新型コロナウイルスは美容室にも甚大な影響を与えている。状況が大きく変化したのは、3月25日に東京都が週末の外出自粛要請が出してからだ。都内ではその週末は営業を自粛する美容室もあった。それまでは、「前年と比べても売り上げは大きく変わらない」と答えていた美容室も、この外出自粛要請が出されて以降はかなり客数が減少したという。4月7日に7都府県を対象に緊急事態宣言が出されて以降、休業要請は出なかったものの、都内を中心に自主休業を決断した美容室も多い。(この記事は「WWDビューティ」2020年5月7日号からの抜粋です)
その後、東京都は4月28日の夜に急きょ、4月30日から5月6日まで自主休業をした美容室や理容室には1店舗15万円、2店舗以上だと30万円の給付金を支給することを発表。それまで自主休業していた美容室の多くが、この期間に営業を再開することを決めていたこともあり、今さら感があったのは否めないが、一方で「小規模な美容室だと、営業するよりは休業して、今回の給付金と雇用調整助成金を支給してもらった方が金額面ではいい。大きな規模の美容室だと今回の給付金だと全然まかないきれないが、少人数サロンだと活用できるので、自主休業を決めた」という店もあった。
こうした状況下で営業している都内の店舗では、「お客さまは通常の半分ほど。営業してもそこまで売り上げにならない。ただ営業することで、自粛で家に閉じこもっていたスタッフの気分も変わる」「予約制限していてほぼマンツーマンでやっているので、できる人数は限られているが、お客さまからは髪をきれいにすることで気持ちもすっきりするという声をいただく」「しっかりと顧客を獲得できていたスタイリストはお客が戻ってきているが、顧客の少ない若手は苦戦している」「こうした状況がいつまでも続くか分からない。だからこそ少しずつでもどうすれば安全に営業をできるか模索していく必要がある」などの意見が聞かれた。新型コロナの影響はまだ続くと思われ、すぐに通常営業には戻れない中で、いかにサロンを継続させていけるか。雇用調整助成金や持続化給付金、融資などをしっかりと生かしつつ、経営者は支援情報を把握していくことが必要だ。美容室の新型コロナ対策については、東京都美容生活衛生同業組合の特設ページなど確認できる。
また原宿、表参道、銀座といった都心の一等地に店を構える美容室では家賃が大きな負担となっている。現状、多く集客して営業することが難しく、人数を制限せざるを得ない。現在家賃の補助についても検討されているが、これまで通りの家賃ではやっていけないサロンも出てくる。また、都心のサロンにわざわざ行くよりは地元のサロンを選ぶ人も増えるかもしれない。これまでこうした一等地で店を持つことがブランディングにつながっていたが、この現状だとデメリットもかなり大きく、今後はブランドサロンの郊外への出店も増えていくのではないか。
サロン独自の取り組みで
ファンを増やす
そうした中で新たな道を模索するサロンも出てきている。「IJK 表参道」や「ゴールド(GOALD)」などはクラウドファンディングを開始した。2店とも初日に目標額を達成するなど、多くの支援を集めている。これは両店ともしっかりとファンを獲得してきたからこその結果だ。また人気バーバー「ミスターブラザーズ・カットクラブ(MR.BROTHERS CUT CLUB)」は、“テレカット”サービスを4月28日から開始した。これはオンライン会議ツールのZoomを使って、スタイリストがヘアカットを無料で直接レクチャーするというもの。美容室に行くのに不安がある人とつながる仕組みをつくっている。インスタグラムなどでも最近は美容師が顧客向けにおうちでヘアを楽しむためのアレンジやセルフカット、セルフカラーなどをレクチャーする投稿も増えている。直接、顧客と会えない中でもいかにSNSなどを通じてコミュニケーションを取っていくか、それがファンを増やしていくことにつながる。
またサロンワーク以外での収益化も考えなければいけない。そういった意味ではサロンのECが一番だ。現在、ミルボンは理美容室専売品メーカーのミルボンは、新型コロナウイルスの影響により休業や時短営業を行っているサロンの顧客に向けて、「オージュア」「ミルボン」のリピート購入に限って自宅への配送を開始するなど、新たな取り組みを行っている。対面販売が難しい場面は今後も出てくるかもしれない。今回の件をきっかけにメーカーはサロンECでの販売も認めるようになっていくかもしれない。
今後は、“美容室に行くこと”が以前よりより特別なことになってくるだろう。そうしたときに選ばれる美容室、美容師になることが重要だ。それはヘアスタイルだけを求めていくだけではなく、せっかくならあの人に会いたい、手掛けてもらいたいという気持ちの中で、選ばれること。そのためには何が必要か。内田聡一郎「レコ(LECO)」代表は、「大事なことは髪を切るというテクニカル的なことよりも、人をデザインするというコンサルティング的な側面が強くなる気がする」、またその姉妹店「クク(QUQU)」の浦さやか代表も「今以上にお客さまにとって特別な存在になっていかなければ選ばれなくなる。個人技(技術も想像力も)が必要」と語る。難しい時代だからこそ、美容室経営者はスタッフと顧客のために何ができるかを考え、しっかりと取り組んでいくことが必要だ。
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