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「シャネル」がアイコンバッグと革小物を最大17%値上げ その理由とは?

 世界経済が壊滅的なダメージを受けている時にも、ラグジュアリー市場では値上げが行われている。中国ではラグジュアリーショッピングの再開とともに、いくつかのブランドが価格改定を行った。中でも、その幅が大きいのは「シャネル(CHANEL)」だ。5月10日には、翌日から大幅に価格が上がるというウワサがSNSで広まり、北京、上海、広州、杭州の店舗に客が殺到した。また、「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」も3月に3%、5月にさらに5%と、過去3カ月間で2度の値上げを実施した。

 「シャネル」は今回、ユーロ換算で5〜17%の値上げを行った。対象となったのは、アイコニックなチェーンバッグの“11.12”や“2.55”をはじめ、“ボーイ シャネル”“ガブリエル ドゥ シャネル”“シャネル 19”といった一部のハンドバッグと革小物(SLG)。シーズン商品のバッグと、プレタポルテ、シューズ、フレグランス、ビューティ製品は値上げを行わない。また価格改定は中国市場に限ったものではなく、数年前に設けた世界的な価格の一貫性を保つポリシーに従い、他の地域でもすでに実施しているか、もしくは今後行う予定だ。17%を超える値上げは、為替レートの変動を反映させたものになる。

 真の高級品を作るためには上質な素材や卓越した職人技などが欠かせないとはいえ、その価格設定は長年謎に包まれてきた。そして間違いなく、消費者の知覚価値が重要になる。その点、「シャネル」は「エルメス(HERMES)」と「ディオール(DIOR)」とともにピラミッドの頂点に君臨するが、消費者の認識はブランドごとに全く異なる。「シャネル」のバッグを所有することで分かるのは、豊かさ、シックで優れたセンス、健全な判断力、ファッショントレンドと融合したタイムレスな信頼性への評価といった、ラグジュアリー顧客が求める特徴が一つのアイテムの中で融合しているということ。もう一つの魅力は機能性で、非常に使いやすく、なおかつ丈夫である。これらは世界的な経済危機の中で2ケタの価格改定をした説明にはならないが、最も名高いラグジュアリーメゾンの一つにおける長年培われてきたブランド哲学と顧客からの献身と信頼への自信を物語っている。

価格は特別感とブランドの価値観を反映したもの

 「シャネル」に価格調査のための質問を送ったところ、企業としての素晴らしさを示す一例となるような迅速で前向きな回答を得た。まず今回の値上げは、世界中の消費を激減させた新型コロナウイルスによる休業の間に失われた収益の一部を取り戻すためではない。「今回の決定に現在の状況は一切関係ない」とし、むしろ値上げは現在進めている価格を見直す戦略の一環だという。同ブランドは通常、生産コストと原材料価格の定期的な上昇や為替レートの変動など、さまざまな市場の状況に応じて年に2回価格を調整している。値上げ幅の算出方法についての具体的な回答は得られなかったが、「『シャネル』のバッグの価格は、特別感だけでなく、私たちの価値観を反映させたものだ。『シャネル』のバッグを購入することは、名高い専門知識とフランスのデザイン、技術とクラフツマンシップを守るための揺るぎないこだわり、最先端の革新的な製品、そしてレザーなど原材料の確かな背景を伴う」と述べる。

 同ブランドは価格改定に新型コロナは関係ないと主張したものの、パンデミックの間接的な影響については次のように説明する。「私たちの工場やサプライヤーにとって厳しいこの時期に、彼らを最善の方法でサポートしていくことは『シャネル』にとって不可欠なこと。伝統と革新を兼ね備えた職人のノウハウは、大切にしなければならない。これは絶え間ない努力であり、アイテムの価格も彼らの卓越したノウハウを認めるものだ。この困難な時期においても、彼らにはユニークな職人として認められ続ける価値がある」。

 また、いかなる値上げも慎重に検討した上で実施されるものであり、ブランドがクリエイティビティーとクラフトの核となる水準を維持するために投資し続ける上で必要なものだと強調した。「他のラグジュアリーブランド同様、『シャネル』もサプライチェーンへの投資とサプライヤーの買収により、この上なく上質なレザーの供給を確保するための財政的な努力を行っている。これらの投資は、アイコニックなアイテムが長持ちすることを保証するとともに、顧客が期待する水準を維持するために不可欠だ」という。

 そして、そんな顧客は見識が高く、購入するあらゆるものに対してその背後にある価値を求めている。値上げに対するブランドの哲学的な正当化について尋ねたところ、「『シャネル』のバッグの価値と特別感は、多くの要素に基づいている」という。そこには、卓越したクリエイティビティー、レザーと装飾の素晴らしい素材、伝統的な職人技と革新的テクノロジーの融合、トレーサビリティーのための努力、古くからラグジュアリーレザーグッズの中心であるフランスやイタリアで生産されていることに裏付けられた品質などが含まれる。

アイコンバッグはプレタポルテにおけるジャケットと同じ

 それでも「シャネル」は、自分の購入するものをよく理解している顧客が“合理的”とみなすレベルの価格維持を模索している。「私たちの顧客は価格調整をよくチェックしていて、長年にわたり取り組んでいる(世界での)価格均一化のポリシーにも前向きな反応を見せている。彼らは『シャネル』のハンドバッグを買うとき、定番商品ではないとしてもそのデザインが本質的な価値を持ち、特別な感動を与えてくれると考えている。『シャネル』のレザーグッズにおけるこれらのアイコンバッグは、プレタポルテ・コレクションにおけるジャケットと同じであり、ブランドが誇る最上級のクラフツマンシップを表現したものだ」。その上で、同ブランドは信頼関係の構築が欠かせないとし、次のように説明する。「私たちは、ブランドのクリエイションが最高品質と究極のラグジュアリーというポジションにあり続けることにも細心の注意を払っている。そして、顧客の目と心の中で独自の地位を保ちたいと考えており、だからこそ希少性の高い素晴らしいアイテムを提供している。その全てが価値を高めている」。

JUN YABUNO:1986年大阪生まれ。ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションを卒業後、「WWDジャパン」の編集記者として、ヨーロッパのファッション・ウィークの取材をはじめ、デザイナーズブランドやバッグ、インポーター、新人発掘などの分野を担当。2017年9月ベルリンに拠点を移し、フリーランスでファッションとライフスタイル関連の記事執筆や翻訳を手掛ける。「Yahoo!ニュース 個人」のオーサーも務める。20年2月からWWDジャパン欧州通信員

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