ビューティ

この危機にロングセラー、既存製品をアピールするビューティ業界の狙い

 新型コロナウイルス感染拡大、緊急事態宣言を受け、さまざまな経済活動がままならない状況が続いているが、ビューティ業界も同様だ。春に企画されていた新製品発表会やイベントも中止を余儀なくされた。どの業界もデジタルの駆使は必須だが、ビューティ業界もしかり。インスタライブ配信を始め、オンラインキャラバン、オンライン発表会、さらには自社CSRのPRまでデジタルで発信する。また、ファッション業界でも強まるデジタルでの接客を取り入れる企業も出てきた。まずはやってみようという意気込みを感じる。そういったデジタル活用で新しい試みに挑戦しているビューティ業界だが、並行して実施しているのが、ビューティ業界の強みの一つであるロングセラー製品のPRだ。リアルが稼働しない今をどう生き残っていくのか。

 コロナ禍で施策の多くが厳しくなった中、実は新製品の発売延期が続々と明らかになっている。資材の調達が難しくなっていたり、状況を鑑み今が発売時期ではないと判断したりしての延期だ。デジタルを駆使するにしても、発売される新製品がなければどうしようもないと思いがちだが、そこで打ち出しを強めたのが、既存品のPRだ。

 ビューティの多くのブランドは、コロナ以前からロングセラー製品のPRには長けていた。これまでもシーズンに1つは、ロングセラー製品を戦略製品とし、テレビCMや雑誌広告、インフルエンサー活用、イベント、キャンペーンなどさまざまな施策を打ち、既存客に加え新客を獲得し顧客の裾野を広げる活動を続けてきた。実際、売り上げの多くをロングセラー製品で占めているところも多い。ここへきて、ロングセラーだけでなく既存品の発信を強めるブランドが増えてきたのだ。

「おこもり」「マスク」のキーワードが後押し

 これまでは新製品のリリースが届くことはあったが、大きなキャンペーンでもない限り、既存品のリリースが編集部に届くことは少なかった。家で過ごすことが中心になった今、「おこもり」「マスク」というキーワードがビューティ業界には追い風にもなっている。「お家美容で役立つおすすめスキンケア」「マスクに合うアイメイク人気製品をピックアップ」などをキーワードにしたリリースが続々と届いている。

 例えば、「THREE」は、PRが「コンディショニング ミスト SQ(A)」と「同(R)」のミスト化粧水セット(4500円)を、「A=Activeに過ごしたいとき、R=Relaxしたいときと使い分ける商品で、集中とリラックスの切り替えがしづらい……まさに自宅で仕事をするときの必需品!」とおすすめ。

 「シュウ ウエムラ(SHU UEMURA)」はブランドを代表するアイテムの一つ「アルティム8∞ スブリム ビューティ クレンジング オイル」(150mL、4600円)の使い方の工夫をブランドのアーティストが発信。「マッサージ+深呼吸でカシミヤテクスチャーを堪能してリラックス度アップ」「贅沢に8プッシュ。至福のリラックスタイムを」などと伝えている。

 「ジョルジオ アルマーニ ビューティ(GIORGIO ARMANI BEAUTY)」は、「オンラインでも理想の自分に。」としてメイクアップ製品を紹介。ブランドの人気製品のファンデーションから「パワー ファブリック コンパクト」(8700円)や、リキッドアイシャドウ「アイ ティント」(3900円)などを提案した。

 そのほか、資生堂が展開する「ドルチェ&ガッバーナ ビューティ(DOLCE&GABBANA BEAUTY))」はアイシャドウパレット「ドルチェ&ガッバーナ フェリンアイズ インテンスアイシャドウ クアッド」(7800円)の全8種から、資生堂アソシエイト トップヘアメイクアップアーティストの豊田健治氏がおすすめする春夏のアイメイクなどを紹介。プロ目線の発信も今ならではだろう。

 また面白いところでは、「クリニーク(CLINIQUE)」は1〜2月に発売になった新製品のクリニーク iDシリーズの「ドラマティカリー ディファレント モイスチャライジング トーンアップ ジェル」(6500円)や、「イーブン ベター ラディカル ブライト セラム」(30mL 9000円、50mL1万4000円)などの紹介とともに、メールの最後には、PRチームの自己紹介も記載されていた。特技や趣味、好きな食べ物、おこもり美容などを紹介していて、なんだかクスっとするなかに温かさも感じられ、会うことができない中、こういった取り組みも引きつける要素になっているだろう。

メディアが取り上げやすいコンテンツに

 こういったリリース発信は、多くのメディアが取り上げるのに最適な材料になっている。こぞって、「お家美容」と題したスキンケアやメイクアップのハウトゥーや、製品ピックアップ紹介が紙媒体だけでなくウェブ、SNSのコンテンツで増えている。また、こういった施策には、ミニサイズがつくプレゼント企画や、お得な定期便企画を盛り込んでいる場合もあり、その特典がメディアの引きになっているところもある。定期便企画は、「シュウ ウエムラ」の「アルティム8∞ スブリム ビューティ クレンジング オイル」や「ランコム(LANCOME)」の人気NO,1美容液「ジェニフィック」などで行われており、いずれもロングセラー製品のPRと共に企画されている。

 さらには、メディアとのタイアップ企画も進行しており、既存品を活用しながらも、新鮮に映る取り組みは、コロナ収束後の戦略にも新たな施策として加わりそうだ。一方でブランド側は、リリース配信に留まらず、これらを活用したインスタライブなども並行して行い、PRに加えECへの導線もしっかり確保している。インバウンド需要などの落ち込み、リアル店舗の休業などで前年売り上げの達成は厳しい状況ではあるが、今の危機を乗り越えるため、そしてその先に向けた取り組みは確実に進んでいる。

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