日本全国の医療機関で医療用ガウンやマスクの供給不足が深刻化する中で、アパレル企業や繊維商社などが医療用ガウンの生産を相次いで表明している。これは厚生労働省が補正予算として医療用ガウンやサージカルマスクなどで合計1100億円を計上したことを受けたもの。同予算の中で厚労省は9月をめどに医療用ガウンで4500万枚の供給を目指している。
厚労省は1100億円の予算の内訳は公表していないものの、医療用ガウンのほかはサージカルマスクを約2億7000万枚、N95マスクが約1300万枚、消毒液、フェイスシールドなどを想定している。
すでにワールド、TSIホールディングスなどのアパレル大手が医療用ガウンの生産を表明している他、繊維商社大手の帝人フロンティアは6月までに約900万枚、7月以降にはさらに1000万枚の供給を表明。国内の縫製工場にも生産を広げた上で、サイト上では医療用ガウンの型紙を公開し、協力を喚起している。
国内の縫製工場でも、業界団体の日本アパレルソーイング工業組合連合会(アパ工連)が音頭を取り、9月までに約140万着の供給を目指している他、経産省の地方組織である各地の経済産業局を通じて、中小の縫製工場も医療用ガウンを受注している。
アパ工連には管掌省庁の経済産業省が要請を行っており、医療用ガウンなどの医療物資が全国の病院や自治体で圧倒的に不足する中で、省庁を超えた協力体制をひいたことが、これまで医療用物資の生産とは無縁だったアパレル関連企業の参画にもつながった。
関係者によると「医療用ガウンはこれまでほぼ輸入に頼っており、世界で供給が逼迫し調達が難しくなっている中で、結果的に国内生産にも還流した」という。ある縫製工場は、「縫製技術としては難易度は高くなく、むしろ通常の婦人服に比べたら縫製工程は半分程度。帝人フロンティアが型紙を公開し、資材の調達を請け負っていたり、厚労省が細かな縫製の仕様を公開したことが受注につながった。アパレル生産の受注が激減する中で、一定の受注が見込めたことは大変厳しい経営環境の中で非常に大きかった」と指摘する。
ただ、医療用ガウンは織物用のミシンが必要であり、カットソーの縫製工場やセーター用のニット工場は、この恩恵を享受しておらず、縫製工場も経営状態には差があると見られる。