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連載 小島健輔リポート

コロナ後の店頭販売はタッチレスのデジタル化が急務【小島健輔リポート】

 ファッション業界の御意見番であるコンサルタントの小島健輔氏が、日々のニュースの裏側を解説する。新型コロナウイルスによって提唱された「新しい生活様式」によって、小売店の接客サービスはどのように変わるべきなのか。

 アパレル業界を追い詰めた緊急事態宣言による店舗休業もようやく終わったが、アパレルの店舗販売がもとに戻るとは思えない。コロナの感染リスクは依然残るし、濃厚接触を避けて生活慣習や購買スタイルが一変してしまうからだ。

 店舗販売の魅力は(1)実品を試着して確かめられる、(2)ヒューマンタッチの接客が得られる、(3)品ぞろえ全体を一覧できる、(4)商品を持ち帰れる――以上の4点だが、コロナ収束後もこれらが魅力となり得るのだろうか。ひとつひとつ検証してみたい。

(1)実品を試着して確かめられる → 実質ショールーム

 実品の試着はフィットやサイズ、シルエットや着心地を確かめるのに不可欠だが、感染防止上は問題が多い。陽性者が試着したかも知れない服は感染リスクがあるから、一定期間隔離するか、紫外線(UH-C220〜260um)などで消毒しないと次の試着に使えない。事実、営業を再開した米国のギャップ(GAP)では試着室を使用禁止にし、返品された商品は24時間隔離してから売り場に戻している。

 隔離すればその間は試着に使えないし、不適切な紫外線などで消毒すれば焼けや変色という物性損耗も生じる。洗濯すれば消毒できるが、“商品”ではなくなってしまう。フィッティングルームも逐一消毒する必要があるから、利用後にアルコールで拭いたり紫外線ランプを照射することになる。

 かつては販売員が売り場で着用した商品を顧客に販売することは問題とされなかったが、2007年の「ピンキーガールズ(PINKY GIRLS)」事件(販売員が店頭で着用した服を新品として販売していたことが発覚して問題になった)を契機に、売り場で着用する商品は販売員に社販で割引購入してもらう業界慣習が定着した。近年はその購入費用負担が販売員の生計を圧迫し、高価格ブランドは外資系先導で新作品や制服を無償貸与・支給するようになった。高級ブランドのバッグなど、陳列商品はサンプルであって販売員が手袋をして取り扱い、購入する顧客には手垢の付かない新品をストックから出して渡す方式が定着している。

 そんな変化を顧みれば、コロナ後の接客販売では他の顧客が試着した商品は一定の隔離期間を置くか、殺菌消毒してから次の顧客が試着するようになり、高級ブランドバッグのようにお試し用のサンプルと販売用の商品を分けるようになっても不思議はない。売り場の陳列が試着サンプルだけになれば、もうショールームストアと何も違わなくなる。

 試着サンプルだけのショールームストアは理屈の上では合理的だが、試着用のサンプルをサイズを揃えて顧客の要望に応じてピックアップし、試着が終わったら検品し、必要なら再プレスして陳列かストックに戻すオペレーションは極めて煩雑だ。「ザラ(ZARA)」ではワンサイズ陳列型(他サイズは後方ストックから出し入れ)、「ジーユー(GU)」では全サイズ陳列型が実験されたが、いずれもオペレーションが複雑でかえって多数のサンプルや人員を要するなどしてうまくいかず、英国の「アルゴス(ARGOS)」などサンプルを置かないデジタルショールーム型以外は多店化に至っていない。

 隔離や殺菌消毒まで加わるとなると試着サンプルの運用はさらに煩雑になるから、試着のバーチャル化も進めざるを得ない。店舗販売の試着をデジタルでバーチャル化すればECと変わらなくなるから、実品の擬似フイッティングやリモートフィッティングなど、リアリティーをどう残すかが問われよう。

(2)ヒューマンタッチの接客が得られる → AI主導の店内リモート接客

 アパレルの接客ではソーシャルディスタンスは保てないし、フィッティングでは個人空間さえ保てず濃厚接触が避けられない。一般のサージカルマスク(飛沫拡散防止のBFE規格)や布マスクでは濃厚接触の感染防止は不十分だから、フェイスガードと接触感染を避ける手袋を装着する必要がある。

