO)とかも盛り上がっている。

メイ:カメオってどういうシステム?

スティービー:セレブリティーやスポーツ選手にお金を払うと、自分だけのためのビデオメッセージをくれるというシステム。リンジー・ローハン(Lindsay Lohan)は1メッセージ、200ドル(約2万2000円)らしいよ。

レイチェル:カイリー・ジェンナー(Kylie Jenner)みたいに自分でコスメブランドをやっていたりする人は、ハンドサニタイザーを作って医療関係者に寄付したり。こういうときって早くやった方がかっこよく見える。ただあまりそのことを宣伝してはいなくて。チャリティーをクールにさくっとできるというのは上級者よね。

“ソーシャル・ディスタンス”時代のビジネス

メイ:サステナビリティの観点からも、スペースが足りない大都市では特にこれまではよいとされてきたシェアビジネスだけど、新型コロナウイルスの影響で“ソーシャル・ディスタンス”が強いられている今、誰かと空間や物をシェアすることは難しい。他人に近づいてはいけないわけだから。食材を買いに出掛けてもスーパーでは入場制限があって、外には6フィート(約1.8メートル)間隔で人が並んでいるし。

スティービー:以前から僕は他人とシェアすることに興味がなかったから、シェアビジネスの業績が落ちてきているのを不思議に思わない。そもそも人間は、所有したいという欲望を持って生まれてきているわけで。シェアオフィスのコーヒー飲み放題や素敵な景色のテラスに一瞬誘惑されることがあっても、知らない人たちと共有するよりも、自分たちのオフィスが安全ということが今回証明されただけ。

レイチェル: ルームメイトがいて楽しいときもあったけど、やっぱり自分だけのアパートに勝るものはない、というのと同じ原理ね。シェアビジネスの代表格と言えばウィワーク(WEWORK)。一時はフェイスブック、アマゾンとまで比較されるほど勢いづいていたけれど、オフィスでの感染が気になるときにシェアオフィスの未来は明るくない。

メイ:おしゃれなインテリアと便利なロケーションで、一時は飛ぶ鳥も落とす勢いがあったオフィススペース貸しのウィワークだけど、昨年夏に上場にも失敗して、創業者のアダム・ニューマン(Adam Neumann)がそれでも1.7ビリオン(約2兆円)をソフトバンクから受け取って辞任したことでウォール街の話題をかっさらった。

レイチェル:余談だけど、ウィワークの共同創業者でアダムの妻レベッカ(Rebekah Neumann)は、実はグウィネス・パルトロウ(Gwyneth Paltrow)のいとこだとか。ビジネスへの嗅覚が鋭い家系なのかもね。

スティービー:ウィワークに関する記事が「ファストカンパニー(FAST COMPANY)」誌に特集されていたのを最近読んだけど、ソフトバンクの孫氏の投資に応えるために無理してスピード出店していたらしい。

レイチェル:私たちのオフィスの向かいにもウィワークがあって、その先のブロックにもあるし。ある意味スターバックスよりもよく見かけるようになっていたから。

メイ:フリーランスやスモールビジネスオーナーが多いニューヨークには、シェアオフィスは素晴らしいアイデアだけど、需要と供給のバランスが素人から見ても悪かった。

ポストコロナについて考える

スティービー:ニューヨークで複数のレストランを経営する有名シェフ、トム・コリッキオ(Tom Colicchio)は、飲食店の75%は復活できないと言っている。ポストコロナライフはどうなるのか?
レイチェル:アパレルもすでに春夏物のセールが始まっているし。というかノードストロム(NORDSTROM)に関してはもう終わったらしい……。破綻したニーマン・マーカス(NEIMAN MARCUS)は、普段は絶対に割引しないコスメまで25%オフになっているし!

スティービー:中国ではファッションブティックも再開しつつあるよね。韓国もかなり普通に戻っていると聞いている。アメリカも1日でも早く復帰したいトランプと、あっという間にまた蔓延してしまうのでは?と懸念する州知事の間で毎日争われている。

メイ:私たちの“普段”が戻ってくるのはまだまだ先のことになりそうだし、前とまったく同じ生活が戻ってくるわけではなさそう。ポストコロナライフに向けて、みんな準備をし始めている。ニューヨーク州のアンドリュー・クオモ(Andrew Mark Cuomo)知事は2段階に分けて再開に着手することを発表した。人との接触が少ない業種から。様子を見ながら、その2週間後に次の業種というふうに。

