フランスでは全土で行われていた都市封鎖が5月11日から緩和され、生活必需品以外を取り扱う店舗もおよそ2カ月ぶりに営業を再開している。それから約1週間が経ったが、売り上げなどは回復しているのだろうか?
百貨店のギャラリー・ラファイエット(GALERIES LAFAYETTE)、「ザラ(ZARA)」などを運営するインディテックス(INDITEX)、H&Mヘネス・アンド・マウリッツ(H&M HENNES & MAURITZ)など、およそ6万店が加盟するフランスの専門店連盟プロコス(PROCOS)のエマニュエル・ル・ロシュ(Emmanuel Le Roch)=ジェネラル・マネジャーは、「客足は前年の同時期と比べて30〜40%少なく、パリのほうが地方よりも状況が悪い。パリにはショッピングセンターが多く、それらがまだ休業中のためだ。一方で、来店した客の購買意欲は高い」と語る。
各店舗では、ソーシャルディスタンスの確保やマスクの着用、店内の消毒などの安全対策を講じての営業再開となったが、消費者もこれらを前向きに受け入れたという。高級百貨店のボン・マルシェ(LE BON MARCHE)では、入店可能な人数を10平方メートル当たり1人に制限した。また「ロエベ(LOEWE)」では、来店した顧客に販売員がトングでうやうやしくマスクを渡す光景が見られた。
ギャラリー・ラファイエットは、シャンゼリゼ通り店と地方にある店舗の営業を再開したが、オスマン通り店は引き続き休業している。傘下の百貨店BHVマレ(LE BHV MARAIS)も営業を再開した。同社によれば、休業する前と比べて客足は20〜30%少ないが、客単価はむしろ高くなったという。売れ筋は生活雑貨、子ども服、メンズのスニーカーなどで、アパレルの売り上げはそれほど回復していない。なお、同社のECでは最大50%引きのセールを開催中だ。
「グッチ(GUCCI)」「サンローラン(SAINT LAURENT)」「バレンシアガ(BALENCIAGA)」などを擁するケリング(KERING)では、地元の顧客を中心に予想以上の客足になっているという。フランソワ・アンリ・ピノー(Francois Henri Pinault)会長兼最高経営責任者(CEO)は、「パリの店舗では国外からの観光客が売り上げのおよそ半分を占めている。少なくとも1年程度はそれが戻らないことを覚悟しているが、雇用は維持するつもりだ」と現地メディアに語った。同氏はまた、「グッチ」のモンテーニュ通り店を訪問した際に、「営業を再開した店舗では予想以上の客足があり、日によっては前年の同時期より売り上げが増加している店もある。こうした現象がいつまで続くかは分からないものの、当社の傘下ブランドが地元の顧客にいかに愛されているかが証明されたと思う」と述べた。同社の販売員は、休業している間も顧客に電話をかけてコミュニケーションを取ったり、リモートでの新たな販売方法を検討したりしていたという。
「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」や「ディオール(DIOR)」などを擁するLVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON以下、LVMH)は、営業再開に関してコメントを差し控えるとした。しかし情報筋によれば、同社が擁するビューティ専門店チェーンのセフォラ(SEPHORA)ではオンラインで購入した商品を店頭で受け取るサービスを開始したことが奏功し、高いコンバージョン率になっているという。また「ルイ・ヴィトン」のシャンゼリゼ通り旗艦店では入店を待つ顧客の列が見られたほか、5月16日にはベルナール・アルノー(Bernard Arnault)LVMH会長兼CEOがマスクを着用した姿で同ブランドのヴァンドーム広場店を訪れ、店内を見回る様子が目撃された。
多数のフレンチブランドを取りそろえる小売店のレクセプション(L’EXCEPTION)は、「客足は休業前の半分程度だが、来店した顧客の購買意欲は高い。とはいえ、営業を再開したほかの店からは売り上げが50〜60%減少したという話も聞く。それでは店を維持できないので、これから数週間でいろいろ回復しない限り、フランスの小売業界は悲惨なことになる」とコメントした。
プロコスのル・ロシュ=ジェネラル・マネジャーは、「フランスではロックダウン中に貯蓄額が大幅に増加した。外出規制が緩和されたとはいえ、レストランや映画館はまだ閉まっているので、その分ぜいたくな買い物をしたいと思う消費者も多いはずだ。しかし『買い物をしたい』という欲求が営業再開後の1週間で発散されてしまい、その後は売り上げが落ちた国もあるので、今後の推移を見守りたい」と話した。