 防染力の高いPFE規格のマスクが望ましいが、サージカルマスクより1ケタ高価で大量入手も難しい。医療従事者用のN95を避け、中国規格のKN95などが選択されるのだろう。フェイスガードは意外と安価で供給も潤沢だから、多くの商業施設で見かけることになるはずだ。

 不要なおしゃべりや親密な接触は感染リスクを高めるから、一歩引いて必要な説明やアドバイスにとどめるしかなく、“おもてなし”というわけにはいかなくなる。マスクで顔の半分が隠れてしまうから、アイコンタクトでのコミュニケーションも必要になる。タブレットの小さい画面ではソーシャルディスタンスは保てず接触感染リスクもあるから、こまめに消毒するとともに、大型ディスプレーに映し出して接客するようになる。

 スーパーマーケットのレジのようにシールドフイルム越しに接客するわけにもいかず、フィッティングでは至近距離の濃厚接触が避けられないから、マスクとフェイスガードに手袋をしても感染リスクは払拭できない。何らかの店内リモート接客に切り替えざるを得ないのではないか。まさかそこまでと思われるかもしれないが、ワコールは強みとしてきたフィッティング接客が疎まれる可能性があるとして、顧客がセルフで3D採寸してタブレットで商品を選ぶ「3Dスマート&トライ」AI(人工知能)接客の導入を加速する。

 顧客としては店舗を絞り込まないで多数の店を買い回るリスクと手間は避けたいから、ウェブルーミング(事前にネットで品ぞろえや仕様を比較検討してから店舗を選択したり商品を取り置いたりする)の比重がますます高まる。ECやSNSの役割が以前にも増して高まり、ネットと店舗で顧客と在庫を一元管理・運用するOMO※1とC&C(クリック&コレクト)※2が必須となる。コロナ休業中に活躍したチャット接客やZoom、Teams接客など、リモート接客の仕掛けが実店舗に持ち込まれても不思議はない。

 不要な声掛けや接近はドン引きされるから、スマホの近接通信(NFC/Bluetooth)ログインでAIがエントリーを受け付けて商品をレコメンドし、AIが呼んだ販売員がソーシャルディスタンスを保って接客することになる。濃厚接触どころか直接的な接触も不可避なフィッティングは、基準トルソーやロボットトルソーによる擬似フィッティング(試着後の消毒も不要)、3Dカメラを使ったリモートフィッティングに移行するしかないだろう。

※1.OMO(Online Merges with Offline):ネットと店舗の垣根を超えた融合を意味し、モバイルフォンをキーツールとしてウェブルーミングとショールーミングを駆使するニューリテール戦略
※2.C&C:EC商品を店舗で渡したり店舗から近隣に宅配したり、店舗に取り置いてお試しや返品の利便を提供するOMOサービス

(3)品ぞろえ全体を一覧できる → EC連携の大型ディスプレイ

 ECではカテゴリーやアイテム、カラーやサイズ、トレンドやスタイリング、掲載からの時間経過や割引率などさまざまなファクターで検索・並べ替えが可能だが、実際の店舗のように品ぞろえ全体を一覧するのは無理がある。技術的には可能だが、スマホやタブレットの狭い画面に3Dで店舗の陳列空間を表現するのは非現実的だ。4K以上の大型モニターでないと実用性はないから、これだけは店舗販売のアドバンテージとして残ると思われるが、ECとテレビショッピングが融合すればアドバンテージを奪われる。

 空間の限られた実店舗では全てのオンシーズン商品を陳列できるわけではないし、ECのようにロングテールな旧シーズン品を置くスペースもない。現行商品や旧シーズンからの継続商品はもちろん、デッドストックのアーカイブ品まで自在に検索して一覧するには、ECと連携した大型ディスプレーによる3D表現が不可欠だ。

