ファッション

ポストコロナで中国のラグジュアリー市場が再活性化 各ブランドの戦略は?

 新型コロナウイルスの感染拡大が落ち着きを見せ始めている中国では、ラグジュアリー市場が再び活性化している。各ブランドは比較的手が届きやすい価格帯のアイテムで消費者を引きつけるか、またはより高価でアイコニックなハンドバッグで勝負するべきなのか――そのどちらの問いに対しても答えはイエスのようだ。

 中国では4月に都市封鎖が解除されて以降、「シャネル(CHANEL)」のショップに入店を待つ人びとが行列をなす様子は珍しいものではなくなった。しかし5月10日、同ブランドが翌日から販売価格を大幅に引き上げるといううわさがSNS上で広まり、中国全土の店舗では前代未聞の売上高を記録する事態となった。

 中国で人気のSNS型ECアプリ「シャオフォンシュウ(Xiaohongshu、小紅書、通称RED)」のユーザーたちは、北京、上海、広州、杭州の各都市で人びとが「シャネル」に殺到する様子を紹介した。あるユーザーの話では、店内の混雑により会計を済ませるのに1時間以上待ったということだ。

 ハンドバッグ専門のウェブサイトによると、同ブランドのバッグ“スクエア ミニ”はブラックラムスキンの価格が2995ドル(約31万7470円)から27.4%アップの3815ドル(約40万4390円)に、また“ミニ フラップ バッグ”は24.5%値上げされるという。

 情報筋によると、フランスでは5月7日に価格が引き上げられ、欧州のほかの都市では5月11日に、米国では5月25日にそれぞれ新価格が適用されるという。この件に関して「シャネル」からの回答はまだ得られていない。

 また「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」は、3月に3%、5月はさらに5%と、過去3カ月間で2度の値上げを実施した。これにより、同ブランドで人気の高い“ポシェット・メティス(Pochette Metis)”のモノグラムバッグは、新型コロナウイルスの流行前と比べて150ドル(約1万5900円)ほど値上げされたことになる。

 「プラダ(PRADA)」と「グッチ(GUCCI)」では、現在のところ価格の改定を行う予定はないという。

 新型コロナのパンデミックにより、各ラグジュアリーブランドは欧州と北米の店舗で約2カ月間の休業を実施した。各社の株価は急落し、ニーマン マーカス グループ(NEIMAN MARCUS GROUP)やJ.クルー グループ(J.CREW GROUP)、トゥルー・レリジョン(TRUE RELIGION)では日本の民事再生法に当たる米連邦破産法第11条の適用を申請するまでの事態となった。

 一大ラグジュアリー市場でもある中国では国民の生活がゆっくりともとに戻り始めており、各ブランドは新型コロナで被った損失を取り戻すためのさまざまな戦略を実施している。

 「シャネル」や「ルイ・ヴィトン」が人気アイテムの値上げを実施したように、「ディオール(DIOR)」「グッチ」「プラダ」「エルメス(HERMES)」などのブランドでも中国マーケットを重視して、比較的手の届きやすい価格帯の商品を中心に大きな動きを見せている。

 「ディオール」のビューティラインでは、コスメ商品のアンバサダーとして女優のズーウェン・ワン(Ziwen Wang)を、スキンケアライン“カプチュール・トータル(Capture Totale)”の看板としてジンヤン・ウー(Jinyan Wu)をそれぞれ中国向けのキャンペーンモデルに起用した。

 「ディオール」はこれまでに販促の一環として、中国版ツイッターのウェイボー(微博、WEIBO)など、オンライン上で多くのフォロワーを抱える中国人セレブリティーたちをキャンペーンモデルとして積極的に起用してきた。フォロワー数で見ると、上位6人のアンバサダーが抱えるフォロワーを合わせただけでも合計2億5000万人に及ぶ。これにより、スキンケアや香水、アクセサリーなど低価格帯のカテゴリーでは、他ブランドよりも圧倒的に多い売上高を達成できることになる。

 一方で「グッチ」と「プラダ」は、中国の“520”という5月20日のネット・バレンタインデーに、定番のアイテムや低価格帯の商品にスポットを当てたキャンペーンを実施した。中国語では「5月20日」の発音と「あなたを愛しています」の発音が似通っている。“520”は、本来の2月14日のバレンタインデーや、織姫と彦星が年に一度だけ会うことが許されるという七夕の日ほどには重要視されていなかったが、新型コロナによって当初の計画が狂わされたこともあり、“520”は中国での愛にまつわる日として大々的に販促活動が行われた。

 「グッチ」はブランドのアンバサダーとして歌手のクリス・リー(Chris Lee)や女優のニニ(Nini)、人気アイドルで俳優のルハン(Lu Han)、女優のソン・ヤンフェイ(Song Yanfei)やそのほか4人を起用して、「グッチ」のモノグラムの製品にスポットを当てた屋外広告を打った。このキャンペーンを中国の主要なSNSに向けても徐々に展開し、SNSごとに少しずつ異なるビジュアルや切り口でエンゲージメントを高める狙いだ。このキャンペーンでキーアイテムとなるのは“ディオニュソス(Dionysus)”“1995 ホースビット(1995 Horsebit)”“GGモーマント(GG Marmont)”“オフィディア(Ophidia)”などのアイテムだ。

 「プラダ」がブランドの顔として起用しているタレントのツァイ・シュクン(Cai Xukun)とともに実施した“520”のキャンペーンは、オンライン上で功を奏した。ウェイボーでのツァイによるキャンペーン関連投稿には158万のいいねが付き、“#Prada520”のハッシュタグ数は4億3000万に上る。

 ウィーチャット(微信、WeChat)上の「プラダ」のミニプログラム・ストアでは、“520”のコレクションから3種類のバッグやサングラス、バックル付きの帽子、ブレスレットなど、2200人民元(約3万3000円)から1万3000人民元(約19万5000円)の価格帯で6つのアイテムが完売している。

 そして、両方の戦略を取り入れたのが「エルメス」だ。ひと月前に営業を再開した広州のショッピングモール、タイクーフイ(Taikioo Hui、太古匯)にある旗艦店では、レアアイテムとも言える“バーキン(Birkin)”のバッグを大量に入荷し、再オープン初日に少なくとも1900万元(約2億8500万円)の売り上げを記録した。また“520”のキャンペーンの一環として、ウィーチャットにミニプログラム・ストアも立ち上げ、シルクのスカーフやベルト、イヤリング、サンダル、ベビー用のぬいぐるみ、“ケリー(Kelly)”の財布などより手ごろな価格帯の製品にスポットを当てている。

 また「ルイ・ヴィトン」は、ライブ配信で有名な中国人のオースティン・リー(Austin Li)とタッグを組み、「シャオフォンシュウ」でフレグランスのコレクションを売り出した。近々さらなるキャンペーンも開始される予定だ。

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