伊勢丹新宿本店が30日、全館営業を再開した。営業再開は首都圏に「緊急事態宣言」が出された4月7日以来、52日ぶり。売上高日本一を誇る同店のオープンともあり、開店時間(11時)の前から長い列を作った。緊急事態宣言の解除後の初の週末ということもあり、食料品売り場から上層のファッションフロアに至るまで多くの客でにぎわった。
午前9時50分 仕事に戻る喜びと緊張が入り混じる従業員
本館裏側の従業員通用口に従業員たちが長い列が作っていた。従業員に対しても手指の消毒と、サーモグラフィーカメラで検温を実施している。同社広報によると、従業員同士の「密」を避けるため、シフト制で出勤率を低くしているという。従業員からは久々に仕事に戻れる喜びと緊張感が伝わってきた。
10時10分 店長が決意表明「現場に耳を傾け、新しい販売の形を探る」
田中哲・伊勢丹新宿本店長が報道陣を前に、再開後の営業方針や抱負を述べた。強調するのは、店舗中心の考え方の脱却だ。「今後はデジタルでも変わらぬ体験や雰囲気を味わってもらえることが大切になる」。一方で感染リスクと隣り合わせになる接客については、営業を続ける中で適切な形を模索する。「お客さまと従業員の安心安全が最優先だが、かといって(接客の)すべてがダメとしてしまうのも違う。販売員たちは自分たちの好きな販売の仕事ができる日をウズウズして待っていた。お客さまのニーズも自粛前とは変わっている。現場のスタイリスト(販売員)の声に耳を傾けながら、新しい形を探っていきたい」。
10時30分 オペレーションを最終確認 緊張高まる売り場
開店時刻が近づくにつれ、現場も慌ただしくなってきた。全13箇所の出入り口のうち、この日入場可能としたのは、地上1階と地下1階合わせて3カ所のみ。地下1階食品売り場では、開店時間の前倒しもありえる中、荷解きや陳列に追われているところもある。フェイスシールドを付けた従業員が顔を見合わせながら、身振り手振りでオペレーションを確認する。リーダーは大きな声で最終確認事項を伝える。「フェイスシールドやマスクによって私たちの声はお客さまに伝わりにくい。身ぶり手ぶりや目元の表情に、いつも以上に気をつけよう」。
11時 混乱なく進む入店 検温、消毒抜かりなく
定刻どおりの開店となり、入り口付近の従業員は入店客一人ひとりを誘導し、サーモグラフィーカメラでの検温と消毒を経て店内に招き入れていく。マスクの着用のない客には1枚50円で販売し、売上金は全て赤十字社を通じて医療現場支援などに充当するという。客の入場は数回に分けて行われ、目立った混乱や滞りもなく進んでいった。
11時30分 化粧品、ファッション売り場にぎわう 一部で入場制限も
開店から30分が経過。2階の化粧品フロアや上層のファッションフロアはすれ違いに窮屈さを感じるほどではないものの、すでに多くの客でにぎわっていた。化粧品売り場のカウンター席はほぼ満席。タッチアップや試用は禁止し、テスターにはビニールが掛けられている。3階婦人服の自主編集フロア「リ・スタイル」は一度に入れる客数を10人に制限。販売員は1時間に一度、手を洗う。試着室は都度消毒し、試着した服にはスチームを当てる。買い物をした30代の女性は「外出自粛の生活が長かったので、キラキラしたものに触れたくて伊勢丹にきました。でも(コロナの)第2波も心配。買い物は手短に済ませます」と話した。『ハイク(HYKE)』のワンピースを購入した女性(40代)も、「休業中はECで目星をつけ(館の)再開を待っていたけど、感染が怖いのでもう帰ります」と足早にフロアを後にした。
午後0時 春物残る売り場 販売員も販売手法を模索
一通り取材を終えた記者はメンズ館へ向かった。メンズ館は1階の入り口を封鎖しており、進入経路は本館の連絡通路からのみ。「アクネ ストゥディオズ(ACNE STUDIOUS)」「マルニ(MARNI)」など国内外のコンテンポラリーブランドをそろえる2階「メンズクリエーターズ」は比較的にぎわっていた。記者が商品を眺めていると、遠巻きに見ていた販売員がやや距離を詰めながら、薄手のジャケットを薦めてくれた。「まだこの時期は少し肌寒い日もあれば、今日のような暖かい日(当日は平均気温27度)もあります。脱いでたためるジャケットは非常に重宝しますよ」。コットンとシルクの混紡で、カジュアルすぎず使える点もポイントだという。売り場のセール品は一部にとどまり、まだプロパー(正価)の春物もたくさん並んでいる。そのような状況の中、販売員も接客手法やアピールポイントを模索しているようだ。
0時30分 新宿通りにも多くの人出
正午を過ぎると新宿通りにも多くの人出があった。伊勢丹新宿本店は平時の土日であれば、1日10数万人が来店する。客と従業員の安全を保ちながら、しばらくは手探りが続きそうだ。