新型コロナウイルスの感染拡大によりマスク、手洗い、顔洗いが肝要とされる昨今。資生堂が手指消毒液の生産を開始、花王が消毒液を増産するなどというニュースもある中、ビューティアイテムで急激に販売数が伸びているものがある。ハンドケアアイテムだ。消毒除菌作用だけでなく、頻繁に行うことで荒れてしまう手を健やかに美しく整えるハンドクリームの売り上げが好調だという。改めて、感染症に抗うことを前提に考えると、外出先でのハンドケアは必須であると思わされる。それも、このところ多くのメーカーから発表が相次ぐ、ポータビリティー性の高いアイテムに注目したい。
「シロ(SHIRO)」は4月、アルコール(エタノール)配合のハンドケアシリーズを矢継ぎ早に発表しSNSでも大きな話題を集め、5月には新製品も発売した。「ヴァイタルマテリアル(VITAL MATERIAL)」の小林陽輔KINGS ROAD代表は「自社EC以外に『オンワード クローゼット』で販売しているが、連日売上高、販売数ともに上位にランクイン。取り扱いがスタートしてからの約1カ月の間で数万本の販売実績が出ている」と話す。
今秋にも新型コロナの第二波が来るともささやかれる今、いわゆる自粛生活を余儀なくされた日々でどれほど“注目”されたのかを新製品を発表したメーカー各社に聞くと、これからのハンドケアが、美容における新たなスタンダードとなり得る存在であることが伺える。
目指すのは、50%以上のアルコール濃度で肌にやさしい処方
「ヴァイタルマテリアル」
「自然から生まれた植物を五感で感じて欲しい」との思いから誕生したブランド「ヴァイタルマテリアル」。2014年のデビュー時から展開するハンドジェルは、エタノール配合で、外出自粛要請が出される前から多くの反響があった。「要請前の2〜3月の2カ月間で例年の約5倍、要請後の4月7日からの約1カ月間で例年の約10倍の販売実績」と小林代表はいう。さらに、「ハンドケアのカテゴリは消費者がブランドスイッチしやすい商材と考えているため、ブランドとして特に注力してきた」。
とはいえ、除菌や消毒を最優先にすることで生じやすくなるのが肌荒れだ。「不活化効果が得られる50%以上のアルコール濃度でありながら、植物エキスや保湿成分を配合し敏感肌の方も使用できる処方組への変更を進めている」とし、発売以来、通年で売れ行きのいい主力アイテムの処方を変更しアルコール濃度を危険物にあたらないギリギリの59%まで増やす考えを示す。
「今回の新型コロナの流行以降、消費者の中でウイルスの不活化に対しアルコール濃度を気にかけられていると実感している」と述べる一方で、製品の製造についての課題もあるという。「今後、国内でのアルコール原料などに出荷制限がかけられ続けられた場合に備え、緊急措置としてイタリアのオーガニック工場と連携し生産・輸入を進めている」
新製品の情報解禁後、問い合わせが殺到
「シロ」
「シロ」は、アルコール成分を65vol%(体積あたりの濃度)配合した「チャクラーサナ ハンドリフレッシュナー」を4月2日に発売した。その背景には、こまめな手洗いと念入りな手指のケアが求められる昨今の情勢に加え、新型コロナについての情報が増えてきた中で、アルコール製品が不足している状況に不安を感じているといった顧客からの多くの声がある。また、より快適な毎日を送ってほしいという思いもあった。企画から約3週間というスピードで、「シロ」ならではのスキンケア効果を兼ね備えたハンドケアアイテムを発売した。
「シロ」PR担当は「自社工場での一部の製品製造を止め、アルコール製品の製造に注力。お客さまへ少しでも多く、速く製品を届けられる体制に整えるための策だった。結果、発売から数日のあいだに売り切れとなり、ハンドケアへの関心、アルコール配合製品への注目度の高さを改めて実感している」と話す。その後の4月16日には、アルコール成分の配合率を80vol%に引き上げた「ハンドリフレッシュナー 80(2種)」を発表。シリーズ全てのアイテムは依然として高い人気で、品切れ状態。未だ再販のめどは立っていないという。
