緊急事態宣言が解除され、休業していた店舗が続々とオープンし始めている。しかしオープン後もコロナ前のようにはいかない。新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、人の密集や密接を回避するための対応が求められている。そのためのサービス開発を進める企業の1つが、クレストだ。同社は街中や施設の看板、サイネージ、ウインドーディスプレイの製作施工を手掛ける“看板屋”として1983年に創業。現在も同事業を軸にしつつ、カメラを使った店舗解析システムの提供などを行っており、直近1年間のクライアント数は約800社、うち4割がアパレル企業だという。そんなクレストはこのほど、店舗内の混雑状況をデジタルサイネージ上やサイト上で知らせるサービスをスタートした。新たに開始した2つのサービスから、同社が考えるアフターコロナに向けたリアル店舗の在り方まで、阪本治彦・取締役兼リテールテック事業部長に話を聞いた。
クレストのリテールテック事業では、店舗前のディスプレイやマネキン、VP(ビジュアル・プレゼンテーション)がどれほどの人に見られているかを計測・解析し、店舗・企業側にデータを提供する。「“見る”という行動はお客さまが購買する前のデータ。当社は店舗の前を何人が通り、何人が入店したのか、店舗の中をお客さまはどうやって歩いているのか、という行動データを取得し、店舗の売り上げ向上を助けている」と阪本取締役は説明する。そのデータを取得するために用いているのが、カメラ型センサーの「ゾービス(Xovis)」と「エサシー(ESASY)」だ。どちらもクレストが販売代理店を務めている。特に主力製品である「ゾービス」はもともと、スイスで空港に設置するために開発されたものだが、アパレル店舗などにも応用が可能だという。「来店客が商品棚のどこに注目しているのか、99%の精度でリアルタイムで識別できる。『エサシー』はより簡易的なモデルで、入門的な立ち位置だ。当社で作成したダッシュボード上では、それらのカメラで取得したデータを用いて、いつのタイミングでどの棚の注目度が高かったのかや、来店客が多いのは何時ごろか、といったことが分かる」と語る。
取得したデータは実際にどのようにして活用できるのか。「あくまで一例だが、店舗のディスプレイなどのABテストが行える。単に入店数で計算するのではなく、店舗前の交通量も加味して入店率を測っているため、正確な計測が可能だ。実際に効果を上げている企業もいる」と阪本代表。さらには販売員の配置などにも効果的なようだ。「入店数を測ることによって、来店客がピークの時にエース級の販売員を配置するなど、最適なシフトが組める」。
コロナ禍で立ち上げた混雑状況の把握サービスは、主力商品である「ゾービス」を活用したソリューションだ。1つの入り口につき「ゾービス」を1台配置することで、入店者数を来店者数をリアルタイムでカウントし、混雑状況をデジタルサイネージやサイト上で知らせる。同システムは現在、ホームセンターチェーン「カインズ」の浦和美園店に導入されており、アパレルをはじめ、複数の企業にアプローチをしている。「例えば飲食店などでも、カメラでお客さまの導線を全て把握できるため、座席の配置などにも活用できる。個人的には、小規模・中規模で、混雑状況を整備する人手がない店舗に向いたサービスだと考えている」。
「アフターコロナのリアル店舗では、店舗の状況を客観的に見られるデータの重要性はさらに増すだろう」と阪本部長は予測する。「『これはコロナのせいだ』と言われている物事も、データを見ると実はコロナのせいではない、ということもある。感覚ももちろん大事な一方で、データがないと惑わされてしまうこともある。そういった意味で、人の感覚を補完するためのデータはあった方がいい。今後、コロナが去った後も同様のことがいつ起こるか分からない。その時に平常時のデータと緊急時のデータを比べ、判断を下すなど、さまざまな手法を取ることができる。常日頃からデータを取得していく必要性は増していくはずだ」。