ファッション

新型コロナで増える法的悩み 「業界特化型の法律相談窓口」活用のすすめ

 東京都では新型コロナウイルスの感染者数が1ケタになる日も増え、政府は今日(5月25日現在)にも緊急事態宣言を全国的に解除する方針で検討に入った。“アフター・コロナ、ウィズ・コロナの世界”における戦略を考え始める企業もある一方で、緊急事態宣言下において休業要請対象に指定されなかった業界・業種については、今がまさに生き残れるかどうかの正念場という企業も多いだろう。ファッション小売りも休業要請対象外となった業界・業種の一つだ。

 そんな状況下において、新型コロナウイルス関連の法律相談も増えているという。ファッション業界のクライアントを多く抱える小松隼也弁護士(三村小松山縣法律事務所)によると、「新型コロナウイルスでM&Aや出資などの案件がストップしたといった相談は多い。また、海外のショールームや工場とブランド間の契約問題も多くなっている」と話す。ファッションローに詳しい海老澤美幸弁護士(三村小松山縣法律事務所)も、「会社側からも労働者側からも、労働関係の相談が増えている。解雇や雇止め、休業補償に関する相談や、雇用調整助成金のような制度に関する質問も多い」と続ける。

 ファッション小売りと同様に、休業要請の対象に含まれなかった美容室・理容室の関係者の悩みも深刻だろう。新型コロナウイルスを契機に複数の弁護士が有志で立ち上げた弁護団「美容室と美容師の法律相談室」では、5月末まで無料で法律相談を受け付けると発表した。同団体は、5月8日から先行して電話とメールで相談の受け付けを開始し、12日からLINEやウェブサイトなどを用いた法律相談窓口サービスを本格的に始動した。5月22日現在、「LINEの友達登録は60件程度、実際の相談は数十件程度寄せられており、雇用や業務委託、資金繰りや補助金、新規ビジネスに関することなど、幅広く相談が寄せられている」という。

業界特化型の無料相談窓口の利点

 日本弁護士連合会や、個別の法律事務所が独自に無料相談を受ける取り組みは以前から存在するため、そこに新規性はない。しかし「美容室と美容師の法律相談室」のように特定の業界に絞ることで業界特有の事例が集まりやすくなり、専門家側としてはノウハウの蓄積が容易になって、相談者としてはより実態に沿ったアドバイスをもらえる可能性が高くなるなど、双方にとってメリットがある。

 またファッションやアートの分野でも、弁護士が有志で集まり相談窓口を開設している団体は存在する。いずれも新型コロナウイルス問題以前から活動している団体だ。

 「ファッションロートウキョウ(FASHIONLAW.TOKYO)」は、海老澤弁護士が立ち上げたファッション業界関係者のための法律相談窓口だ。18年1月にスタートし、業界関係者が気軽に相談できる“シェルター”としての機能を果たすことを目指している。初回の法律相談は無料。19年からは小松弁護士も共宰として参加することで情報量が増えるだけでなく、海外案件まで広く対応することが可能になった。

 クリエイターやアーティストに対する法的な視点からのサポートを標榜しているのは、04年に発足した「アーツ&ロー(Arts and Law)」だ。作家とギャラリーの間の契約問題や、知的財産に関する相談など、アートに関連する法律相談を以前から無料で受け付けているが、現時点では新型コロナが原因となる相談は特段来ていないという。なお、同団体に所属する馬場貞幸弁護士(法律事務所エイチーム)は、「個人的には、事業や活動の停止や縮小に伴って今後は権利関係や契約関係の相談が出てくるのではないかと考えている」と話す。

 フリーランスに代表される個人事業主や中小企業が多いファッション業界や美容業界、アート業界では、何か問題が起きるまで弁護士とのコネクションがないことも多い。また、国内に約4万人いる弁護士の中から自分と合う弁護士を探そうにも、費用の点や心理的な敷居の高さから気軽に探し回ることも難しい。上に紹介したような無料相談などを通じて、困ったときにすぐ相談できる“かかりつけ弁護士”を探すのも一つの手と言えるだろう。

YU HIRAKAWA:幼少期を米国で過ごし、大学卒業後に日本の大手法律事務所に7年半勤務。2017年から「WWDジャパン」の編集記者としてパリ・ファッション・ウイークや国内外のCEO・デザイナーへの取材を担当。同紙におけるファッションローの分野を開拓し、法分野の執筆も行う。19年6月からはフリーランスとしてファッション関連記事の執筆と法律事務所のPRマネージャーを兼務する。「WWDジャパン」で連載「ファッションロー相談所」を担当中

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