新型コロナウイルス感染拡大の影響で、世界中で不透明な状況が続いている。そんなときに、ファッションは何ができるのか。生産者から販売員まで業界全体が不安を抱えている状況に、ファッションデザイナーたちは何を思うのか。日々変化する状況に対応しながら、それでもファッションの力を信じ続けるデザイナーたちの声を連載で紹介する。今回は、コスチュームデザイナーとしてさまざまなアーティストの衣装を手がける傍、2020年度「LVMHプライズ」のファイナリストにも選出された「トモ コイズミ(TOMO KOIZUMI)」の小泉智貴デザイナーが登場。
TOMO KOIZUMI
小泉智貴
Q. 不安が続く状況下で、ファッションデザイナーが人々にできることは?
“ファッションデザイナーができること”ではなく、自分自身ができることは何かを考えて回答したい。「トモ コイズミ」には、一般向けのデザインがなく、皆さんに着て楽しんでもらうことはできていない。「LVMHプライズ」への挑戦をきっかけに、そういったデザインの制作も構想していたが、現在のような状況下であらためてそのことについて考えている。
私が今まで行っていることは“見て楽しむファッション”で、実際には着ることができないけれど、ファッションの美しさや楽しさを雑誌やインターネット、または美術館などで見て感じてもらえることが1番の目的であり目標。しかし今回の危機をきっかけに、地球環境や“本当に必要なもの”について考える人が多くいると思う。また、現在はパーティなどイベントを開くことができず、着飾る楽しさを人と共有できる機会が減っている。そういった状況下で、直接の接触を必要としない、生産数が少ないので環境にも優しい、見て楽しむファッションの需要が増えいくかもしれない。自分にできる最大限のことは、そういった方法でファッションの楽しさや喜びを世界中の人に届けていくことだと思う。事態収束後の世界で通用し、意味のある、新しい仕組みやモノ作りができるように準備していきたい。
現在は海外出張やイベントが延期になり、コラボレーションなどの打ち合わせも遅れが出ている。シリアスに考えすぎると気分が沈んでしまうので、今しかできないことをしようと、読みたかった本を読んだり、デザインのリサーチをしたり、刺しゅうやコサージュのテクニックの練習している。