ファッション

客単価倍増にSNSでの口コミ拡散 老舗タオルメーカーが見出したZoom接客の可能性

 Zoomをはじめとするビデオ会議・通話サービスを用いた接客手法は、コロナ禍での店舗休業中の一時的な対応策のようにも思われた。しかし、政府の緊急事態宣言が解除され、店舗が再びオープンした後も、この接客手法を続けている企業がある。今治タオルの中でも、環境と安全に最大限に配慮したモノ作りを行っている老舗タオルメーカー「イケウチオーガニック(IKEUCHI ORGANIC)」だ。同社は4月25日から“オンラインZoomストア”と称してZoomやFaceTime、ビデオチャットなどでの接客をスタート。5月25日に店舗を再びオープンしてからも、“オンラインZoomストア”を継続している。「イケウチオーガニック」が、店舗営業再開後もZoom接客を続けるのはなぜなのか。“オンラインZoomストア”を率先して実施してきた益田晴子ストアマネジャー兼京都ストア店長に話を聞いた。

 「イケウチオーガニック」は4月12日までに東京、福岡、京都の全店舗を休業。電話やメール、SNSのDMなどでの接客対応にシフトしていた中で、アパレルメーカーの「オールユアーズ(ALL YOURS)」のZoom接客を参考に、“オンラインZoomストア”をオープンした。「電話やメールなどで対応はしてきたが、お客さまからも顔を見て話したり、商品を見たりしたいといった要望が多かったため、何かできないかと考えていた中で、Zoomを使った接客に至った。コロナ以前から今治の本社と東京のオフィスや各店舗で、Zoomを使った会議をしていたため抵抗はなかった」と益田店長は経緯を話す。

ポイントは「共通言語をどこまで作れるか」

 そうして始めた“オンラインZoomストア”は主に、土曜と日曜、1組40分~1時間を目安に1日5~7組を接客(店舗再開後は1日2組)。当初は益田店長が1人で担当をしてきたが、傾向や問題点をある程度把握し、既に東京店、福岡店の店長も“オンラインZoomストア”に参加するべく準備を進めているという。「共通言語をどこまで作れるのかは大きい。既に当社のタオルを使っているお客さまの場合は、品番をお伺いしてそれよりも柔らかいモノ、硬いモノといったオススメの仕方をしている。まだ当社の製品をまだ知らないお客さまに対しては、誰もが想像できるようなモノに例えるように努めている」と語る。

 また、商品がタオルであるという特性上、接客の際は相手の暮らしについて尋ねることも多いという。「タオルは日常的に、あまり意識されることなく使われるモノ。そのため『どんなタオルが好き?』と聞いても、明確な答えが出てくることは少ない。『柔らかいモノがいい』と言っても、人それぞれで心地よい柔らかさが違うこともある。小さい頃からどういうタオルを使って過ごしてきたか、といった暮らしの話を聞くことも多い。気が付いたらお客さまから人生相談を受けていたこともある(笑)」。

 肝心の反響はどうなのかというと、いずれの日も予約枠は埋まっており、客単価は店舗での接客を受けた来店客の約2倍に昇る。そのほか、ユーザーのニーズやオンラインストア(EC)の不具合や不足点の洗い出しにも活用できているという。ユーザー層の変化も特徴的で、当初は「イケウチオーガニック」のもともとの顧客が中心だったが、SNSでの口コミなどを受けて、徐々に新規客が増加していった。「私たちがお客さまの家にお邪魔しているような感覚で、今使っているタオルを見せてくれたり、タオルが置いてある洗面所までカメラで見せてくれたりと、初めてのお客さまでも結びつきが強くなる。代表の池内(計司)も時間が空いている時に接客に参加するので、VIP感があるという声もいただいている。また、タオルという、日常では意識することのないモノについて40分~1時間、接客を通じて考えることに特別感を感じてくれているようだ」と分析する。

 緊急事態宣言が解除された後も、来店客が映りこまないように工夫しつつ、“オンラインZoomストア”を続けている。「東京や福岡、京都の店舗のほかに、“Zoomストア”という新たな入り口が一つできたような感覚。その入り口は開けておくことができるのであれば、常に開けておきたい。現在は予約の仕方や取り方をよりスムーズにできればと考えており、お客さまにカルテを事前に書いてもらうことなどを検討している」と益田店長。

 「オンラインでも、オフラインでも、お客さまとの関係においては“人”が大切。私たちとしては『この人が勧めてくれたモノを買いたい』『この人のオススメなら、安心して買える』と思ってもらえるよう、お客さまに寄り添いたい。今後もお客さまが気持ち良いと思ってくださるタオルを届けていきたい」。

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