欧米、特にアメリカを中心に、クリーンビューティトレンドが拡大している。そして特に、環境問題や社会課題に関心が高いZ世代やミレニアル世代が注目しているというが、実際にどのような現象が起こっているのか。
クリーンビューティは近年登場した概念だ。明確な定義や認証制度はないものの、健康や環境に害のある成分を使用せず、環境や社会、動物に配慮された美容アイテムを指すことが多いが、「WWDビューティ」5月14日号では、①健康や環境に害のある成分を使用しない、②製造から販売まで環境への配慮がなされている(サステナビリティ)、③動物実験の不実施や労働環境など社会に配慮している、と定義して特集を組んだ。その中でも触れているが、この背景には近年のウエルネスやビーガンへの関心、動物愛護などエシカルな意識の高まりがある。
クリーンビューティはインディーブランドが多く、オンラインを活用したD2C(ダイレクト・トゥー・コンシューマー)の形で成長するところも多い。そのためブランドは、SNSでの発信やコミュニケーションに積極的だ。例えば昨年6月にユニリーバ(UNILEVER)が買収した「タチャ(TATCHA)」はインスタグラムで114万フォロワー、資生堂が昨年10月に買収した「ドランクエレファント(DRUNK ELEPHANT)」は97万フォロワーを持つ。
多くのブランドは製品の効能や成分へのこだわり、サステナビリティ、エシカルな活動などを発信しているが、スキンケアブランドの「グロウ レシピ(GLOW RECIPE)」は一風変わった投稿を行った。ユーチューブで登録者419万、インスタグラムで210万フォロワーを抱える美容インフルエンサー、キャスリーン・ライツ(Kathleen Lights)は自身の動画で、同ブランドの製品の香りに苦言を呈した。これをきっかけに同ブランドは香りの配合を改良し、その動画をインスタグラムに引用投稿して新処方を告知。また、さらなる改善案も募った。批判を受けた事実までも明らかにする透明性や、改善を怠らない姿勢が、ファンの心をつかんでいる。
ブランドによってはユーチューブやティックトック(TikTok)など動画メディアの活用も盛んだ。「バイオサンス(BIOSSANCE)」はクリーンビューティに関する知識を伝える「クリーンアカデミー(The CLEAN ACADEMY)」を自社サイトとユーチューブで展開している。また「トゥルーリー ビューティ(TRULY BEAUTY)」はティックトックで41万フォロワーを抱え、ホイップ状のボディーバターを紹介している。今後はこういった“動画映え”のアイテムも注目を集めそうだ。
消費者はクリーンビューティに何を期待する?
クリーンビューティの消費は、“大義第一”なだけではない。インスタグラムの美容に関するハッシュタグ「#skincareaddict」(173万投稿)「#365inskincare」(13.1万投稿)「#itgtopshelfie」(10.6万投稿)などを見ていくと、棚にずらりと並んだアイテムの中に、いくつものクリーンビューティ製品が並ぶ。「ファーマシー(FARMACY)」や「グープ(GOOP)」「クレイヴ ビューティ(KRAVE BEAUTY)」「ヴァースド(VERSED)」「セイ ビューティ(SAIE BEAUTY)」「ユース トゥー ザ ピープル(YOUTH TO THE PEOPLE)」など、複数のブランドから色とりどりのパッケージが選ばれている。
またメイクアップ製品でも複数ブランドのアイテムを集めるのがはやりのようで、バスルームの棚や「ボッテガ・ヴェネタ(BOTTEGA VENETA)」の人気レザーバッグ“ザ ポーチ”などに、コスメを詰め込んだ写真が定番化している。ハイブランドのコスメも人気だが、同じくらい「コーサス(KOSAS)」のリップバームや「ライラ B(LILAH B)」のリップ&チーク、「イリア(ILIA)」のマスカラなど、クリーンビューティのコスメも目立っている。
前述のように、クリーンビューティブランドはオンラインから成長する若いブランドが多い。そのため成分や効能だけでなく、オンライン上でも目を引くトレンドを意識したパッケージやブランディングが特徴だ。美容ブログから始まり、SNSで火が付いてユニコーン企業(評価額10億ドル超え)まで成長した「グロシエ(GLOSSIER)」のような現象が、クリーンビューティでも起こっているのは興味深い。
もちろん、見た目だけが評価されているわけではない。若い世代はより環境問題や動物愛護にシビアだといわれている16歳の女優ミリー・ボビー・ブラウン(Millie Bobby Brown)が立ち上げたティーン向けコスメブランド「フローレンス バイ ミルズ(FLORENCE BY MILLS)」は、消費者からのよくある質問として、動物実験やサステナビリティに関して事細かに回答している。環境や社会に配所していながらデザインや性能・効能を我慢しなくていいことが、若者の間で広がっている要因なのだ。