毎日の暮らしが変化し続ける中、「店舗では、タッチアップの自粛など直接的な接触予防を継続。またレジへのパーテーション設置や会計時のカルトン使用の徹底など、感染拡大予防のための取り組みを強化していく」との考えを示す。発売から約20日間で、シリーズ全体の注文数はおよそ20万本に上った。さらに、5月15日には手肌の汚れをすっきりと落とし、心地よい香りを楽しめる2種の「クレイハンドソープ」を新たに発表し、予約の受付を開始。5月21日より、順次発送している。
清らかさがトップネイリストの考える美を支える
「ウカ」
2019年に発売した「ウカ(UKA)」ハンドケアシリーズの一つ「ネイル&ハンドミスト プレップ」は、平時のおよそ30倍もの売り上げ数を記録した。現在は欠品中だが、6月中旬の再販を予定しているという。エタノールを高配合するミストタイプで、手だけでなく爪も清浄にすることで健やかにキープする。ネイルカラーを行う前に油分を除去する、ネイリスト発信のアイテムだ。殺菌や抗菌、消毒など清潔に保つための要素はハンドケアアイテムには不可欠と思える今、こうした考えは今後のビューティにおける一つのスタンダードになってくるかもしれない。
小林麻衣ウカ広報も「これからは“清潔・消毒・除菌”が当たり前になり、素材やブランドにもこだわりが出てくるのではないか」との考えを示した上で、「性別や年齢に関係なく、除菌の後のハンドケアの需要は、今まで以上に高まるだろう」と述べる。「ウカ」は、夏にオーガニックハンドジェルを、さらに秋にはハンドソープの発売を予定しているという。
豊かな香りで包む、ファインフレグランスブランドの提案
「モルトンブラウン」
「モルトンブラウン」 (MOLTON BROWN)3種をセットにしたハンドクリームは、限定発売されるたびに人気となる商品で、4月30日に新たなセットを発売した。「今回の『ハンドケア コレクション』は発売日以前から問合せがあり、大変に好評をいただいている。5月売り上げランキングTOP5にはいる勢い」と藤本泉モルトンブラウンジャパン リージョナルマーケティングマネージャーは話す。
ハンドケアアイテムの他にバス&ボディー、フレグランスなどのカテゴリで構成する「モルトンブラウン」は、ファインフレグランスグランドだ。「豊かな香りで生活に彩りを与えていくことを大切にしている。今後も、モルトンブラウンの強みである香りを楽しむハンドウオッシュ、ハンドケアのキャンペーンを実施するなど、カテゴリを強化していく予定だ。危機管理から来るケアだけではなく、その行為が心をも豊かにするアクションにつながるような製品提供を行っていきたい」。
保湿しながら抗菌するハンドクリームで伝える、古より続く叡智
「オフィシーヌ・ユニヴェルセル・ビュリー」
ヨーロッパでは抗菌効果があるといわれる、ユーカリとやマヌカのエッシャルオイルや鎮静効果のあるスウィートオレンジのエッセンシャルオイルを豊かに配合した「オフィシーヌ・ユニヴェルセル・ビュリー」(OFFICINE UNIVERSELLE BULY)の「ドゥーブル・ポマード・コンクレット」。今年4月の売り上げは前年比約2倍だったことについて、前田亮介 オフィシーヌ・ユニヴェルセル・ビュリー ジャパン ゼネラルマネージャーは、「抗菌効果のあるエッセンシャルオイルを用いた製品という点がコロナ対策として大きな伸びに繋がった」と分析する。
ブランドが古よりフランスを代表する美容専門店だったことを思い出させるこのハンドクリームは、創業当時よりシンプルな製法を現在まで貫く数少ないアイテムの一つで、優れた保湿効果で人々の手足を守り続けてきたハンドクリーム「ポマード・コンクレット」とともにブランドのアイコン的アイテムに掲げる。
渡部玲:女性誌編集部と美容専門の編集プロダクションに勤めた後、独立。2004年よりフリーランスの編集者・ライターとして雑誌やウェブなどの媒体を中心に活動。目下、朝晩のシートマスクを美容習慣にして肌状態の改善を目指している