 ECと連携しての商品検索やレコメンド、商品情報や顧客レビューのディスプレイ表示はすでに一部のアパレル店舗で実現されているが、ECと同次元の単品表現とコーディネイトにとどまって品ぞろえは一覧できない。陳列空間の3Dモデリングは技術的には難しくないが、処理容量が大きく反応速度が問われるから、システムの処理速度に加えて通信回線かストアサーバのアップグレードが必要になるだろう。

(4)商品を持ち帰れる → C&C拠点化

 ECだと注文から入手までタイムラグがあるし、一定額未満の注文では送料も加算される。その点、C&Cによる店受け取りだと、店在庫を引き当てれば注文から1〜3時間後には受け取れるし、店から近隣地域(積み替えを要しない直行圏)に宅配しても、午後の早いうちの注文なら当日中に受け取れる。店受け取りなら送料は不要だし、近隣地域への店からの出荷も、運賃はハブ&スポークの全国区宅配業者の半額で済むから、政策的に無料にするか、無料となる注文金額のハードルを下げられる。同じ店受け取りといっても、「ユニクロ(UNIQLO)」のように店舗在庫を引き当てできず、EC専用の出荷倉庫から受け取り店舗へ配送している場合は、受け取りは翌日以降になる。

 C&Cを効率的に運用するには、地域の核となる大型店舗を物流と修理加工の拠点として在庫を積み、周辺店舗にルート便で補給して在庫を適正化あるいは店舗をショールーム化し、物流のタイムラグとコストを最小化して顧客利便と在庫効率を最大化する。そんなテザリングの仕組みもコロナ前は店舗家賃の高止まりで広がらなかったが、コロナ後は“3密”回避の入店制限で販売効率が下がり、家賃水準も見直されて大型店舗のデザリング拠点化も進むと思われる。

 大型商業施設デベロッパーの理解が進まないようなら、ファッションテナントの生活圏商業施設シフトが始まるかもしれない。店舗売り上げにEC受注品の店渡しと店出荷が加われば販売効率がかさ上げされ、周辺店舗への補給拠点ともなるからだ。

 店舗は販売だけでなくEC商品の受け取りやお試し、返品、店出荷というC&C拠点、大型店舗は近隣店への補給とローカル出荷の拠点という役割も兼ねるようになり、小型店舗はサンプル陳列のショールーム兼C&Cサービス拠点となるだろう。

決済はキャッシュレスとタッチレスが必須となる

 決済は店舗販売の必要悪で、ECに比べれば手間もかかるし感染リスクもある。現金の受け渡しはあまりに危険だからキャッシュレス化が急速に進み、クレジットカードやポイントカードの受け渡しや暗証番号入力も疎まれるからタッチレス決済に移行する。スマホの操作を要するコード決済より格段にスピーディーな近接通信(NFC/FeliCa/Bluetooth)決済、あるいは生体認証と画像解析AIによる自動精算が当たり前になるのに時間はかからないだろう。

 レシートやクーポン券などペーパーを手渡すのも感染リスクがあるから、プリンターを顧客側に向けて出力するか、近接通信でスマホに送ることになる。ショッピングバッグもエコではないし、手渡せば感染リスクがあるから、レジ前に置いたショッピングバッグにセルフで入れてもらうか、顧客のエコバッグに自分で入れてもらうことになる。セルフ化における防犯は、決済時にRFID(無線電子タグ)を自動で読み込んでストアサーバで売り消し、出口の床センサーで検証する方式が主流になるのではないか。

 感染防止対策も加わり、試着サンプルだけの陳列と擬似フィッティング用のロボットトルソー、AI装備のタブレット端末や大型ディスプレイが並び、フェイスガードとマスク、手袋で防護したスタッフが距離を取ってリモート接客するアフターコロナのアパレル店やランジェリー店は、いったい何屋に見えるだろうか。

小島健輔(こじま・けんすけ):慶應義塾大学卒。大手婦人服専門店チェーンに勤務した後、小島ファッションマーケティングを設立。マーケティング&マーチャンダイジングからサプライチェーン&ロジスティクスまで店舗とネットを一体にC&Cやウェブルーミングストアを提唱。近著は店舗販売とECの明日を検証した「店は生き残れるか」(商業界)

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