ビューティ

新型コロナ禍でも美容業界のサステナビリティは加速か クリーンビューティを取り入れる各社の取り組み

 近年SDGs(持続可能な開発目標)や企業評価の指標であるESG(環境・社会・ガバナンス)が注目を浴び、企業はサステナビリティ施策などを進めてきた。新型コロナ禍でもESGは優良な投資基準で、投資信託会社モーニングスターによると、世界の投資家は新型コロナ禍にあった1〜3月期の間もESGファンドに456億ドル(約4兆8336億円)を投入したという。

 これは新型コロナウイルスの影響で、雇用や労働者への手当てを含む社会課題が重視されたことが大きな要因だ。しかし環境問題の比重も依然として大きく、ロレアル(L’OREAL)のサステナビリティ計画「シェアリング ビューティ ウィズ オール(Sharing Beauty Will All)」を2013年に立ち上げたアレクサンドラ・パルト(Alexandra Palt)=エグゼクティブバイスプレジデントは、「新型コロナは生物多様性の損失に絡んでおり、気候変動問題や環境問題に取り組んでいかなければこの危機が繰り返されることがわかっている。政府や企業が古いシステムに戻ろうとすれば、社会、特に若者たちはそれを受け入れない」と、消費者の問題意識の高さを指摘する。また、「サステナビリティは消費者にとってより重要となる。(新型コロナの)危機の前からすでに優先事項だったからで、パンデミックはこの動きを加速させるだけだ」と語った。

 非営利団体のカーボンブリーフ(CARBON BRIEF)が発表したレポートでは、新型コロナが猛威を奮った2月の中国では、二酸化炭素排出量が年末年始の2週間と比較して、25%以上減少したという。こういった環境問題の改善は世界的に見られ、国際エネルギー機関(IEA)によると今年、世界の二酸化炭素排出量は前年比で8%減少するという。こういったニュースは、消費者も環境問題を自分ごと化する機会となっている。

 環境問題への意識の高まりに反して、出遅れているのが美容業界だ。イギリスの意識向上キャンペーン「ゼロ ウェイスト ウイーク(Zero Waste Week)」によると、化粧品業界は年間約1200億個のプラスチック含有パッケージを生産しているという。またカラー化粧品などは、リサイクルできないミラーや磁石などで作られるため、ほとんどが埋め立てで廃棄される。

 ユーロモニター(EUROMONITOR)によればアメリカで1年間(18年)に79億個のプラスチックパッケージが美容・パーソナルケア製品として棚に並んだといい、アメリカの環境保護庁は埋め立て廃棄物の3分の1は美容業界からのものだと指摘している。このようなプラスチックパッケージの問題のみならず、製造から運搬で排出される二酸化炭素や水の消費、配送ボックスやサンプルパウチに至るまで、課題は山のようにある。

 そういった中で、サステナビリティに対する消費者の目は厳しくなっている。美容業界に関するさまざまな問題を取り上げるインスタグラムアカウント、「エスティランドリー(@esteelaundry)」は度々サステナブルでないブランドをやり玉に挙げており、「パット・マクグラス ラボ(PAT MCGRATH LABS)」は配送用の過剰な緩衝材が無駄だと炎上した。また米美容専門店ウルタ(ULTA)は、従業員が自身のティックトック(TikTok)アカウントで製品の廃棄法を暴露。返品された商品は未使用のものであっても粉々にして破棄すると明かしたビデオが批判を呼んだ。

容器からクリーンビューティまで、企業の新しい取り組み

 企業もこのような課題に対し、続々と対策を打ち出している。資生堂はこれまで多くの環境配慮型パッケージを生み出しており、「ハク(HAKU)」は2011年から美白美容液「HAKUメラノフォーカス」でレフィル販売を行っている。これにより本体容器と比べてプラスチック量を60%(発売後1年間で約19トン)削減できるという。また「クレ・ド・ポー ボーテ(CLE DE PEAU BEAUTE)」は美容液「コンサントレイリュミナトゥール」の容器を14年にガラスからプラスチックに変更したことで重さを90%減らし、1商品あたりの二酸化炭素を60%削減した。さらに15年から飲料用ペットボトルのリサイクルペット樹脂を「シーブリーズ(SEABREEZE)」のボディーシャンプー容器に使用。昨年4月にはカネカと共同開発の生分解性パッケージを導入。そして20年初夏には木材の再利用パッケージやレフィル商品を投入するなどして、環境保護を掲げる新ブランド「バウム(BAUM)」をローンチする。

 「WWDビューティ」5月14日号でも取り上げたが、欧米ではサステナビリティの意識の高まりやウエルネストレンドの成長に伴い、健康や環境に害のない成分を使用し、環境と社会に配慮したクリーンビューティのトレンドが拡大している。このトレンドは新型コロナ禍でも根強い支持を受けており、調査会社のNPDグループ(NPD GROUP)によると、今年の美容の売り上げが新型コロナの影響で14%減となっているのに対し、プレステージクリーンビューティは11%増となったという。

 クリーンビューティブランドの多くも危機感を持って取り組んでおり、「タタ ハーパー(TATA HARPER)」はマイクロビーズの代わりにフルーツベースの自然な角質除去剤を用い、「レン クリーン スキンケア(REN CLEAN SKINCARE)」は海洋プラスチックごみを使用したリサイクルプラスチック容器を採用する。また「オワ ヘアケア(OWA HAIRCARE)」は容器や輸送のコストを減らすため、水で戻せる粉シャンプーを販売している。

 しかし一方で、完全に廃棄をなくすことは難しく、クリーンビューティ専門店のクリード(CREDO)は「(消費者は)“廃棄物ゼロ”の美容製品を求めているが、それは大きな目標だとめつつ、完全にゼロにするのは難しい。美容業界で本当に廃棄物ゼロにすることは、不可能ではないにしても困難だ。化粧品の大半がプラスチック容器に入っており、リサイクルされるプラスチックは10%未満だ」と現状を語る。

 今後さらに高まっていく消費者と投資家からの環境問題とサステナビリティへの注目に、企業はどう応えていけるのだろうか。

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