スティーブン:このままだと秋のファッション・ウイークもバーチャルになりそうだね。すでにショーはしないと決めているデザイナーもニューヨークでは多い。

レイチェル:そういえば、ニューヨークでは公式に結婚もできるらしい、もちろんバーチャルで。当人たちと結婚ライセンスを発行する担当者との間で、ということらしい。

メイ:バーチャルでウエディングパーティーをしている人たちがいるのは知っていたけど。

スティービー:実際にはズームでお見合いパーティーとか、こんなときでも出会いを求めて動いている人たちもたくさんいるみたいだから。

メイ:外に自由に出られるようになっても、ますますソーシャルメディアやオンラインに頼る自分たちになっているのは確実よね。ジムとか行かなくても、家でやればいいやみたいな。

スティービー:ビジネスの業態は、ポストコロナでは大きく変わっていくのは確実。今回培った知識や経験のなかで生かされることもきっとあるはず。

新型コロナで勝ち組の自転車、負け組のカーシェア

スティービー:シェアビジネスと言えば、いちばんに思いつくのは車や自転車の共有。

レイチェル:特に都市部では、車や自転車の駐車料金が車そのものよりも高かったりするから。

メイ:いまどきマンハッタンでもブルックリンでも、月々の駐車料金が500ドル(約5万4000円)はするし。

スティービー:以前チェルシーに住んでいたときは車を持っていて、駐車場を借りていたこともある。そこも今はコンドミニアムになってしまって、車を所有することがますます困難になっている。

レイチェル:ニューヨークに住んでいると車を持つよりも、必要に合わせて家の前まで来てくれるウーバー(UBER)やリフト(LYFT)をその都度呼ぶ方がよっぽど便利。でも去年から渋滞税がかかるようになって一気に料金が上がってしまったけど。

メイ:シティバイク(CITI BIKE)もすごく増えて便利になっているけど、オフィスが徒歩圏の私はアカウントを作らないまま。

スティービー:新型コロナになって、誰かの汗がついているかもしれない自転車のシェアってどうかなって思うけど。

レイチェル:でも地下鉄に乗るよりは安全かも。ちなみに自転車店は新型コロナウイルスの流行で大繁盛しているみたいよ。走っている車も少ないし、自転車で街を走るのは快適かもね。

スティービー:一方ウーバーやリフトの相乗りシステム“プール”や、そもそも相乗りが主なヴィア(VIA)は相乗りのサービスを3月中旬から停止しているよ。

メイ:エンタープライズカーシェア(ENTERPRISE CAR SHARE)やジップカー(ZIP CAR)は、ニューヨーク市がストリートパーキングにも場所を確保していて、メンバーになると年会費および時間単位で8ドル(約870円)前後、または1日単位70~80ドル(約7600~8700円)を払うというシステム。この金額には、車のレンタル料金のほか、保険料も入っている。ときどき使うならそれで十分よね。

レイチェル:あるときまではジップカーしかなかったけど、大手レンタカー会社のエンタープライズがこの分野に乗り込んできたわけ。

スティービー:カーシェアも思っていた以上に浸透せずに、撤退する企業も出てきたよ。BMWの車に乗れるということで話題となったリーチナウ(REACH NOW)を吸収したカートゥゴー(CAR2GO)も今年2月末で事業を畳んでいる。

メイ:ちなみに今車を買うと、“タッチレス・デリバリー”をしてくれるところもあるらしい。要するに商品である車にはまったく触れずに、置いていってくれるというシステム。いろんなことがすごいスピードで日々進化していっているのを肌で感じる。

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メイ/クリエイティブディレクター : ファッションやビューティの広告キャンペーンやブランドコンサルティングを手掛ける。トップクリエイティブエージェンシーで経験を積んだ後、独立。自分のエージェンシーを経営する。仕事で海外、特にアジアに頻繁に足を運ぶ。オフィスから徒歩3分、トライベッカのロフトに暮らす

スティービー/ファッションエディター : アメリカを代表する某ファッション誌の有名編集長のもとでキャリアをスタート。ファッションおよびビューティエディトリアルのディレクションを行うほか、広告キャンペーンにも積極的に参加。10年前にチェルシーを引き上げ、現在はブルックリンのフォートグリーン在住

レイチェル/プロデューサー : PR会社およびキャスティングエージェンシーでの経験が買われ、プロデューサーとしてメイの運営するクリエイティブ・エージェンシーで働くようになって早3年。アーティストがこぞってスタジオを構えるヒップなブルックリンのブシュウィックに暮らし、最新のイベントに繰り出し、ファッション、ビューティ、モデル、セレブゴシップなどさまざまなトレンドを収集するのが日課

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