アメリカ・ボストンを拠点にするゲイリー(GALY)は、バイオテクノロジーを用いて綿栽培を可能にする技術を開発して注目を集めている。従来のコットン生産に比べて温室効果ガスの排出量を大幅に抑えることができ、水と土地の利用を80%以上削減できるという技術で、H&Mファウンデーション(H&M FOUNDATION)が主催するイノベーションコンペ「グローバルチェンジアワード(GLOBAL CHANGE AWARD)」をこの4月に受賞した。
ルチアーノ・ブエノ(Luciano Bueno)=ゲイリー創業者兼最高経営責任者(CEO)は立ち上げの前は、世界最大の会計事務所デロイト・トウシュ・トーマツ、DELOITTE TOUCHE TOHMATSU)やベンチャーキャピタルでM&Aや投資を行ってきた人物。19年に「フォーブス(Forbes)」誌の「フォーブスが選ぶ30歳未満の30人」に選出されて同年渡米し、ゲイリーを立ち上げバイオテクノロジーを用いた綿栽培に着手した。なぜ、彼はコットンに目をつけたのか。ブエノCEOに聞く。
WWD:コットンに取り組もうと思ったのはなぜ?
ルチアーノ・ブエノ(以下、ブエノ):ブラジル・サンパウロで高校の学費を稼ぐために友人にTシャツを販売することから始め、その後、世界最大の会計事務所のデロイト(デロイト・トウシュ・トーマツ、DELOITTE TOUCHE TOHMATSU)で、「プラダ(PRADA)」「カルヴァン・クライン(CALVIN KLEIN)」「ザラ(ZARA)」を主なクライアントとして監査・コンサルティングに従事した。さらにその後、ベンチャーキャピタル事務所でM&A案件や投資などを行い、しばらくして、テキスタイル分野で最初の会社を立ち上げたがうまくいかなかった。けれど業界の裏側を知ったことで、実際どのように回っているのかを理解することができた。「フォーブス」誌の「フォーブスが選ぶ30歳未満の30人」に選ばれるなどして認めてもらい、EB-1ビザでグリーンカードを取得後渡米し、次に何をしようかと考えていると、食品分野で大きな動きがあることに気づいた。食品分野で何か大きな影響力のあることができないかと考えるようになり、原材料がカギになるという考えに至った。植物科学とバイオテクノロジーの学術分野で15年間取り組んでいるパウラ(・エルブル、Paula Elbl)と一緒にゲイリーをスタートさせた。
コットンに取り組もうと思ったのは、誰もがコットンが大好きだから。地球を犠牲にすることなくコットンを生産できたら素晴らしいと思わない?天然繊維こそが未来につながると私たちは信じている。
WWD:開発の進捗状況は?
ブエノ:まだ研究開発段階だが、最大の課題はうまく機能させることと、生産の拡大だろう。
WWD:どのように培養していくのか?
ブエノ:植物の幹細胞に直接働きかけ、最適な環境で培養して繊維へと変えていく。コットン栽培は通常180日間かかるが、約10分の1の18日間で成長する。さらに80%のリソース(水、土地、温室効果ガス排出)が削減でき、高品質なコットンになる。
WWD:培養プロセスをバイオテクノロジー初心者でもわかるように簡単かつ具体的に教えてほしい。
ブエノ:ここはわれわれの特許に関わるところなので、類推していただくしかないのですが、例えば、丈夫な子どもに育ってもらいたいと思って鉄分などの栄養を与えるのと同様に、培養コットンの細胞にも健全で強固になれる“最善の栄養”を与えている。
WWD:生産量拡大のための今後の計画は?
ブエノ:まずはコンセプトの証明を確実にする。そしてより大きな容器(バイオリアクター)へ拡大し、そして専用施設を建てる。
WWD:あなたが考える究極のサステナブルなファッション産業とは?
ブエノ:研究室で製造できる衣類――これがベストで、おそらく最もクレイジーな方法だろう。
WWD:現在の課題は?
ブエノ:ブランドを説得すること。「今、私たちのような取り組みに投資を行わないと、近い将来いろいろな意味で困るよ」と。今後はコットン生産に十分な土地がなくなるからね。
WWD:これまでの資金調達額は?
ブエノ:調達額は非公開だが、投資を募集している。
WWD:他に注目しているサステナブル技術は?
ブエノ:“クリーン・ミート(細胞培養による肉)”、自動運転、新たなバイオベース素材。素材に関しては、ファッションだけでなく家具や航空宇宙などの分野に影響を与えられるから。私の考えでは、全産業の制度を打ち破って変えられるポテンシャルがあるのは、イノベーションの中でもごく一部の分野だと思う。
WWD:注目しているファッションブランドは?
ブエノ:「コム デ ギャルソン(COMME DES GARCON)」。ミニマリストでありながら常にトレンディーだから。
ゲイリーのコンセプトを表現した動画