コーセーは、実店舗の販売スタッフがメイクやスキンケア商品の紹介画像を投稿できるアプリケーションサービス「スタッフスタート」を、総合美容情報サイト「メゾン コーセー」に導入した。同アプリケーションサービスはこれまでアパレル業界で800以上のブランドで活用されているが、化粧品業界では初めてだ。新型コロナウイルス感染拡大を受け、一時的に百貨店など商業施設は休業に追い込まれて、販売員や美容部員は自宅待機を余儀なくされた。緊急事態宣言が解除となり商いは再開されたが、以前に戻るというわけではない。新しい日常を模索する中で、販売やマーケティング方法も変わっていく必要がある中で、コーセーはなぜ「スタッフスタート」を始めたのか。これからの期待についても、同社の杉崎洋デジタルマーケティング戦略部ダイレクトビジネス課課長に聞いた。
WWD:導入しようと思った経緯は?
杉崎洋デジタルマーケティング戦略部ダイレクトビジネス課課長(以下、杉崎):実は新型コロナとは関係なく、約1年前から構想していたことだ。昨年12月に東京・銀座にオープンした弊社のブランドを横断して集積するショップ「メゾン コーセー(MAISON KOSE)」と同名のウェブサイトの立ち上げを機に、目玉コンテンツとして考えていた。
WWD:なぜBC(ビューティ・コンサルタント)の活用なのか?
杉崎:来店してもらえば、接客でさまざまな情報をお伝えすることはできるが、今の時代、多くの人が店舗に行く前にいろいろ情報収集している。BCの知識は、SNSなどの一般の方の口コミよりはブランドについても商品についても詳しい。一方で、美容ライターさんやインフルエンサーたちよりは身近な人だ。そういった人の情報が求められているのではないか。ちょうどいいレベル感がBCだと思った。
WWD:今回、バニッシュ・スタンダードが手掛けるアプリケーションサービス「スタッフスタート」との取り組みだ。同サービスは、アパレル業界とはすでに800件以上もが提携する。
杉崎:実は10年ぐらい前にこういったことができないかと考えていた。ただスタッフを出すというのが難しく断念していた。アパレル各社が「スタッフスタート」を導入していることは以前から知っており、化粧品でもできないかと思っていた。アパレルで実績があり、投稿した記事のパフォーマンスを瞬時に把握できることが魅力だった。
WWD:参加しているBCはどういう基準で選んでいるのか?内容への注文はしているのか?
杉崎:現在、全国に約3000人いるBCから数十人が参加している。その人たちは、昨年、一昨年にBCの全国表彰で選ばれた方にお願いしている。最初なので、主力製品を中心に投稿してもらっているが、内容に関しては特に指示しておらず、義務と感じてしまうと楽しいコンテンツになっていかないと思っている。ただ前向きになれるような投稿を意識してもらっている。今はマスクをすることが日常となり、目元メイクなどが注目される。今後はシーズンなどをうまく投稿にも反映させていきたい。
WWD:BCさんの顔出しというのは、社内でも議論があったのではないか?
杉崎:その通りで、10年前であれば絶対あり得なかった。ただ時代が変わり、SNSなど個人が情報を発信することを含めさまざまな情報が行き交う中で、リスクが平準化されたと感じている。会社、BC共にていねいに説明した。基本は顔は出すが、ショップ名は出さず、ニックネームでの記載だ。
WWD:化粧品であるゆえに難しい点はあったか?
杉崎:アパレルと違うのは、化粧品には薬事法があるということだ。一般の人が使った感想を言うのは問題ないと思うが、われわれは企業として薬事法を守らなければならい。なので投稿内容は一度確認することにしている。だからこそ信頼性のあるBCからの情報を提供している。
WWD:始めてみてどうか?販売にはつながっているのか?
杉崎:まず、このように取材依頼などで声が掛かることが多く、反響があると感じている。始めたのが、新型コロナ感染拡大の影響でおうち時間が長くなっているタイミングでもあり、ニーズがあるのではないかと期待しているし、自宅待機を余儀なくされているBCにとってもモチベーションアップになっているだろう。販売はまだ始まったばかりで、これからだと思う。心をつかめるコンテンツが重要だろう。
WWD:このサービスをどう発展させる?
杉崎:現在サービスはBCのおすすめアイテムを投稿して、どういった使い方がいいかなどを発信している。新型コロナにより、化粧品各社ではチャットカウンセリングが盛んになってきている印象だ。弊社としても、もっとリアルタイムでBCからお客さまにお伝えすることも必要だと感じている。また、今後は動画で簡単にテクニックを表現することもできるのかもしれない。さらに現在は、商品からつなげてBCの投稿が見れるようになっているが、今後はブランドの世界観を発信できるような環境づくりも必要だと思っている。
また、これは新型コロナよりも前から思っていたことだが、まずはスターBCが出てくることが一つのゴールだろう。ゆくゆくはインセンティブも考えたい。そうなることでスターBCに人が集まっていくるのではないか。こういうのが得意なスターBCが誕生すれば、店頭の接客だけではない評価基準を作っていきたいと考えている。
WWD:将来像は?
杉崎:もっと全国のBCに参加してほしいと思う。北海道のテクニックが沖縄の人に響くのではないかと思うし、また逆もあるだろう。今のところ同サービスでお客とのやり取りは発生しないが、会社としては、こういったサービスが日常になり、普通に出勤するのように、投稿する。これが当たり前になってくると面白いだろう。