Lブランズ(L BRANDS)と投資会社シカモア・パートナーズ(SYCAMORE PARTNERS)は、Lブランズ傘下のヴィクトリアズ・シークレット(VICTORIA'S SECRET)の株式譲渡契約を破棄し、取引を中止することを発表した。
Lブランズは両社が株式譲渡契約を破棄することで合意に至ったと5月4日に発表した。ヴィクトリアズ・シークレットをシカモア・パートナーズに売却することで得られるはずだった5億2500万ドル(約556億円)は、業績が低迷しているLブランズにとって生命線だったといえる。事業譲渡失敗で窮地に立たされた同社は、好調な「バス&ボディワークス(BATH & BODY WORKS)」を切り離して独立した公開会社とする一方で譲渡予定だったヴィクトリアズ・シークレット関連事業は、別会社として事業を継続するという。また、児童買春の容疑がかけられていた米国の富豪ジェフリー・エプスタイン(Jeffrey Epstein)との交友関係や自身の社内におけるセクシャルハラスメント行為が批判されていた創業者のウェクスナー会長兼CEOは5月14日に開催する株主総会をもって退任し、決定権を持たない名誉会長職に就く。
同社はウェクスナー会長兼CEOの退任と合わせて経営陣を刷新すると発表している。新会長にはLブランズの役員を務めるサラ・ナッシュ(Sarah Nash)が就任し、バス&ボディワークスCEOのアンドリュー・メスロー(Andrew Meslow)がLブランズのCEO職を引き継ぐ。
ナッシュ新会長は、「ほかの小売り企業と同様に大変厳しい環境に直面している。多大な費用を投じて不愉快な思いをしてまでシカモア・パートナーズにパートナーシップを迫るための訴訟を起こすよりも、この状況を乗り切ることに全力を注いだ方が会社にとって、株主にとって、そして共に働く仲間にとって最善だと考えた。『バス&ボディワークス』の好調を継続し、ヴィクトリアズ・シークレットは大幅にコストカットを進める。われわれは全ステークホルダーの利益と企業の未来を念頭に置いて行動していく」とコメントした。
買い手として名乗りを上げていたシカモア・パートナーズも同日に契約破棄で合意したことを認めた。「契約破棄の合意に伴い、両社は進行中の訴訟を取り下げることで合意した。また、契約破棄は両社の合意の下で行われるため、互いに金銭の請求は行わない」と説明した。
シカモア・パートナーズは新型コロナウイルスの影響でLブランズが実施した店舗閉鎖などが「ビジネスに深刻な損害を与える」と主張し、株式譲渡契約の破棄を求めた。契約書の中には対象会社の事業などに重大な悪影響を及ぼす事由が発生した場合において買い手が取引を中止できる権利を規定する、いわゆるMAE条項が盛り込まれていたことを根拠に、契約の破棄の正当性の判断を求めて4月22日にデラウェア州裁判所に申し立てを行った。これを受けてLブランズは「断固として争う」と主張し、翌23日にシカモア・パートナーズを相手取り株式譲渡契約の履行などを求めて訴訟を提起したことで訴訟合戦に発展していた。
Lブランズが5月4日に発表したヴィクトリアズ・シークレットの株式譲渡契約破棄のニュースを受けて同社の株価は4日夕の時間外取引中に同日の終値12.05ドル(約1277円)から最大で15%以上も下落した。翌5日の株価も上昇と下落を繰り返し、最終的に終値が前日比3.5%減の11.62ドル(約1231円)となった。